三日月

Open App
7/8/2024, 1:52:51 AM

七夕

 願い事を込めて「三人で仲良く暮らせますように」と書いたのは一週間程前のこと。

 偶然買い物に来ていたデパートのロビーに、赤や黄色、水色や緑の短冊が飾られているのが目に飛び込んできて、迷いもせず一直線にそこへ向かうと、手には黒のマッキーペンと水色の短冊を手にしていた。

 臨月のお腹をしている私は、お腹を擦りながら、もうすぐ産まれてくる赤ちゃんと家族三人で暮らしていく未来を想像しながら短冊に書き込む。

 その後、暫く記した短冊を見つめた後、手を伸ばし紐を結ぼうとしたものの、お腹が苦しくなり笹に上手く結べずにいたせいで、そのままアタフタと時間だけが過ぎていった。

⋯⋯仕方ない、諦めよう!

 妊婦の私は、今無理してはいけないと思い、結ぶのを諦めバックにしまおうことにしたのである。

 ところが、近くに居た歳の召したオシャレな服装のお爺さんが私に声を掛けてくれたのです。

「大丈夫かい、結んであげますよ」そう言う、私の手にあった短冊をひょいっと手に取り結んでくれました。

「あの、ありがとうございました」

「いえいえ、せっかく書いたんだから、飾らないとね」

 そう言って微笑むと、後から来た孫と手を繋ぎ、お爺さんは買い物に行ってしまいました。

 それから一週間後のこと、丁度七夕の夜に寝ていたら破水した私は、そのまま病院へ行くことに。

 ところが、へその緒が絡まってるとのことで普通分娩は望めず、無事産まれるかも危ぶまれたりもしましたが、帝王切開になってしまったけれど、その日のうちに元気な男の子を無事出産することが出来ました。

 それから二週間後、退院が遅くなってしまったのですが、母子共に健康体で退院、そして、出産から五年過ぎた今、短冊の願い通り家族三人仲良く暮らしています。

 あの時、諦めようとしていた短冊を結んでくれたおい爺さんには、とても感謝しています。

 







4/9/2023, 9:28:20 PM

誰よりも、ずっと

 四月になり、桜も咲いて、街では制服に身を包んだ中高生を見かける機会も増えた。

 新年度の幕開け⋯⋯新型コロナウイルスの影響でマスク生活が当たり前になり、対面授業が減って友達や先生とのコミュニケーションが減ったのは仕方の無いことだろう。

 でも、今年からは、マスクを外す機会も増えるとの事で、お互いの表情を見ながら会話が出来そうだ。

 誰よりも、ずっとこの時を楽しみにしていたのは、私だけじゃない、皆んな不安もあるだろうけど、表情を見ながら会話することが嬉しく感じているに違いない。

「ねぇ、また|涼香《すずか》と同じクラスだね! また宜しく」

「うん、宜しくね|麻衣《まい》」

 高校の入学式に前に発表されたクラス分けの表をみて、親友の麻衣が嬉しそうに駆け寄ってきた。

「あっ、でもさ、私コミュ障なんだよね」

「えっ、麻衣ってコミュ障だっけ!?」

 私と会話する時、そんな事気にもなったことが無かったのに、突然そんなことを言ってきた。

「確かに、涼香となら上手く話せるんだけどさ、やっぱり他の子とはね⋯⋯」

「そう言われると、私も不安になってくるなぁ⋯⋯」

 何かで読んだけど、コミュ力が高い人=おしゃべりな人では無いって書いてあったのを読んだことがある。

 コミュ力って難しいなぁ⋯⋯。

 そのことを麻衣にも話す。  

「うん、うん、で、コミュ力高い人は、次に、どんな会話が来るのか予測して、機転のイイ返しをする事が出来るって⋯⋯それって涼香が言ってるのは、お笑い芸人の返しってことじゃん!」

「ま、まぁそうかもしれないけど⋯⋯」

「涼香の言ってるのって、私達にも必要なのかな?」

「分かんないけど、ツッコミが上手くなるよ!」

「もう、だから、ツッコミは要らんよ!! お笑い芸人目指したいわけじゃないんだからさ」

「麻衣ちゃん、確かに要らんね!!  えへへ」

 何かちょっと違ってしまった⋯⋯。

「会話はキャッチボール」って良く聞くから、コミュ力に必要なものって、相手の投げたボールを直ぐに打ち返すことなのかもしれない。

 今度はそのことを麻衣に話した。

「成程、涼香イイ事知ってるじゃん、コミュ力高い人は相手との会話を繋げる為に、直ぐに答えを打ち返すのがイイってことなわけだね」

「うん、うん、その通り、相手の質問に考えてから答えるんだと、話聞いてんのかなって変な空気作っちゃうから、直ぐに打ち返せば会話が続くらしいよ」

「それなら出来るかも、じゃぁ、今度から実践してみるよ!!」

「うん、それがイイね。  私も実践してみる」

 こうして、私達はコミュ力に不安を抱いているせいで、学校の帰り道この話で盛り上がった。

 まだ学校二日目、人生の主役は自分自身なのである。

 インターネットやSNSを使いこなしている世代だけど、実際会って話す機会が減ったのだから、リアルなコミュニケーションに苦手意識を持つのは当然かもしれない。


 

 

 


 












4/9/2023, 4:09:54 AM

これからも、ずっと

 結婚式を控えている矢先の事だった。

 僕が世界で一番愛している志穂が亡くなったのは。

 これからも、ずっと一緒に居るって約束したのに。

 それなのに志穂は·····志穂は自分の意思でこの世を去ってしまった。

 隣で笑っていた志穂の笑顔がずっと忘れられない。

 コロナ禍だし、お金が無いわけじゃないけど、先の事を見据えて、「結婚式は大々的にやる必要は無いからやらなくてイイよ!」なんて、僕のお嫁さんになる志穂は言ったよね。

 でも僕は志穂のウエディング姿が見たいと思っていたので、「結婚式は小さくてイイからチャペルで挙げよう」と提案したのは一年程前の事。

 志穂も本音はウエディングドレスが着たいという想いを抱いていたので、身内だけの式にする案に何とか賛成してくれて、準備は順調に進んでいった。

 所が、身内だけの挙式にしようとしたのが良くなかったらしい。

 結婚式を挙げる事を伝えた後から、志穂にはお金があると思ったのか、志穂の母親(小学生の頃離婚していて片親)が事ある毎に実の娘に対してお金をせびる様になったのだという。

 それを知ったのは志穂が亡くなる三日前のこと。

 半年ほど程前から志穂から笑顔が消えていていることに気付いたけど、人手不足で仕事が忙しいって説明してくれていたから、たまの休みには美味しいもの食べに連れてってあげたり、温泉に行ったりしたよね。

 暫くすると笑顔が戻って一安心していたけど、ふた月程前からどんなに手を尽くしても志穂に笑顔が戻らなくなっていた。

「今も仕事大変なの?」

「うん、人が入ると、別の人が辞めちゃうループがあってね·····それで常に人手不足!」

「大変だね、志穂は無理してない!?」

「ま、まぁね·····中々休みが思うように取れないけど、仕事は好きで働いてるか無理なんてしてないよ」

 そう言って一瞬笑ったあの時の笑顔·····。

 悔しいい!

 気付いていたら違ったのかな。

 本当は仕事だけでなくお母さんの事もかあったから、凄い大変だったんだよね、一緒にいたのに気付いてあげられなくてごめんなさい。



 


 

 








 

3/25/2023, 6:35:52 AM

ところにより雨

 自分の住んでるところは埼玉県の所沢市で、先輩の住んでるところは埼玉県の春日部。

 天気予報を確認してから家を出ようとしたのに、スマホの充電をし忘れていたようで充電が無い。

「あっちゃーやっちゃったー」

 部屋でそう呟くと、仕方ないので充電バッテリーを持ち出すことにした。

 これがあれば充電は出来るので困らないが、天気が調べられないことに気付き慌ててテレビを付ける。

 丁度お天気予報が流れていたので確認していると、埼玉県はところにより雨ということが分かったので、折りたたみ傘をバックに入れようとしたのに何処にも無い。

 仕方ないので玄関前にある傘を持ち出そうとしたけど、何処に置き忘れてきたのかビニール傘無いため、何も持たずに出掛けることにした。

 幸い、今は曇りで雨は降っていない、途中で買えば大丈夫だろうと思い、駅まで行くと電車に乗り込む。

 文化祭の実行委員をしていて、私が必要な物を買い出ししたりと、休みの人の分まで動いていたら、同じく実行委員をしていた先輩がご褒美に美味しいものをご馳走してくれると言うので、今日は先輩の住んでるところまで出掛けることになったのだ。

 本当なら、もう少し余裕を持って出掛けるべきだったのに、先輩に好意を抱いている私は、デートでも無いのに服装を決めることや、髪型、化粧に時間がかかり、出遅れてしまい、本来なら寄り道して傘を買う予定が出来ない。

 とりあえず遅刻は行けないと思いながら約束の駅迄向かうったものの、十分程遅れてしまっていた。

「すみません、遅くなりました」
「大丈夫だよ、僕も今来たところだから」

 駅の改札口で待っていた先輩は優しい口調でそう言った。
 
 いつも実行委員の時の集合時刻では、集合する時間より早く来て待っている先輩だったから、多分、今日も早く着いていたことだろう。

 それなのに、私には今来たと言ってくれる先輩。

 優しいなと思いながら、外に出ると外は結構な雨が降っていた。

「す、すみません、途中で傘を買おうと思ってたのに⋯⋯忘れてました」
「イイよ、大丈夫、それなら僕の傘に入りな」

 そう言って、先輩は手に持っていた傘を広げると中に入れてくれ⋯⋯。

⋯⋯こ、これってアイアイ傘⋯⋯せ、先輩と⋯⋯。

 緊張して心臓がバクバクなる音が聞こえてくる。

 案外人通りが多いので通行人とすれ違う度に、恥ずかしさが襲う。

 学校付近じゃ無くて良かったと思いつつ、先輩をチラリと見ると、先輩の頬が少し赤くなっているように感じた。

 季節は春、三月の終業式後の日曜日で、昨日は晴れていて夏かと思う程だったのに、今日は十度も下がり寒いせいだろうか?  それとも⋯⋯。

 ところにより雨の予報のお陰で、お店までの道のり恋人気分を味わえたのははちょっと嬉しい気分だった。

 一つ上の先輩⋯⋯新学年から先輩は三年生で、私は二年生となる。

 先輩お勧めのお店に着くと、店内で、それも個室で二人で食べる⋯⋯雑談しながら、笑いあって⋯⋯。

「ご馳走様でした、美味しかったです」
「良かった、喜んで貰えて」

 帰り道は雨が止み、アイアイ傘は出来なかったけど、先輩と二人並んで歩けるだけで幸せな私。

「あのさ、僕は三年でもまた文化祭の実行委員やろうと思ってるんだけど、良かったらまた一緒にやらない?」
「は、はい⋯⋯喜んで⋯⋯えへへ」

 先輩に誘われて、嬉しくて仕方のない私。
 
 もう実行委員はやりたくないって思ったけど、大好きな先輩もやるなら絶対やろうって思えた。

 後一年、先輩が卒業する迄に自分の思いを伝えて告白しようと決心しながら、駅で別れる時のこと。

 改札口を通ろうとしたら、腕を引っ張られて、先輩に引き寄せられるがまま、先輩の腕の中へ。

「あ、あのさ、ちょっとだけこうさせて」
「はい」

 先輩の心臓のバクバクする音が聞こえてくる。

「その、実行委員で一緒になった時からずっと好きです」
「えっ!?」
「もし、良かったら僕と付き合ってください」
「は、はい、喜んで」

 それは突然の告だった。

 まさか先輩も私の事好きだったとは⋯⋯。

 こうして、私が告白しようと決意したのに、早くもカレカノになった私達、これからはアイアイ傘も恥ずかしくないね。 えへへ。

 帰り際、人目のつかないところでキスをしてもらい、私は家路に向かった。

 この恋が長く続きますように!!

――三日月――

 

3/14/2023, 12:50:35 AM

ずっと隣で

「もう知らない!  |啓司《 けいじ》くん大嫌い」

「はぁ、何だよ大嫌いって?」

「こっちこそ|結愛《 ゆあ》のこと嫌いだから」

「もう私達別れよう」

「そうだな、もうお終い、別れよう」

 私と啓司くんは幼稚園からの良くある幼馴染。

 異性として意識したことはずっと無かった。

 それも高校二年の三学期の始業式迄は⋯⋯。

 ところがその日の帰り道で告白を受けることになる。

「高校に入ってから、結愛のこと異性として見てた」

「えっ⋯⋯急にどうしたの啓司くん」

「僕は結愛のことが大好きデス」

「ま、マジ⋯⋯」

「この間結愛が告白を受けてた時、正直嫉妬した」

「啓司くん⋯⋯」

「結愛は僕が守る!  付き合って下さい」

「う、うん、宜しくお願いします」

 その日から、私は啓司くんと付き合うことになった。

 相変わらず仲の良さは変わらないまま。

 でも、啓司くんを異性として見るようになっていた。

 ほんの些細な仕草でも照れくさくなる。

 今までは感じたことの無い感情!!

 手と手が触れただけでドキッとするようになった。

 今までずっと隣で笑いあってたはずなのに。

 今はドキッとする瞬間が増えた気がする。

「ねぇ、啓司くんは何でSNSやり始めたの?」

「小説書いてみたかったんだよ、前に言ったろ」

「始めることに何か意味があるの?」

「仲間が出来るし、投稿したの宣伝できる」

「ふーん、そうなんだ!!」

「あれ、結愛は僕がSNSやるの嫌だった?」

「よく分から無いから嫌とかないけど······」

「なら、結愛も始めてみたら、僕フォローしてイイよ」

「う、うん······」

 私もやってみることにした。

 啓司は沢山のフォローとフォロアーがいる。

 真似て同じ人をフォローしてみた。

······わ、私も小説書いて見ようかな! 楽しそうだし。

 一緒にいて、啓司はスマホばっか見ている。

 そんな啓司を見て私は何だか少し寂しく感じていた。

······なら、私もやればいいじゃん!  

 寂しがり屋の私はそう思ったのだ。

······同じ趣味の話が出来るようになるし、イイよね。

 そう思っていたのに、既に時遅し!

 啓司にはもう既に小説仲間がいた。

 どうやらDMでグループを作り会話している模様。

 それも私がいるのに、ずっと隣で······。

 悔しいけど嫉妬した。

「ねぇ、啓司くん私寂しい」
 
「えっ?」

「だってずっと会話してるじゃん」

「変な会話してないよ」

「でも寂しいの」

「なら見てみる?」

「イイの?」
 
「イイよ?  何も無いもん」

 会話してる内容を見せてもらう。

「この人達は男性?」

「女性だよ!  色々小説のこと教えて貰ってる」

 啓司くんの口から女性と聞いて嫌な気持ちになった。

「言っとくけど浮気してないから」

「うん、分かってるけど」

 でもかじりつくように啓司くんは画面から離れない。

 嫌な気持ちは増していった。

······私は無視でイイ存在なの?

 ずっと隣で私は啓司くんが会話を終えるのを待つ。

 なのに一向に終わらない会話······。

 せっかく自分も小説始めたのに······。

 啓司くんの彼女になったのに······。

 何もかもが嫌になっていた。

 それは。生きることさえも······。

 そんなある日、啓司くんがDMでやり取りしてる子にプレゼントを送っていたことが発覚する。

「ねぇ、何でコーヒー送ったの?」

「お世話になったからだよ!  ダメだった?」

······駄目にきまってるじゃん

「私は内緒でこんなことされるの嫌なんだけど!」

「別に浮気じゃないから」

······浮気だよ!

······プレゼント選ぶ時、彼女の喜ぶ顔想像してるもん。

···心の浮気だよ

「でも、私は嫌だ!  浮気だよ」 

「何言ってんの?  意味が分からない」

「啓司くんのこと好きなの」

「はいはい、もうしません」

 そう約束してくれたはずだった。

 でも、裏切られることになる。

 また彼女にコーヒー送ってた。

 それも私には内緒で。

「ありがとう!」

 彼と一緒に、彼のDMを見たら書いてあった。

 それも写メ付きで。

 この時、私の精神が崩壊した。

 ショックだったし、ここから消えたいと······。

「啓司くんの嘘つき」

「だから、浮気じゃないし」

「約束したじゃん」

「だって結愛が怒るからね」

「何それ······」

「いちいちウザイ!  邪魔しないで欲しい」

「······」

「もう、見ないで、僕のフォロー外してくんない?」
 
「······やだ」

「何で?  あのさ、そんなに邪魔して楽しい?」

「邪魔してないよ!  私は啓司くんが好きなの」

「だから何?」

「私も小説始めたよ」

「あのさ、真似しないで欲しいんだけど······」

「何でよ、楽しそうだったし、私も仲間入りたい」

「今の結愛嫌い!  普通にしてる結愛が好きなのに」

「······」

 否定されて悲しくて、耐えられなかった。

 ただ、ずっと隣で同じことしてたかっただけなのに。

 寂しがり屋だから同じ趣味で沢山会話がしたかった。

 ただそれだけの事なのに、悔しくて!

 だから別れる決心をした。

 怒られるくらいなら一緒に居ない方が良いのだろう。

「啓司くん別れよう」

「そうだな、別れよう」
 
 啓司くんも別れようと言った。

 引き止められたりしなかったのが少し残念だけど。

 付き合ってない時は仲良かった。

 些細なことで喧嘩してもすぐ仲直りしたよね。

 価値観やすれ違いがあっても離れなかった。

 でも、今は違う。

 二人は別れを選択したのだ。

「啓司くん、今まで愛してくれてありがとう」

「お、おう······」

······貴方の包み込んでくれた優しさは忘れません。

······貴方が愛してくれたことも忘れません。

······二人の為に、私は一歩踏みだします!

······啓司くんさようなら。

 心の中で呟くと私は彼の家を後にした。

 明日の私は元気でありますように!

 笑顔でありますように!

――三日月――

Next