さよならは言わないで
君に出会えたことが奇跡だった。
中学生になった頃のこと。
それは、まだ入学したての四月の頃で、桜がの花弁がチラチラと舞いながらゆっくりと散り始める頃だった。
ある日の放課後、僕が男友達から虐めを受けて殴り掛かられている所を、大声で先生を呼び助けてくれたのが君だったね。
あの時のことを僕は鮮明に覚えてる。
その日から、君はいつも僕と一緒に行動してくれて、こんな僕を守ってくれた。
そのお陰で、僕に虐めをしていた人達はそれが出来なくなったけど、その後君が嫌がらせ行為をされることになり。
それも、僕何かと付き合ってると中学校中に嘘の噂を流して··········。
僕が君に「ごめん」と言うと「気にしてない」と返ってきたね。
その後も、嫌がらせ行為は続き、君も無視されるようになって、話してくれる子がいなくなった。
「ごめん」僕がそう言うと「そんなの気にするな」って言ってくれて、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれて··········。
でも、その時みた君の横顔は、涙で溢れそうになっていた。
やっぱり辛かったんじゃないかな··········ごめん。
それから暫くすると、虐めがエスカレートしていき、君の物が無くなる事件か起こった。
最初は下敷き、次にシャーペン、次は持ってきた支払い用の封筒までも··········。
そんな状況でも、君は笑顔で登校して僕の傍にいてくれて··········。
僕が守って上げることが出来たら良かったのに、怖くて、意気地無しな僕には何も出来なかった。
帰り道、「ごめん」と言うと「何であんたが謝るの、何もしてないじゃん」と言ってくれて、また頭をくしゃくしゃっと撫でられる。
そのまま僕は君に甘えて··········。
ある日の昼休みだった、女子達が数人僕達のところにわざわざやってきた。
「ねえ、いつも|健太《けんた》と一緒にいるけど、|菜穂《なほ》は生きてて楽しいわけ?」
「楽しい。 ほっといて!」
「健太何かなんも出来ない意気地無し男だよ··········」
「違う、健太は優しい人」
「何それ、やっぱ菜穂死ねばいいのに」
「··········」
そう吐き捨てると女子達は居なくなった。
「ごめん、僕のせいだね、僕が居なかったら··········」
ーーバシン
君の手が僕の頬を勢いよく叩き付ける。
僕が君をみると、目が潤んでいた。
「もう、好きじゃないから··········」
そう言って先に帰ってしまった君は、その後学校に来ることは無く、そのままお父さんの転勤で転校して行った。
あれから、僕は君の手が頬に当たった感触を、その温もりを忘れていない。
あの時、僕の目を覚ましてくれたのは君だった。
自分の何がいけなかったのかと責めることもあったけど、君との出会いは意味があったんだと思う。
君との思い出、君がくれたものは全て過去のものになってしまったけど、僕が君から貰ったものはたくさんある。
僕はそれを糧にして、今を生ることを頑張ろうと思ったんだ。
あの時、君がいたから僕は気づいたことが沢山あって、今の僕は沢山成長している。
もう後悔何かしていないよ。
ーーありがとう!
僕は君が居なくなってから、ずっとずっと君のことを思っているよ。
毎日メールしていたのが懐かしいね。
いつか君からメールが来ると信じている。
僕は君がまた戻ってくるって··········。
転校する時「さよなら」は言わなかったね。
僕はまだ言わないよ!
☆
それから僕は君を想いながら中学に通い卒業した。
桜の花弁が咲き誇る今日は高校の入学式。
門の前を潜り抜け、その先で待っていたのは··········
待っていたのは君だった。
「ひ、久しぶりだね、菜穂」
僕はまた会えたことが嬉しくて、照れくさそうに声を掛ける。
「うん、健太久しぶりだね、元気そうじゃん」
「菜穂こっちに戻ってきてたんだね」
「そうだよ、お父さんの転勤終わって戻ってきた。何か健太背が高くなってるじゃん、しかも身体鍛えたの?」
「まぁね、このままじゃ駄目だって思ったから、あれから家の近くにあるボクシングジムに通って鍛えたんだ、いつかまた菜穂に出えたら、菜穂に、相応しい男になっていたくて··········」
「何それ··········」
「私もさ、健太にまた会えたら伝えたいことがあったんだよね」
「うん··········」
「私、健太を助けてからずっとずっと貴方のことが好きでした。 私と付き合ってください」
告白は君の方からだった。
「うん、僕も助けて貰ったあの日からずっと菜穂が好きでした、これからもよろしくお願いします」
こうして、僕達は奇跡が起きてまた出会えた。
あの時さよならを言わなかったのはこの為だったんだとと思う。
だから僕は今を、これからを大事に生きていこうと思います。
12/4/2022, 12:00:46 AM