三日月

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光と闇の狭間で

ホストに狂った親友の|沖田愛佳《おきたまなか》がいる。

私|工藤明日香《くどうあすか》と愛佳は現役の女子大生であり、田舎者。

そんな私達は最初別々に部屋を借りて住んでいたけど、今現在は東京で借りた家に二人でシェアしをしている。

学校で愛佳と出会ってから、田舎者同士の私達は意気投合。

「東京で生活するのにやっぱり家賃は高くて勿体ないじゃん、だから私達一緒に住まない!?」

そう愛佳に誘われ、一つ返事で今に至る。

ところが、学業優先の私達は、一応の仕送りがあるものの、それでは到底まかなえないので、昼間や夜にコンビニやファミレスでバイトをしていた。

けれど、愛佳が突然夜の仕事だけにシフトしたのだ。

それも夜の仕事にシフトしたのは彼氏と別れてからのこと··········。

幾ら親友だからといって、なんの仕事をしているのかまで聞くつもりは無かったけど、ある日洋服のポケットから名刺らしきものを発見してしまった。


その名刺は高級ソープの名刺で、そこには女の子の名前が書かれていた。

(こ、これってもしかして愛佳のこと!?)

発見した名刺を持つ手が急に震え出すのが分かる。

大学生とはいえ、収入を得る為に風俗をしている子は、案外多く、私の学校の友達にも数人している子を知っていた。

でも、だからといって愛佳は私とシェアしている身の程、家賃だって折半しているのに何でそんなにお金が必要だと言うのだろうか?

不思議で、不安で仕方の無い私。

深夜遅くに帰宅した愛佳に、私は勇気を出して問い詰める。

「あのさ、これなんだけど··········」

手にしていた名刺を愛佳の目の前に差し出す。

「ああ、これね、なーんだもう明日香気付いちゃったんだ。  これね、私の名刺、今ここのソープ嬢してるんだよ」

愛佳は名刺を目にすると、夜の仕事が悪いと思わないのか、ペラペラ喋りだした。

「な、何で愛佳はここで働いてるの?  生活するのにそんなにお金必要だっけ?」

ドキドキしながら質問をする。

「んー、それがさ、私、大分前に彼氏と別れてるじゃん、でも今になって新しい彼氏出来たんだよね。 それで今はその彼氏のこと応援してるからさ··········」

淡々と話す愛佳だけど、その愛佳の口から出てくる彼氏というのが引っかかる。

(彼氏を応援する為にお金が必要!?)

感の良い私は、勘づいてしまった。

そう、その彼氏というのがホストだと言う事に!!

それから愛佳に対して何も言葉が出なかった。

ホストのことを彼氏と呼ぶという事は、もうホスト狂いしてるのだろう。

ホストに通っていることすら気付けなかった自分にも責任があるのだと思うと、悲しくて、悔しくて··········私はとても複雑な心境になっていた。

でも、だからといって、もし今ここで、私が愛佳を責めたて立ててしまったら、家出するかもしれないし、自殺して死んでしまうかもしれない··········そう思ったらやっぱり愛佳を前に何も言えなくなってしまった。

「そっか、愛佳お仕事無理しないでね」

私は彼女の身体を気遣う言葉しかその時は言え無かった。

ホストにハマる子は多いと聞く、そして、ホストにハマり風俗をやる子も多い。

愛佳もホストにハマり、お金が必要になって風俗の仕事に就いたのだろう··········もう完全に沼っている。

そんな愛佳に、私はホスト行かないで欲しいと願っているけれど、ホスト狂いの愛佳に「行くの止めて」というのは、愛佳からしたら「死ね」って言われてるくらい辛いことに違いないだろう。

私はどうしたら良いか分からなくなってしまった。

風俗をやめさてたとしても、ヤミ金に手を付けてしまうかもしれない··········等、色々考えてしまうからだ。

お陰で、布団の中にいるのにちっとも眠れないまま、朝を迎えることに。

学校に行くと、私は別の友達|真下香織《ましたかおり》に相談してみることにした。

「ねえ、かおりん、愛佳のことなんだけどちょっといいかな」

この際だから、洗いざらい話した。

「そっか、愛佳がホスト狂いとはね··········」

「うん、私はホストも風俗も良くないと思ってて、愛佳に止めさせたいんだよね」

「それは難しいかもね、ホストって、基本的にあげて、あげて落とすの、その人のコンプレックスな部分を褒めちぎって心を満たしてくれる」

「心を満たすかぁ··········かおりん詳しいね」

「仲の良い親戚のお兄ちゃんがホストしてるんだよ」

「成程、それで知ってるんだね」

良かった!  あまりにも詳しく言うから、かおりんがホスト通いでもしてるじゃないのかと思ってしまったじゃないか。

その後も、かおりんは色々教えてくれた。

ホストはある程度甘い言葉を言い続けた後、突然何もしなくなることで心が満たされていたのを寂しくさせるのだという、そして恋しくなり、ホストに褒められたい、甘い言葉を囁いて貰いたいという感情になり、止められなくなるということまで。

「それじゃ、難しいね。  何だかんだかマインドコントロールみたいで宗教みたい」

「そうかもね、明日香ちゃんが愛佳のこと思う気持ちはわかるけど、やっぱりこればっかりは難しいかもね」

「かおりん、何か方法ないのかな」

「愛佳本人が彼氏っていってる以上縁を切らせるって難しいよ。  ホストってさ、本気で普通の男の人と付き合うより楽じゃん、大体の我儘聞いてくれるし、腹立つこと言わないし、なにより話を聞いてくれるんだもの」

「そうだよね··········」

「愛佳ちゃんには彼氏がいたけど、別れちゃったんでしょ、だからさ、満たされない気持ちを埋めつくしてくれたのがホストだったんじゃないかな!」

(満たされない気持ち··········ね··········)

「だから、明日香は愛佳のことほっとけば良いと思う、多分今の現状から戻ってきた時、愛佳はお金のことで後悔するかもしれないけど、あの時ホストが支えてくれたからやってこれたんだって心の後悔しないんじゃないかな」

「ふーん、心の後悔はない··········なるほどね」

今までホストが悪でしかないと思っていたけど、それだけじゃないことを知った私。

かおりんのお陰で心のモヤモヤが解消された気がする。

その後、私は愛佳とのシェア生活を解消した。

一緒に暮らしていたら、色々余計なことを言ってしまいそうだからかだ。


私は一親友として、これからも愛佳を見守って行こうと思います。


12/2/2022, 11:32:48 PM