眠れない程
片思いしている女性がいる。
可笑しいと思うかもしれないけれど、最近その子が夢にまで出てくるようになった。
僕にはもう隠れる場所がなくなっていて、のがれられなくなっている。
それ程、僕の彼女への想いは強く、一息つく暇すらなく、夜も眠れない程、四六時中彼女のことばかり考えてしまう。
次の日の仕事に支障をきたすので、眠れるようにと、ホットミルクを飲んでみたり、夜にランニングをすることもあったけど、特に効果はなかった。
いっそ、睡眠薬でも処方して貰えたら寝れるんじゃないかと思うけれど、流石にこんな理由で病院通いするのはと躊躇い、それはできていない。
彼女のことを好きになったのは高校生の頃のことだった。
クラス替えがあった二年の頃、その子と一緒に文化祭で買い物する係になり、一緒に必要な物の買い出しに行く度、少しずつ会話が増えていき、気付けば彼女がアニメ好きだったことから会話が盛り上がり、二人の距離が縮まり仲良くなる中で惚れたのを覚えている。
時々、買い物がてらここのカフェのコーヒーが美味しいんだよとおしえてくれて一緒にコーヒーを飲みに行ったよね、それも、放課後の買い出しの後、直ぐ学校の教室に戻らないと行けないのに·····他にも、二人だけで、お腹空いたねと言って寄り道をして百円マックを買って食べたりしたね。
そんな二人だけの時間がなんだか僕には特別な時間に感じていたので、買い出しは楽しくて仕方無かった。
その後、三年生になってからも僕達の仲は相変わらずで、二人で帰ることもあれば、二人だけで遊ぶこともあったっけ。
僕は何だかそれがデートのようでワクワクドキドキ四六時中していたけど、君は僕との関係は友達っていう認識だったから、特に一緒に過ごしていても手を繋ぐなんてことは一切なく、本当に割り切っていたよね。
でも、いつか君が僕の手を握りしめることがあるんじゃないかって勝手に期待していたんだ。
分かっていたことではあったけど、結局何にもないまま卒業して、僕達は別々の大学に進学していき、それっきり連絡も取らなくなったね。
それから人伝に聞いた話では、君は何人かの人と付き合っていたようだし、僕も大学を卒業する迄の間に何人かの女性と付き合きあった。
けれど、大学を卒業してから、フリーになった僕は高校時代に出会った君が忘れられていないのだろうか、突然夢に出てくるようになったんだ。
それからというもの、眠れない夜がつづいている。
ところが僕は臆病者なのだろう、まだ連絡先が登録したままなのに、君に連絡出来ずにいた。
勇気をだして告白さえすれば、そして、振られさえすれば、また眠れるようになる筈なのに··········。
ところが偶然街中で君を見つけ、僕は声を掛けてみた。
何年ぶりだろうか、高校卒業してからだからかれこれ四年ぶりといったところだろう。
「久しぶりだね、僕のこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ、あの時買い出し行った帰りにこっそり二人でハンバーガー食べに行ったりして楽しかったね」
「うん、僕も楽しかった。 実はあの時僕は君に片思いしてたんだよ」
そう言うと、彼女は驚いた表情を見せた。
「そんなの、全然知らなかったよ」
ニコッと微笑みながらそう答える。
「ねえねぇ、彼女とかいるの?」
「今は居ないかな··········そっちは?」
「別れたばっかでいない、一緒だね」
そう言うと、彼女は笑った。
「ねぇ、今度一緒に遊ばない!」
突然、思いがけず彼女の方から誘ってきた。
「うん、いいよ」
僕がそう答えると、彼女は何だか嬉しそうだった。
それから、今日時間があるなら一緒にカフェにでも行かないかと誘おうとしたけど、彼女は時間が無いらしく、「また今度ね!」と言われて別れることに。
その後、彼女からメールが来て、僕達は今度の週末一緒に映画を観に行く約束をした。
人伝に聞いた話では、君は彼氏は当分要らないと言っていたようなので、この先進展があるのが、友達終わりなのか予測がつかないでいる。
お陰で、君とあってからもまだ眠れない夜が続いていた。
可能は0では無い、僕が倒れる前に、勇気を出してか告白したいと思ういます。
夢と現実
田舎から出てきて東京の大学を卒業した私は、そこそこ有名な大手企業に就職した。
職場は東京にあるけど、家賃が高くて東京に住むのを躊躇い、大学時代から住んでいる埼玉で生活しているので通勤にはいつも電車が欠かせない。
しかも、まだ入社したての私は朝も早めの出勤だというのに、早朝から電車に乗り込む人の数が多く、毎日満員電車に揺られ、ヘトヘトになりながら通勤していた。
職場に着くと、私の仕事は朝の上司のお茶くみ(珈琲を入れること)から始まる·········。
上司は、機嫌が良いとありがとうと言ってくれるけど、機嫌が悪い時は当たられることはないものの無言になるのでとてもわかり易い人だった。
昼休みになると、今度はコーヒー片手に女の先輩方の恋話を聞かされるので、私はいつも聞き役に徹する。
とはいえ、毎日良く別れる選択肢が出てこないなと感心する程、付き合っている彼氏の愚痴や嫌味を散々聞かされるので、時々苦痛になることもあるのだけれど、決して「別れたりしないのですか?」とは言わない。
だって面倒くさいから··········。
人はただ聞いて欲しい生き物なのだ。
そんなある日のこと、私は初めての職場で開発チームの仲間入りをさせて貰えることになったのである。
念願叶ってチームに入れて貰えたので、嬉しくて仕方ない私でしたが、チームで新人の私に口を挟むことは許されないのか、自分の思う意見を言いたいのに言わせて貰えない状況が続いていた。
(··········こんなのなんの為にチーム入ったかわかんないじゃん、そもそもコピーやら、資料集めやらら雑用ばっかりだし··········)
いつしかストレスを抱えるようになり、職場で言えない分、家での愚痴という独り言が増えていく始末。
(この開発チームから抜けようかな)
そんなことを思っている時だった、タイミング良く上司が労いと称して飲み会を開催してくれたのだ。
その時、飲み過ぎには注意と思っていたのに、学生時代のようにペース配分を考えず飲んでしまった私は、酔いすぎてしまう··········。
気付いた時には自分の部屋のベットで、何故かパジャマに着替えて寝ている。
起きてから頭が混乱する私は、飲み会の時のことを必死に思い出そうとしているのに何も思い出せない。
··········いたたたっ!
飲みすぎているせいで、頭がガンガンする程の頭痛に襲われる。
「大丈夫!?、ほら、これ飲んで」
そんな私に水が入ったコップを手渡す上司··········。
「えっ、えーーっ、ちょっと、何で|桐谷《きりたに》上司がここにいらっしるんですか」
「あれれ、何にも覚えてないの?」
そう問いかけられたけど、何も思い出せない。
でも、よく考えたら、私はブラをしないまま今パジャマを着ていて··········確実に着替えている。
(下着を付けていないってことは··········えっ、嘘でしょ!?)
もう、訳が分からず、酔いが覚めていないのか、なんなのか目の前がクラクラしてくる私。
「へー、何にも覚えてないんだね! 気持ち良かったよ」
「ちょ、ちょっと··········それってどういうことですか?」
「そのまんまの意味だけど··········?」
どう捉えたら良いか分からないまま放心状態になる私。
「あぁ、これだよ、これ、」
そう言って桐谷上司が手にしていたのは毎晩私がしている顔パック。
「そ、それは私の··········」
桐谷上司の話では、私が余りにも酔いすぎてしまったので、帰りの方向が同じということから、一緒のタクシーに乗り送ってくれたのだという。
ところがタクシーから降りて一人で部屋まで辿り着けそうにないことを心配してくれた上司が部屋まで連れてきてくれたのだというのだ。
私の意識が朦朧としていたものの、部屋の鍵を手渡してくれたので、部屋に置いたら帰ろうたしていたらしい。
ところが、私が強い力で桐谷上司の腕を掴んで離さなかったのだという。
その後、徐ろに化粧落とし用のコットンで化粧を落としてパックを始めたものの、上司にも強引にパックを勧めたようで··········上司はそれに付き合ってくれたというのだ。
でも、それだけで終わらず、私はあろうことか桐谷上司に対して、せっかく入れてもらった開発チームの愚痴を言ってしまったらしい。
「す、すみません··········私、顔パックの件だけじゃなく愚痴まで言ってしまって··········」
目の前がまたクラクラしてきてもうお終いだと思った。
こんな人間が開発チームにいられるわけがないし、この会社にいるのも難しいかもしれない。
「色々大変だったね、|森口《もりぐち》さん、気付いてあげられなくてごめん。 メンバーにはそれとなく話すよ、だからこれからも応援してるから宜しくね」
ところが桐谷上司は私を怒らず、ニコッと微笑んで応援すると言ってくれたのだ。
「あの、ありがとうございます。 そ、それより桐谷上司には奥さんもお子さんもいらっしいましたよね。 私のせいで帰宅出来なくなってしまって··········あの、私どうしたら良いでしょうか?」
私は上司からの優しい言葉に嬉しくなっていたけれど、ふと、桐谷上司には家族がいることを思い出した。
「あはは、それは気にしなくて大丈夫だよ。 普段から良く仕事が忙しい時は会社に泊まり込んでるだろ、だから家にはも帰れないって連絡入れといたからね」
でも、そうだな··········と言ってそのまま私を押し倒してきて··········。
家に帰宅した直後、自分でパジャマに着替えた私の掛け違いになっているボタンをゆっくり外すと、私達は恋人同士でもないのに、私はそのまま桐谷上司を受け入れ、身体を重ねた。朝まで何度も··········何度も··········。
☆
それから、私と桐谷上司の関係は続くことになる。
奥さんにバレるかもしれないというスリルがあるからドキドキが増していたのかもしれないし、彼が既婚者で簡単に手に入らないと分かっていたから、余計に執着していたのかもしれないけれど··········恋人でもない、セフレのような関係は続いた。
これを世間一般では不倫というのだろう。
不倫はクズな人間がする行為である。
分かっているけど··········現実に戻るのが辛かった。
分かっているけど··········関係が止められない。
普通の恋人同士と違って、二人で会える時間や日数が限られるからこそ、その分二人はベットで燃え上がった。
ところが二年後、私達の関係に終わりが訪れる。
価値観も会うし、髪型やメイクの少しの変化にさえ気づいて褒めてくれる彼。
私はそんな彼と少しでも永く今の関係を続けたくて、彼の心を繋ぎ止めていたくて、関係を壊さないようにと都合の良い女を演じてきた··········女優でも無いのに。
気持ちは一緒になりたいけれど、彼の気持ちは私だけに向いていない··········漸く無理だということが分かってしまい、都合の良い女を演じるのが馬鹿らしくなったのだ。
それからの私は、会社も止めて、携帯の電話番号もアドレスも変えると、辛いと思っていた現実に戻ることにした。
【ずっと大好きでした】
これが、私が彼にした最後のメール。
当たり前のように街中で手を繋ぎ歩くカップルがいる。
この中に本当の恋人同士は何組存在するのだろうか。
そんなことを思いながら今日も人混みを歩き、何の変哲もない日常を送る。
彼がいなくなり寂しい時もあるけど、これから少しずつ彼の居ない日常を取り戻して行けたらいいなと思います。
さよならは言わないで
君に出会えたことが奇跡だった。
中学生になった頃のこと。
それは、まだ入学したての四月の頃で、桜がの花弁がチラチラと舞いながらゆっくりと散り始める頃だった。
ある日の放課後、僕が男友達から虐めを受けて殴り掛かられている所を、大声で先生を呼び助けてくれたのが君だったね。
あの時のことを僕は鮮明に覚えてる。
その日から、君はいつも僕と一緒に行動してくれて、こんな僕を守ってくれた。
そのお陰で、僕に虐めをしていた人達はそれが出来なくなったけど、その後君が嫌がらせ行為をされることになり。
それも、僕何かと付き合ってると中学校中に嘘の噂を流して··········。
僕が君に「ごめん」と言うと「気にしてない」と返ってきたね。
その後も、嫌がらせ行為は続き、君も無視されるようになって、話してくれる子がいなくなった。
「ごめん」僕がそう言うと「そんなの気にするな」って言ってくれて、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれて··········。
でも、その時みた君の横顔は、涙で溢れそうになっていた。
やっぱり辛かったんじゃないかな··········ごめん。
それから暫くすると、虐めがエスカレートしていき、君の物が無くなる事件か起こった。
最初は下敷き、次にシャーペン、次は持ってきた支払い用の封筒までも··········。
そんな状況でも、君は笑顔で登校して僕の傍にいてくれて··········。
僕が守って上げることが出来たら良かったのに、怖くて、意気地無しな僕には何も出来なかった。
帰り道、「ごめん」と言うと「何であんたが謝るの、何もしてないじゃん」と言ってくれて、また頭をくしゃくしゃっと撫でられる。
そのまま僕は君に甘えて··········。
ある日の昼休みだった、女子達が数人僕達のところにわざわざやってきた。
「ねえ、いつも|健太《けんた》と一緒にいるけど、|菜穂《なほ》は生きてて楽しいわけ?」
「楽しい。 ほっといて!」
「健太何かなんも出来ない意気地無し男だよ··········」
「違う、健太は優しい人」
「何それ、やっぱ菜穂死ねばいいのに」
「··········」
そう吐き捨てると女子達は居なくなった。
「ごめん、僕のせいだね、僕が居なかったら··········」
ーーバシン
君の手が僕の頬を勢いよく叩き付ける。
僕が君をみると、目が潤んでいた。
「もう、好きじゃないから··········」
そう言って先に帰ってしまった君は、その後学校に来ることは無く、そのままお父さんの転勤で転校して行った。
あれから、僕は君の手が頬に当たった感触を、その温もりを忘れていない。
あの時、僕の目を覚ましてくれたのは君だった。
自分の何がいけなかったのかと責めることもあったけど、君との出会いは意味があったんだと思う。
君との思い出、君がくれたものは全て過去のものになってしまったけど、僕が君から貰ったものはたくさんある。
僕はそれを糧にして、今を生ることを頑張ろうと思ったんだ。
あの時、君がいたから僕は気づいたことが沢山あって、今の僕は沢山成長している。
もう後悔何かしていないよ。
ーーありがとう!
僕は君が居なくなってから、ずっとずっと君のことを思っているよ。
毎日メールしていたのが懐かしいね。
いつか君からメールが来ると信じている。
僕は君がまた戻ってくるって··········。
転校する時「さよなら」は言わなかったね。
僕はまだ言わないよ!
☆
それから僕は君を想いながら中学に通い卒業した。
桜の花弁が咲き誇る今日は高校の入学式。
門の前を潜り抜け、その先で待っていたのは··········
待っていたのは君だった。
「ひ、久しぶりだね、菜穂」
僕はまた会えたことが嬉しくて、照れくさそうに声を掛ける。
「うん、健太久しぶりだね、元気そうじゃん」
「菜穂こっちに戻ってきてたんだね」
「そうだよ、お父さんの転勤終わって戻ってきた。何か健太背が高くなってるじゃん、しかも身体鍛えたの?」
「まぁね、このままじゃ駄目だって思ったから、あれから家の近くにあるボクシングジムに通って鍛えたんだ、いつかまた菜穂に出えたら、菜穂に、相応しい男になっていたくて··········」
「何それ··········」
「私もさ、健太にまた会えたら伝えたいことがあったんだよね」
「うん··········」
「私、健太を助けてからずっとずっと貴方のことが好きでした。 私と付き合ってください」
告白は君の方からだった。
「うん、僕も助けて貰ったあの日からずっと菜穂が好きでした、これからもよろしくお願いします」
こうして、僕達は奇跡が起きてまた出会えた。
あの時さよならを言わなかったのはこの為だったんだとと思う。
だから僕は今を、これからを大事に生きていこうと思います。
光と闇の狭間で
ホストに狂った親友の|沖田愛佳《おきたまなか》がいる。
私|工藤明日香《くどうあすか》と愛佳は現役の女子大生であり、田舎者。
そんな私達は最初別々に部屋を借りて住んでいたけど、今現在は東京で借りた家に二人でシェアしをしている。
学校で愛佳と出会ってから、田舎者同士の私達は意気投合。
「東京で生活するのにやっぱり家賃は高くて勿体ないじゃん、だから私達一緒に住まない!?」
そう愛佳に誘われ、一つ返事で今に至る。
ところが、学業優先の私達は、一応の仕送りがあるものの、それでは到底まかなえないので、昼間や夜にコンビニやファミレスでバイトをしていた。
けれど、愛佳が突然夜の仕事だけにシフトしたのだ。
それも夜の仕事にシフトしたのは彼氏と別れてからのこと··········。
幾ら親友だからといって、なんの仕事をしているのかまで聞くつもりは無かったけど、ある日洋服のポケットから名刺らしきものを発見してしまった。
その名刺は高級ソープの名刺で、そこには女の子の名前が書かれていた。
(こ、これってもしかして愛佳のこと!?)
発見した名刺を持つ手が急に震え出すのが分かる。
大学生とはいえ、収入を得る為に風俗をしている子は、案外多く、私の学校の友達にも数人している子を知っていた。
でも、だからといって愛佳は私とシェアしている身の程、家賃だって折半しているのに何でそんなにお金が必要だと言うのだろうか?
不思議で、不安で仕方の無い私。
深夜遅くに帰宅した愛佳に、私は勇気を出して問い詰める。
「あのさ、これなんだけど··········」
手にしていた名刺を愛佳の目の前に差し出す。
「ああ、これね、なーんだもう明日香気付いちゃったんだ。 これね、私の名刺、今ここのソープ嬢してるんだよ」
愛佳は名刺を目にすると、夜の仕事が悪いと思わないのか、ペラペラ喋りだした。
「な、何で愛佳はここで働いてるの? 生活するのにそんなにお金必要だっけ?」
ドキドキしながら質問をする。
「んー、それがさ、私、大分前に彼氏と別れてるじゃん、でも今になって新しい彼氏出来たんだよね。 それで今はその彼氏のこと応援してるからさ··········」
淡々と話す愛佳だけど、その愛佳の口から出てくる彼氏というのが引っかかる。
(彼氏を応援する為にお金が必要!?)
感の良い私は、勘づいてしまった。
そう、その彼氏というのがホストだと言う事に!!
それから愛佳に対して何も言葉が出なかった。
ホストのことを彼氏と呼ぶという事は、もうホスト狂いしてるのだろう。
ホストに通っていることすら気付けなかった自分にも責任があるのだと思うと、悲しくて、悔しくて··········私はとても複雑な心境になっていた。
でも、だからといって、もし今ここで、私が愛佳を責めたて立ててしまったら、家出するかもしれないし、自殺して死んでしまうかもしれない··········そう思ったらやっぱり愛佳を前に何も言えなくなってしまった。
「そっか、愛佳お仕事無理しないでね」
私は彼女の身体を気遣う言葉しかその時は言え無かった。
ホストにハマる子は多いと聞く、そして、ホストにハマり風俗をやる子も多い。
愛佳もホストにハマり、お金が必要になって風俗の仕事に就いたのだろう··········もう完全に沼っている。
そんな愛佳に、私はホスト行かないで欲しいと願っているけれど、ホスト狂いの愛佳に「行くの止めて」というのは、愛佳からしたら「死ね」って言われてるくらい辛いことに違いないだろう。
私はどうしたら良いか分からなくなってしまった。
風俗をやめさてたとしても、ヤミ金に手を付けてしまうかもしれない··········等、色々考えてしまうからだ。
お陰で、布団の中にいるのにちっとも眠れないまま、朝を迎えることに。
学校に行くと、私は別の友達|真下香織《ましたかおり》に相談してみることにした。
「ねえ、かおりん、愛佳のことなんだけどちょっといいかな」
この際だから、洗いざらい話した。
「そっか、愛佳がホスト狂いとはね··········」
「うん、私はホストも風俗も良くないと思ってて、愛佳に止めさせたいんだよね」
「それは難しいかもね、ホストって、基本的にあげて、あげて落とすの、その人のコンプレックスな部分を褒めちぎって心を満たしてくれる」
「心を満たすかぁ··········かおりん詳しいね」
「仲の良い親戚のお兄ちゃんがホストしてるんだよ」
「成程、それで知ってるんだね」
良かった! あまりにも詳しく言うから、かおりんがホスト通いでもしてるじゃないのかと思ってしまったじゃないか。
その後も、かおりんは色々教えてくれた。
ホストはある程度甘い言葉を言い続けた後、突然何もしなくなることで心が満たされていたのを寂しくさせるのだという、そして恋しくなり、ホストに褒められたい、甘い言葉を囁いて貰いたいという感情になり、止められなくなるということまで。
「それじゃ、難しいね。 何だかんだかマインドコントロールみたいで宗教みたい」
「そうかもね、明日香ちゃんが愛佳のこと思う気持ちはわかるけど、やっぱりこればっかりは難しいかもね」
「かおりん、何か方法ないのかな」
「愛佳本人が彼氏っていってる以上縁を切らせるって難しいよ。 ホストってさ、本気で普通の男の人と付き合うより楽じゃん、大体の我儘聞いてくれるし、腹立つこと言わないし、なにより話を聞いてくれるんだもの」
「そうだよね··········」
「愛佳ちゃんには彼氏がいたけど、別れちゃったんでしょ、だからさ、満たされない気持ちを埋めつくしてくれたのがホストだったんじゃないかな!」
(満たされない気持ち··········ね··········)
「だから、明日香は愛佳のことほっとけば良いと思う、多分今の現状から戻ってきた時、愛佳はお金のことで後悔するかもしれないけど、あの時ホストが支えてくれたからやってこれたんだって心の後悔しないんじゃないかな」
「ふーん、心の後悔はない··········なるほどね」
今までホストが悪でしかないと思っていたけど、それだけじゃないことを知った私。
かおりんのお陰で心のモヤモヤが解消された気がする。
その後、私は愛佳とのシェア生活を解消した。
一緒に暮らしていたら、色々余計なことを言ってしまいそうだからかだ。
私は一親友として、これからも愛佳を見守って行こうと思います。
距離
僕|仮宮遊助《かりみやゆうすけ》には小学校からの幼なじみの|倉持華《くらもちはな》がいて、隣同士ってこともあってか小学校の頃は朝も帰りも一緒の班だったからいつも一緒に登下校していた。
それは中学でも同じで…………現在高校生になってからも自転車で一緒に登下校している。
それは、自然に…………当たり前のことのように。
華と僕がアニメ好きってこともあって、登校中はその日見た深夜アニメの話や、学校の提出物の課題についての出来事をお互い話すのだけど、帰りは決まって華がその日楽しかったことや面白かったことなど、学校の出来事を沢山話してくれるので僕は決まっていつも聞き役に徹している。
倉持華は、勉強も出来て、スポーツもそれなりに出来て、ピアノが弾けて、絵も上手い。
彼女はいつも肩下迄ある白銀髪色(ホワイトアッシュ)のロングヘアを窓から入り込む風に揺られながら、休み時間になると決まって教室にあるオルガンで演奏をする。
ピアノを弾いたことがない僕からしたら、両手バラバラに演奏し、両手で違うリズムを奏でてメロディーを弾くことが出来て凄いなと思っていた。
いつも、鍵盤の上を舞うしなやかな彼女の指使いと心地よい音色に癒されるのは決して僕だけではない。
………クラス中…………他クラスの人も休み時間が始まり、彼女の演奏が始まると、直ぐに皆が彼女の周りに集まってくるし、先生達もわざわざ聞きにくることもあった。
僕はそんなピアノが弾ける華のことが可愛く見えて仕方なく、上品で知的な感じがする華のことが大好きだった…………幼なじみとしても、一人の女の子としても。
でも、クラスでカースト順位が上位に位置する彼女は、クラスでのカースト順位が底辺な陰キャな僕とは違い、友達も多くて普段学校内ではほとんどぼっちの僕なんかとは話すことが無く、僕と華には距離があった。
そんなある日の放課後のことだった、僕はクラスのカースト順位が上位に位置する|野坂茂雄《のざかしげお》の二人しかいない教室で茂雄が僕なんかに話し掛けてきたのだ。
「遊助さ、華とはどんな関係なの?」
「ええっと、僕と華は小学校からの幼なじみで、中学校も同じで…………」
「じゃぁさ、遊助と華はいつも一緒に登下校してるけど付き合ってはいないってことなんだな?」
「ま、まぁ、そうだね…………」
「そっか、やっぱり付き合ってはいないんだな! 華ちゃんと話してるといつも遊助の話が出てくるから気になってたんだよ。 でも、そっか、そっか、二人は幼なじみってだけの関係ってわけか、てっきり付き合ってるのかと思ったから安心したよ。 だったらさ、遊助にお願いがあるんだねど、僕と華のこと応援してくれないかな?」
「茂雄と華のことを応援…………!?」
「うん、実は僕華に惚れちゃって…………告白しようと思ってるんだよ」
「こ、告白!?」
「そうだけど…………って何遊助驚いてるんだよ!」
「ご、ごめん」
いきなり告白だなんて聞かされて驚かない方がどうかしている。
付き合ってはいないけど、僕だって華が好きな気持ちがあったから…………まさか、僕より先に告白しようとしている人が現れるなんて…………。
だからってこんな僕には抗うことも出来ない。
ただ現実を受け止めるだけで精一杯だった。
きっとカースト順位上位に位置する茂雄が告白なんかすれば、きっと華はオーケーするに違いないだろう。
茂雄は勉強もスポーツも万能で、イケメンな上にサッカーが得意でいつも茂雄が部活でサッカーしてる時は女子の歓声が響いている。
そんな人気者の二人なのだから、理想のカップルとなることだろう。
そう思ったら、なんにも得意とするものが無い、陰キャな自分がなんだか惨めに不甲斐なく思えた。
「それでなんだけど、華と付き合っていないんだったら、金輪際華とは関わらないでもらえないかな」
続けて茂雄はそんなことを言ってきた。
「えっと…………その…………」
頭がバグる…………関わらないってなんだよ…………。
「良いか、これからは華と話もしないし、一緒にも帰らないってこと」
「ちょっとまってよ、そ、そのくらいは…………」
「なんだよ! 遊助のくせにそれは出来ないって言い出すのかよ!?」
そう言って茂雄は僕の胸ぐらを掴むと睨んできた。
「げほ、げほ…………は、はい」
従うざる負えない状況だった。
僕なんかに選ぶ権利すら存在しないのである。
「ちょっと…………何してるのよ茂雄くん」
丁度そこへ担任の先生に用事があって職員室に行っていたはずの華がタイミング良く戻ってきたのだ。
華にこの状況を見られたくないのか、茂雄は直ぐに胸ぐらを掴んでいた手を話す。
「な、なんもしてはい無いよ、な、遊助!」
「う、うん…………」
強ばりながらそう答える。
「あのさ、私の目は誤魔化せ無いんだからね。 この際だから言っとくけど、私は誰とも付き合ったりしないから、私には好きな人がいるの」
「…………!?」
僕は言葉が出ない程、華の言った言葉を聞いて驚いた。
「好きな人居るんだね、それ誰、もしかして遊助?」
茂雄は僕を見ながら目の前にいる華に問いかける。
「うん、そうだよ」
そう言って華は照れくさそうにコクリと頷く。
「…………ふーん、じゃぁな!」
茂雄は僕を一瞬睨むと、その場を足早に去って行った。
「あ、あのね、さっきの話なんだけど、あれ本当だから」
「それって、僕を好きってこと」
「うん、そうだよ…………って何度も言わせないでよね」
僕の問い掛けに、頬が赤らんだ華は、はにかみながらそう答えた。
「ずっと言えずにいたけど、ぼ、僕も華のことが大好きです」
照れくさくて下を向いたまま言ったので、僕が頭を上げると華と目が合い、暫く見つめ合ってからどちらともなく笑い出してしまった。
笑いが収まると、二人はまた見つめ合って…………。
「遊助これからもよろしくね」
「うん、華、僕の方ことよろしくお願いします」
それから暫く二人で抱き合った後、お互い初めての初キスをした。
キスの味は甘くて…………。
僕と華の距離は今日からゼロセンチです。