RAKT

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10/4/2025, 11:26:19 AM

夜の十時を過ぎたころ、玄関を激しく叩く音で目が覚めた。

こんな時間に誰だ、と訝しみながらドアを開けると、そこに立っていたのは幼なじみのAだった。

血の気の引いた顔、シャツの袖にべっとりと赤黒い染み。

思わず小さく悲鳴を上げて、一本後ずさってしまう。  
いくら幼なじみと言えどーー

「お願い……今日だけ許して。明日になったら、全部話すから」

その声の弱さに、決心がついた。

突き放すことなんてできなかった。

Aを部屋に招き入れ、シャワーを貸す。

不気味だった。何があったんだろう。
明日になったら話すーー
明日まで、待てるだろうか。

静かな夜。窓の外の街灯の明かりが、不気味に揺れて見えた。



しばらくして、スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、息が止まる。――A。

受話器から聞こえてきたのは、確かにAの声だった。
「お願い。絶対に入れちゃだめ。外にいるのは私じゃない」

思わずソファを振り返る。そこにいたのはシャワーから出た、Aの姿があった。

「どうしたの?」
素直に言えるはずがない。
「ううん、ちょっと仕事の話」

そのとき、窓が叩かれた。
カン、カン、と乾いた音。

外にも、もう一人のAが立っていた。血に濡れ、必死に何かを訴えている。

中のAか、外のAか。

どちらが本物なのか。

どちらを許すべきなのか。



朝になったとき、部屋には誰もいなかった。

ソファは乱れ、床には濡れた靴跡が続いていた。

玄関の外へ伸びるそれは、途中で途切れて消えている。

自分がどちらを選んでいたのか……
こんなことが起きたら、注意して下さい。

10/3/2025, 11:35:17 AM

霧が街を覆い、路面電車の光だけがぼんやりと通りを照らしていた。

彼は一人、石畳を踏みしめながら言った。
何かイヤな気配がしたのだ。

「誰かいる…?」

答えは返ってこない。

だが、背後の霧の中で微かな足音が重なる。

振り返ると、そこには誰もいない。ただ、壁に映る自分の影がひとつ増えていた。

思わずその場から、逃げ出していた。
あの足音は何?影は何?
考えると、鳥肌が止まらない。
確実に何かがいた。

スマートフォンで街の防犯カメラを確認すると、数秒前まで映っていた人影が、今は画面の中でじっとこちらを見返している。

胸が早鐘を打っている。背筋に冷たいものが流れた。

「誰か…じゃない、あれは自分…でも、違う。」

足音は徐々に近づき、霧の向こうで低い声が囁いた。

「ずっと見ていたよ、君が来るのを」

その瞬間、街の光が全て消え、ただ一人、霧の中に溶けた影と向き合った。

どっちが自分だったのだろうか…
誰か、教えて下さい

10/2/2025, 11:07:40 AM

灰色の空が落ちてきそうな、廃墟の都市をひとりで歩いていた。

崩れたビルの谷間は無音で、風すら息をひそめていた。
不気味さだけが、静かに漂う。



だがそのとき、微かに届いたのは、乾いた「足音」。
その場にいるのは、自分しかいないはずだった。
思わず振り返る。
だが、誰もいない。

残業調査員である俺は、探査機を取り出した。

過去の残響を拾うはずのセンサーが、未来からの振動を検知していた。

「……まだ歩いていない誰かの足跡」

次の瞬間、遠くの通りで、コツ…コツ…と響いた。
それは近づき、ビルの影を越え、瓦礫を踏みしめ、こちらへやって来る。

姿はない。

けれど足音だけが、確実に世界を震わせていた。

やがて足音は目の前で止まり、沈黙が訪れる。
誰だ?誰かが、確実にここにいる。

探査機の表示は、赤く点滅しているのがその証拠だった。

存在確認:背後。

背後?
さっき振り返った時には誰もーー


振り返る勇気は、もうなかった。

ただ後ろから、遠い足音が遠くで響いていた

10/1/2025, 11:26:56 AM

人工気候制御衛星〈アウロラ〉が、初めて「秋」を降らせた。

赤銅色の葉が、重力に従うように大気中で舞い落ちていく。
だが、それらは本物の葉ではなく、微細なプログラムの断片だった。

人々は空を見上げ、季節を疑似体験する。

それは四季がなくなった世界の話。

「秋の訪れ」とは、すでに自然現象ではなく、都市が選んだ演出にすぎなかった。

ただ一人の観測者だけが、それに気づいていた。

葉のひとひらに、誰も書き込んだはずのないコードが混じっていることを。

〈帰還まで、あと一年〉

それは、地球外で漂う何者かのメッセージだった。

9/29/2025, 11:25:37 AM

白と黒だけの森。
そこは木々も草も動物も人も、すべて影の輪郭だけで存在していた。
歩くたびに、自分の影は森の影に溶け込み、まるで未来の予兆を映すかのように揺れる。

ある日、森を歩いていると、ふと濃い黒の塊が揺らめきながらこちらに近づいてきた。

人の影のようでもあり、動物の影のようでもあるが、どちらでもない、未知の存在だ。

白い光が差し込むと、その影は一瞬だけ立体になり、細い手のような形でこちらに触れようと伸びた。

恐怖よりも不思議な好奇心が勝り、彼は影に手を伸ばした。何かが生きているような、温かい感触。

触れた瞬間、森の影が波のように広がり、周囲の木々や動物の影が揺れ出した。

まるで森全体が目覚めたかのように。

影の塊は微かに形を変え、こちらを見つめているように感じられた。

目があるわけではないのに、確かに視線を感じた。
彼は一瞬たじろいだ。

その時、影の塊は静かに動き、森の奥へと導くように進み始めたのだ。

好奇心に抗えず、こちらも足を進めると、やがて森の中心に小さな白い光の泉があらわれた。

彼は思わず息を飲んだ。

影の塊は泉の上で揺れ、光に吸い込まれる。

その瞬間、微かな声のようなものが耳に届いた。

言葉ではない、感情だけの声。

恐れ、期待、孤独、喜びが溢れる。

森のすべての影が一斉にささやくような、不思議な合唱だった。

光が消えると、影の塊も泉も跡形もなくなった。

しかし、森を抜ける途中で自分の影を見ると、微かにその塊の形が残っていた。

その塊には触れられなかった。

だが、確かに何かが交わった証だ。

森は再び静かになり、影たちは揺れながらも元の輪郭に戻った。

白黒の森は変わらない。しかし、ほんの一瞬、ありえない出会いが現実と幻想の境界を揺らしたのだった。

この森を訪れる際には、気をつけて。
謎の塊が、次に何をするかはその時次第のようだ。

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