三日月

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ところにより雨

 自分の住んでるところは埼玉県の所沢市で、先輩の住んでるところは埼玉県の春日部。

 天気予報を確認してから家を出ようとしたのに、スマホの充電をし忘れていたようで充電が無い。

「あっちゃーやっちゃったー」

 部屋でそう呟くと、仕方ないので充電バッテリーを持ち出すことにした。

 これがあれば充電は出来るので困らないが、天気が調べられないことに気付き慌ててテレビを付ける。

 丁度お天気予報が流れていたので確認していると、埼玉県はところにより雨ということが分かったので、折りたたみ傘をバックに入れようとしたのに何処にも無い。

 仕方ないので玄関前にある傘を持ち出そうとしたけど、何処に置き忘れてきたのかビニール傘無いため、何も持たずに出掛けることにした。

 幸い、今は曇りで雨は降っていない、途中で買えば大丈夫だろうと思い、駅まで行くと電車に乗り込む。

 文化祭の実行委員をしていて、私が必要な物を買い出ししたりと、休みの人の分まで動いていたら、同じく実行委員をしていた先輩がご褒美に美味しいものをご馳走してくれると言うので、今日は先輩の住んでるところまで出掛けることになったのだ。

 本当なら、もう少し余裕を持って出掛けるべきだったのに、先輩に好意を抱いている私は、デートでも無いのに服装を決めることや、髪型、化粧に時間がかかり、出遅れてしまい、本来なら寄り道して傘を買う予定が出来ない。

 とりあえず遅刻は行けないと思いながら約束の駅迄向かうったものの、十分程遅れてしまっていた。

「すみません、遅くなりました」
「大丈夫だよ、僕も今来たところだから」

 駅の改札口で待っていた先輩は優しい口調でそう言った。
 
 いつも実行委員の時の集合時刻では、集合する時間より早く来て待っている先輩だったから、多分、今日も早く着いていたことだろう。

 それなのに、私には今来たと言ってくれる先輩。

 優しいなと思いながら、外に出ると外は結構な雨が降っていた。

「す、すみません、途中で傘を買おうと思ってたのに⋯⋯忘れてました」
「イイよ、大丈夫、それなら僕の傘に入りな」

 そう言って、先輩は手に持っていた傘を広げると中に入れてくれ⋯⋯。

⋯⋯こ、これってアイアイ傘⋯⋯せ、先輩と⋯⋯。

 緊張して心臓がバクバクなる音が聞こえてくる。

 案外人通りが多いので通行人とすれ違う度に、恥ずかしさが襲う。

 学校付近じゃ無くて良かったと思いつつ、先輩をチラリと見ると、先輩の頬が少し赤くなっているように感じた。

 季節は春、三月の終業式後の日曜日で、昨日は晴れていて夏かと思う程だったのに、今日は十度も下がり寒いせいだろうか?  それとも⋯⋯。

 ところにより雨の予報のお陰で、お店までの道のり恋人気分を味わえたのははちょっと嬉しい気分だった。

 一つ上の先輩⋯⋯新学年から先輩は三年生で、私は二年生となる。

 先輩お勧めのお店に着くと、店内で、それも個室で二人で食べる⋯⋯雑談しながら、笑いあって⋯⋯。

「ご馳走様でした、美味しかったです」
「良かった、喜んで貰えて」

 帰り道は雨が止み、アイアイ傘は出来なかったけど、先輩と二人並んで歩けるだけで幸せな私。

「あのさ、僕は三年でもまた文化祭の実行委員やろうと思ってるんだけど、良かったらまた一緒にやらない?」
「は、はい⋯⋯喜んで⋯⋯えへへ」

 先輩に誘われて、嬉しくて仕方のない私。
 
 もう実行委員はやりたくないって思ったけど、大好きな先輩もやるなら絶対やろうって思えた。

 後一年、先輩が卒業する迄に自分の思いを伝えて告白しようと決心しながら、駅で別れる時のこと。

 改札口を通ろうとしたら、腕を引っ張られて、先輩に引き寄せられるがまま、先輩の腕の中へ。

「あ、あのさ、ちょっとだけこうさせて」
「はい」

 先輩の心臓のバクバクする音が聞こえてくる。

「その、実行委員で一緒になった時からずっと好きです」
「えっ!?」
「もし、良かったら僕と付き合ってください」
「は、はい、喜んで」

 それは突然の告だった。

 まさか先輩も私の事好きだったとは⋯⋯。

 こうして、私が告白しようと決意したのに、早くもカレカノになった私達、これからはアイアイ傘も恥ずかしくないね。 えへへ。

 帰り際、人目のつかないところでキスをしてもらい、私は家路に向かった。

 この恋が長く続きますように!!

――三日月――

 

3/25/2023, 6:35:52 AM