夜の十時を過ぎたころ、玄関を激しく叩く音で目が覚めた。
こんな時間に誰だ、と訝しみながらドアを開けると、そこに立っていたのは幼なじみのAだった。
血の気の引いた顔、シャツの袖にべっとりと赤黒い染み。
思わず小さく悲鳴を上げて、一本後ずさってしまう。
いくら幼なじみと言えどーー
「お願い……今日だけ許して。明日になったら、全部話すから」
その声の弱さに、決心がついた。
突き放すことなんてできなかった。
Aを部屋に招き入れ、シャワーを貸す。
不気味だった。何があったんだろう。
明日になったら話すーー
明日まで、待てるだろうか。
静かな夜。窓の外の街灯の明かりが、不気味に揺れて見えた。
⸻
しばらくして、スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、息が止まる。――A。
受話器から聞こえてきたのは、確かにAの声だった。
「お願い。絶対に入れちゃだめ。外にいるのは私じゃない」
思わずソファを振り返る。そこにいたのはシャワーから出た、Aの姿があった。
「どうしたの?」
素直に言えるはずがない。
「ううん、ちょっと仕事の話」
そのとき、窓が叩かれた。
カン、カン、と乾いた音。
外にも、もう一人のAが立っていた。血に濡れ、必死に何かを訴えている。
中のAか、外のAか。
どちらが本物なのか。
どちらを許すべきなのか。
朝になったとき、部屋には誰もいなかった。
ソファは乱れ、床には濡れた靴跡が続いていた。
玄関の外へ伸びるそれは、途中で途切れて消えている。
自分がどちらを選んでいたのか……
こんなことが起きたら、注意して下さい。
10/4/2025, 11:26:19 AM