アクリル

Open App

何でもないフリ

気の迷いだったよ
予感のようなものだったよ
きっといなくなりたくなるだろうなあだなんて。

お互い、踵を返し切れないこと
察し合っていたよ
後ろ髪があってよかったね、引かれるものがあってよかったね
惹かれるものを持っててよかったね
お互い素敵な人でよかったね

沢山の対話があったね
大事な言葉を幾つも貰ったよ
棺桶にも入れたいプレゼントだよ

あなたは心の専門家なんだったね
いくらでも解ろうとしていたね
豊富な知識を駆使して
機微を両手で掬うあなたの眼差しと
慎重に受け取る声が大切だったよ

包まれる勇気がなかったの
変化を待つあなたのあたたかさと余裕に
申し訳なくなってしまったの
もう少し時間が必要だった

ある日あなたは泣き出してしまった
境界が溶けたせいで
私が深層に詰めて隠していた
タールのような恐れが 
あなたを傷つけてしまった

今度こそ
あなたの差し出した慈愛に対峙したい
それを今しようとしてるよ

もう隠さない、素振りなんて、あなたに言われた通り
全部出してしまおう
キャラクターもレッテルも
持ち続けるだけあなたが苦しくなる。
余裕を演出できるほど私は強くない。

きっと、そんな弱いくらいが本当は強いと
あなたは真っ直ぐに言うだろうから。

逃げる為に閉じて
鍵までかけたドアを開けた。

「ただいま」

優しくて聡明なあなたは怒らない。
全部伝わってるよ、と綺麗な目で語る。

「うん、おかえり」
「もう守るために隠さなくていいからね」

12/11/2024, 4:29:02 PM