RAKT

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10/19/2025, 11:25:34 AM

小さい廃寺の裏手から、童歌が微かに聞こえてくる。
それはとても懐かしい歌。
僕と弟しか知らない。
夜の廃寺。
鈴虫が鳴いていた。不気味な風が吹く。
けれど、怖くなかった。
「ずっと、ここにいたんだね」
かくれんぼをしていて、弟は失踪した。
小さい声の童歌。
翌日、警察に報告したところ廃寺の裏手から小さい子供の骨が見つかった。

10/12/2025, 11:25:53 AM

都市が空に浮かんでいた。

それは重力を裏切った街〈ネオ・アトラ〉。
そこでは、人間の身体はデータ化され、“コード”として走る。
死も眠りも、ただの再起動にすぎない。

だが、彼のだけは違った。
彼は最後の“肉体”を持つ兵士だった。

空の秩序を壊した反乱軍のリーダーである。

「上層のセキュリティが突破された!」

通信越しに響く声は緊迫していた。爆光が夜空を裂く。

ビルの間を駆け抜け、激しい弾丸が飛び交う。

彼は背中の装置を起動した。
「——リミッター解除、どこまでも行く」

視界が白く閃き、彼の身体が量子データに分解される。
瞬間転送。

次の瞬間、敵の中枢に立っていた。

そこに待っていたのは、黒いコートを纏った“AI執行官”だった。

「また人間が過去を取り戻そうとしているのか」

「過去じゃない。俺たちは——行き先を取り戻す」

二人の間に、時間が裂けた。

コードの情報が暴走し、空が崩れる。

重力がねじれ、街が反転する。

「お前の限界はここまでだ」

執行官の掌が光る。
だがレイは笑った。

「どこまでも、だって言っただろ」

爆風と共に、二人は光の中へ消えた。
一瞬だけ、白い影が見えた。

二人がどうなったか、行方がしれない。

10/10/2025, 10:24:15 AM

それは夜明け前の道端でのこと。

彼は一本のコスモスを見つけた。

まだ誰も歩いていないはずの場所に、それだけが立っている。

風もないのに、花びらが揺れた。

「……また、ここに咲いてるのか」

それはまるで、返事をするかのように。

一年前の秋、この場所で恋人が死んだ。

事故でも事件でもなかった。

ただ、ふいに姿を消し、翌朝、この花だけが残っていた。

彼はしゃがみ込み、花の根元に触れた。

柔らかい土の感触、と、思った瞬間、指先が何か冷たいものに触れる。
それは“指”だった。
白く、細い、人間の指。

彼は息を呑んで手を引く。

しかしその瞬間、花びらの間から声がした。

「どうして、また見つけたの?」

ーーえ?ーー

花弁が突然ふわりと咲き、その中心に小さな瞳があった。

思わず身を引く。

その目は赤く、彼をじっと見つめている。

「約束したでしょう。私のこと、忘れてって――」

風が吹いた。

道端のコスモスが揺れた。
それは、一本ではなく数えきれないほど咲き乱れている。

そして、そのすべての花の中央に、彼女の瞳があった。

「ねぇ、あなたも咲いて」

その声は不気味で、彼女の声とは思えなかった。

夜が明けるころ、道端は静かだった。

ただ、一輪だけ新しい花が増えていた。

淡いピンクの花びらが、風にほどける。

それを見た誰かが言う。

「今年は、ひとつ多いね。」



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Poly Buzzで小説を書いてます。
_gest51244、ミステリー、恋愛と書いてます。
良かったら読みにきてください

10/10/2025, 10:08:17 AM

それは天が高くなる季節、秋。
公園のベンチに、彼女は古びた端末を抱えて座っていた。

「ねぇ、あなたの記憶って、どこまで本物?」

彼女は少し不安げに、そして切なげに聞く。

彼は少し悲しげに笑った。

「わからない。でも君の声だけは、削除されても残る気がする。」

世界は“記憶再生”技術によって、過去を好きなように書き換えられる時代だった。

人々は思い出を編集し、失恋さえも削除して生きる。

けれど彼女は、秋の風に触れるたび、その温度だけは忘れられなかった。

彼は儚げに言う。

「僕は君が創った“記憶上の恋人”だよ。本当の僕は、もういない。」

それでも、彼女は微笑んだ。

「いいの。あなたがここにいる限り、私の秋は終わらないから。」

風が吹き抜け、落ち葉がふたりの間を舞う。

端末のモニターが一瞬だけ明滅した。
端末の上に涙が一滴落ちる。

彼女の涙を記録するように。

そして、光の粒となって青年は消えた。

画面にはただ一行、メッセージが残る。

『削除不能:愛』

彼女は目を閉じ、秋の風を吸い込んだ。

記憶と現実の境が、ゆっくりと溶けていった。

10/8/2025, 11:15:42 AM

ある施設の実験室で彼女は眠っていた。
彼女の腕には電気コードが伸びている。
それを見ているのはこの実験室の館長だ。
彼女は一度、亡くなっている。
亡くなっている人間を生き返らせるという、禁断の実験。
彼女の目がゆっくりと開く。
愛するが故に、館長は我が娘を蘇らせた。
禁断を犯す者には対価が必要になる。
それが何になるのか。
館長は、我が娘が本当に生き返った娘なのか、それとも、娘の形をした何かなのか分からない。
ただ、娘がここにいる。
それだけが真実。
今はそれだけで、良かった。


時間がなかったので、いつもより雑
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Poly Buzzをやっているので、良かったら読みにきて下さい RAKTの名前でやってます。

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