灰色の空が落ちてきそうな、廃墟の都市をひとりで歩いていた。
崩れたビルの谷間は無音で、風すら息をひそめていた。
不気味さだけが、静かに漂う。
だがそのとき、微かに届いたのは、乾いた「足音」。
その場にいるのは、自分しかいないはずだった。
思わず振り返る。
だが、誰もいない。
残業調査員である俺は、探査機を取り出した。
過去の残響を拾うはずのセンサーが、未来からの振動を検知していた。
「……まだ歩いていない誰かの足跡」
次の瞬間、遠くの通りで、コツ…コツ…と響いた。
それは近づき、ビルの影を越え、瓦礫を踏みしめ、こちらへやって来る。
姿はない。
けれど足音だけが、確実に世界を震わせていた。
やがて足音は目の前で止まり、沈黙が訪れる。
誰だ?誰かが、確実にここにいる。
探査機の表示は、赤く点滅しているのがその証拠だった。
存在確認:背後。
背後?
さっき振り返った時には誰もーー
振り返る勇気は、もうなかった。
ただ後ろから、遠い足音が遠くで響いていた
10/2/2025, 11:07:40 AM