三日月

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距離


僕|仮宮遊助《かりみやゆうすけ》には小学校からの幼なじみの|倉持華《くらもちはな》がいて、隣同士ってこともあってか小学校の頃は朝も帰りも一緒の班だったからいつも一緒に登下校していた。

それは中学でも同じで…………現在高校生になってからも自転車で一緒に登下校している。

それは、自然に…………当たり前のことのように。

華と僕がアニメ好きってこともあって、登校中はその日見た深夜アニメの話や、学校の提出物の課題についての出来事をお互い話すのだけど、帰りは決まって華がその日楽しかったことや面白かったことなど、学校の出来事を沢山話してくれるので僕は決まっていつも聞き役に徹している。

倉持華は、勉強も出来て、スポーツもそれなりに出来て、ピアノが弾けて、絵も上手い。

彼女はいつも肩下迄ある白銀髪色(ホワイトアッシュ)のロングヘアを窓から入り込む風に揺られながら、休み時間になると決まって教室にあるオルガンで演奏をする。

ピアノを弾いたことがない僕からしたら、両手バラバラに演奏し、両手で違うリズムを奏でてメロディーを弾くことが出来て凄いなと思っていた。

いつも、鍵盤の上を舞うしなやかな彼女の指使いと心地よい音色に癒されるのは決して僕だけではない。

………クラス中…………他クラスの人も休み時間が始まり、彼女の演奏が始まると、直ぐに皆が彼女の周りに集まってくるし、先生達もわざわざ聞きにくることもあった。

僕はそんなピアノが弾ける華のことが可愛く見えて仕方なく、上品で知的な感じがする華のことが大好きだった…………幼なじみとしても、一人の女の子としても。

でも、クラスでカースト順位が上位に位置する彼女は、クラスでのカースト順位が底辺な陰キャな僕とは違い、友達も多くて普段学校内ではほとんどぼっちの僕なんかとは話すことが無く、僕と華には距離があった。


そんなある日の放課後のことだった、僕はクラスのカースト順位が上位に位置する|野坂茂雄《のざかしげお》の二人しかいない教室で茂雄が僕なんかに話し掛けてきたのだ。

「遊助さ、華とはどんな関係なの?」

「ええっと、僕と華は小学校からの幼なじみで、中学校も同じで…………」

「じゃぁさ、遊助と華はいつも一緒に登下校してるけど付き合ってはいないってことなんだな?」

「ま、まぁ、そうだね…………」

「そっか、やっぱり付き合ってはいないんだな!  華ちゃんと話してるといつも遊助の話が出てくるから気になってたんだよ。  でも、そっか、そっか、二人は幼なじみってだけの関係ってわけか、てっきり付き合ってるのかと思ったから安心したよ。  だったらさ、遊助にお願いがあるんだねど、僕と華のこと応援してくれないかな?」

「茂雄と華のことを応援…………!?」

「うん、実は僕華に惚れちゃって…………告白しようと思ってるんだよ」

「こ、告白!?」

「そうだけど…………って何遊助驚いてるんだよ!」

「ご、ごめん」

いきなり告白だなんて聞かされて驚かない方がどうかしている。

付き合ってはいないけど、僕だって華が好きな気持ちがあったから…………まさか、僕より先に告白しようとしている人が現れるなんて…………。

だからってこんな僕には抗うことも出来ない。

ただ現実を受け止めるだけで精一杯だった。

きっとカースト順位上位に位置する茂雄が告白なんかすれば、きっと華はオーケーするに違いないだろう。

茂雄は勉強もスポーツも万能で、イケメンな上にサッカーが得意でいつも茂雄が部活でサッカーしてる時は女子の歓声が響いている。

そんな人気者の二人なのだから、理想のカップルとなることだろう。

そう思ったら、なんにも得意とするものが無い、陰キャな自分がなんだか惨めに不甲斐なく思えた。

「それでなんだけど、華と付き合っていないんだったら、金輪際華とは関わらないでもらえないかな」

続けて茂雄はそんなことを言ってきた。

「えっと…………その…………」

頭がバグる…………関わらないってなんだよ…………。

「良いか、これからは華と話もしないし、一緒にも帰らないってこと」

「ちょっとまってよ、そ、そのくらいは…………」

「なんだよ!  遊助のくせにそれは出来ないって言い出すのかよ!?」

そう言って茂雄は僕の胸ぐらを掴むと睨んできた。

「げほ、げほ…………は、はい」

従うざる負えない状況だった。

僕なんかに選ぶ権利すら存在しないのである。

「ちょっと…………何してるのよ茂雄くん」

丁度そこへ担任の先生に用事があって職員室に行っていたはずの華がタイミング良く戻ってきたのだ。

華にこの状況を見られたくないのか、茂雄は直ぐに胸ぐらを掴んでいた手を話す。

「な、なんもしてはい無いよ、な、遊助!」

「う、うん…………」

強ばりながらそう答える。

「あのさ、私の目は誤魔化せ無いんだからね。  この際だから言っとくけど、私は誰とも付き合ったりしないから、私には好きな人がいるの」

「…………!?」

僕は言葉が出ない程、華の言った言葉を聞いて驚いた。

「好きな人居るんだね、それ誰、もしかして遊助?」

茂雄は僕を見ながら目の前にいる華に問いかける。

「うん、そうだよ」

そう言って華は照れくさそうにコクリと頷く。

「…………ふーん、じゃぁな!」

茂雄は僕を一瞬睨むと、その場を足早に去って行った。

「あ、あのね、さっきの話なんだけど、あれ本当だから」

「それって、僕を好きってこと」

「うん、そうだよ…………って何度も言わせないでよね」

僕の問い掛けに、頬が赤らんだ華は、はにかみながらそう答えた。

「ずっと言えずにいたけど、ぼ、僕も華のことが大好きです」

照れくさくて下を向いたまま言ったので、僕が頭を上げると華と目が合い、暫く見つめ合ってからどちらともなく笑い出してしまった。

笑いが収まると、二人はまた見つめ合って…………。

「遊助これからもよろしくね」

「うん、華、僕の方ことよろしくお願いします」

それから暫く二人で抱き合った後、お互い初めての初キスをした。

キスの味は甘くて…………。

僕と華の距離は今日からゼロセンチです。




12/2/2022, 2:56:15 AM