安達 リョウ

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8/22/2024, 3:06:06 AM

鳥のように(猛特訓)


頭部と嘴は段ボール。折り紙を貼り合わせ目を作り、羽根は色画用紙を重ね合わせてそれっぼく演出する。
手を動かせばまるで羽ばたいているよう、飛んでいるよう。
「………何のお遊びだ、それは?」
家の中でどたどたと走り回る双子に、特に関心はないがとりあえず一応聞いてやる。

「「おゆうぎ会のれんしゅー」」

どたどたどた、どたどたどた。
―――鳥ならもう少し優雅に翔べと言いたいが、そこはお子様のお遊戯会。目を覆いたくなるようなのでなければ、クオリティーを極めろとは誰も言うまい。

「お遊戯会? 鳥ってことは桃太郎か?」
雉には見えないが。
「「違う」」
「じゃあさるかに合戦?」
って鳥っていたっけ。
「「違う!」」
どたどたどた、どたどたどた。
………足音だけは一人前だなおい。

「にいに知らないの? 舌切りすずめ」
「すずめがおんがえしする昔のおはなし」

ああ雀だったのか。
ってかその雀、そんな風にどたばた暴れ回らないだろ………

「最後につららもらって帰るやつ」
「つづらな」
つらら貰っても嬉しくないし溶けるだろ、とバカ正直に突っ込んでやるものの双子どもは何も聞いちゃいない。自主練に夢中だ。

「にいにだったらつらら、どっち持って帰る?」
「大きいのか、小さいのか」

―――話のクライマックス、メインのくだりか。
俺はう〜ん、と考えるフリをしてにやりと笑い、小さい方だなと答えた。
「俺は謙虚で慎み深いから」

………。
双子が同時にぴたりと止まる。

「「うそつきすぎてわらえない」」
こんたんミエミエすぎて、たぶん小さいのからもようかいとかヘビとかいらないもの出てくる。
「………。いいだろ別に」
お前らの昔話はキビしいねえ。

どたどたどた、どたどたどた。

―――羽をばたつかせ駆け回る姿を尻目に、俺は一体どんなお遊戯会になるやら、と
教える側の苦労を思い、ひとり憂うのだった。


END.

8/21/2024, 5:44:32 AM

さよならを言う前に(逆転のホームラン)


「あっ。待って」

―――帰りのホームルームが終わり、教室を出たところで彼女に呼び止められた。
彼女とは双子を通じて絵画展、自転車の練習とここのところいい感じで距離が縮まっていて、俺としてもそれなりに手応えを感じているだけに何事かと内心ドギマギする。

「あのこれ、夏休みに旅行でテーマパークに行った時のお土産なんだけど、良かったら………」
そう言い取り出した小さな袋に、俺の鼓動が高鳴る。
旅行のお土産。え、このサイズからしてキーホルダー? ………もしやペアの片割れとか!?

「双子ちゃんに」

「………。あいつら、に?」
がっくりと肩を落としそうになって、俺はヤバいと不自然に姿勢を正す。何してんだしっかりしろ、俺。
「え、本当に? 有り難いけど―――もしかしてあの二人に催促された?」
不穏な空気になりかけ、彼女が慌てて否定する。
「違うの、これはわたしからの純粋なプレゼント。いつも楽しく相手してもらってるから」
「いや逆だよ。あいつらの相手してもらってる上にこんなお土産まで貰って………ごめんな。ありがとう」
頭を下げる俺に、そんな、いいのと彼女が勢い良く片手を横に振る。
「誘ってもらって、いつも本当に楽しくさせてもらってるから。わたし一人っ子だから余計に嬉しくて」
こちらこそ、ありがとうね。
そう微笑まれて、こちらも自然と笑顔になる。
「あいつらの喜ぶ顔が見えるよ。渡しとくな」
「うん。じゃまたね」

―――手を振る彼女に、俺は咄嗟にあのさ、と声を出した。どうしてだか、今しかないと思った。
「今度の休みさ、一緒に、遊びに行かね?」
自分でも驚く。そんな勇気どこから湧いたんだと。
緊張に上擦った声は―――、彼女に届いただろうか。

「………うん。いいよ。でも、」

双子ちゃん抜きでね。

―――え。とだけ呟いて確認できぬまま、彼女はまたねと待たせていた友達を追って、小走りに去って行ってしまう。

その後ろ姿を呆然と眺め見送った後、

「!!!」

………我に返った俺は、周りが引くほどのガッツポーズで喜びを表していた。


END.

8/20/2024, 2:35:00 AM

空模様(幸運の象徴)


新しい長靴、新しい傘。
あいにくの空模様の下、双子がご機嫌な様子で庭先を闊歩しているのが見えた。
―――あいつら登園前に濡れまくって、また怒られんぞ。
ダイニングでパンをかじりながら、俺は呆れた溜息をつく。

まだまだ暑さの残る中、久し振りの雨。
まるで梅雨に戻ったような、しとしと具合にげんなりする。

―――天気の良し悪しで気分が左右されるのは、何も今日に始まったことではない。滅入っているのは夏の疲れからくるメンタル不調、………なのか。
何とか気持ちを奮い立たせたい。
彼女と普通に話せるまでになった今、もうひと頑張りで進展も夢じゃない、というところまで来ているというのに。

ああ全部この鉛色の空が悪い。
俺のテンションが回復するにはせめて、

「「あー! 虹!!」」

そう、虹でもかかってくれれば―――

って。え?

双子達の嬉しそうな声に窓の外に目を向ける。
座ったままでは確認できず、俺は立ち上がって窓際から覗き込んだ。

大きな半輪、七色の色が織り成す透明感。
………いやいつも七色なんて数えられた試しなどないのだけど。
その混じりけのない鮮やかさに、ほら元気を出せ、と言われているようで参った。
都合の良い解釈と捉えられても構わない。
そう思えば何だか気分も上昇しそうな気がした。

―――暫くして俺は外に出て、自転車の準備をする。
まだ新品雨グッズに夢中な双子に、お前らも早く支度しろと言い置いてペダルを踏み込んだ。

「「いってらっしゃーい!!」」

相変わらず元気の塊みたいな二人の声が背に響く。

俺は虹に向かって自転車を漕ぎなから、こんな景色滅多に拝めないよなあと呟いて―――ほんの少しだけ口角を上げると、鬱々した己の内を吹き飛ばすように空を仰ぎ、笑った。


END.

8/19/2024, 5:08:52 AM

鏡(真似したいお年頃)


普段何かと喧しい双子が静かなことなど滅多にない。
そういう時は大抵余計な、いけない何かに夢中になっているのはもう、お約束だった。

「………おい」
―――ぎくり。
漫画で擬音語をつけるならそれが一番的確であろう双子どもの動作に、思わず吹き出しそうになる。
それでも俺はあくまでも低く、威厳を持って鏡台の前に座る二人に背後から声をかけた。

「………。にいに」
「何しにきた」

振り向きもせず問いかける不自然さに俺は首を捻る。
「何ってこっちのセリフだろうが。親の鏡台の前に居座って、二人で一体何して―――」
るんだ、と。言い終える前に振り返った二人の顔は、―――何とも形容し難いほどの、面白いくらいぶ厚い化粧で覆われていた。

「く、………くくっ」

笑うまい。態度に出すまい。と思えば思うほど込み上げてくる可笑しさに耐えきれず―――俺はとうとう腹を抱えて、双子を目の前に大笑いしてしまう。
「お、お前ら………その、顔」
「にいに! しつれい! れでぃーに向かって!」
「何でわらう! れでぃーにあやまって!」
甲高い声で騒ぐ二人のうるささに俺は耳を塞ぐ。
一体何に感化されたんだ、こいつらは? いやそんな顔でこっち見んな。笑いが止まらん。
「てか謝るのはお前らの方だろ。バレても知らんぞ」
「「え」」
双子が一瞬にして動きを止める。と同時に、青ざめた表情で俺に縋るような目を向けた。
「今からいそいで落とすから、にいにだまってて」
「おねがい。ね?」
「えー? 今まで散々好き勝手やられたからなあ」
どーすっかなあ。
ニヤニヤと圧をかけると、それを受けて途端に双子の態度が一変した。

「いいからだまってて。じゃないとおねーさんにこれ送るよ」

取り出したのは、またも俺のスマホ。
しかも昨日一悶着あったタオルケットで気持ち良く眠っている、写真―――ではなく、まさかの動画。
「は!? 何だそれ!!」
「『にいにはおきにいりのタオルケットを捨てられてけきどして泣いてました』って今からおくる?」
!!!

―――俺はそれをぶん取ろうと必死に追いかけるが、双子は見事な連携プレーで悉く脇をすり抜けていく。

「だまってるってやくそく!して!」
「して!」
〜〜〜〜〜………。
「わかった! わかったから消せ、それ!」
「落として、いんぺいできたら消してかえす」
隠蔽………。

悪賢さに磨きがかかってきた双子どもに、俺は脱力して肩を落とす。
いつかお仕置きしてやると歯噛みするものの、想い人に何を吹き込まれるかと思うと迂闊には手を出せない……。

―――そんな俺に双子どもは鼻歌交じりに鏡台の前でメイクを落としながら、にやりと笑みを浮かべるのだった。


END.

8/18/2024, 6:31:11 AM

いつまでも捨てられないもの(個々の自由)


ぜったいぜったい、ぜーーーっっったい、捨てちゃダメ!!!

せっかくの日曜日。
いつまでも布団の中で微睡んでいようと目論んでいた俺は、リビングに響く双子らの怒号で叩き起こされた。
―――捨てるな? って、何をだ何を。
眠さに目を擦りながら階下に降りていくと、双子がでかい縫いぐるみを抱え込んで憮然としている。

「………朝っぱらから何を騒いでんだお前らは」
「ぬいぐるみ捨てるとかいうから、そししてた」
「だいじなこなのに、すてるとかきちくなこと言う」
………縫いぐるみ、ねえ。
つと見遣ると、薄汚れているどころか明らかに“汚い”と表現するのが最適なそれが双子達の腕の中にすっぽりと収まっている。

「だいぶキてるなそれ。そりゃ捨てるって言われるわ」
「ずっと一緒にいきてきたのに、そんなことするわけない。にいにくずすぎ」
「誰がクズだ。だったらせめて洗えよ」
「あらったら形くずれて見るもむざんになる。むり」
両側から二人にぎゅうと抱きつかれる、大きなクマの縫いぐるみ。これほど愛を込められて、何とはなしに嬉しそうに見えるその顔がいじらしい。

「………。まあ人間ひとつやふたつ、捨てられないものもあるからとっとけばいいんじゃね」
ファブって天日干しして、コロコロガンかければちっとはマシになるだろ。
そう助言してやると双子の表情が途端に華やぎ、わかったそうする!と二人は同時に素直に頷いた。
これで一件落着。よかったよかった―――と再度二度寝をしようと二階へ上がりかける俺の横を、母親が何かを手に持って通り過ぎた。

「え、なに。どうすんのそれ」
「え? 捨てるのよ、決まってるでしょ」
捨て………る?
「は!? ダメに決まってんだろ、何勝手なことしてんだよ!」
俺は鬼の形相で母からそれを引ったくる。
「にいにそれなに?」
「だいじなもの?」
―――尋ねる双子を他所に、俺は母に詰め寄った。

「昔から使ってるタオルケットだって知ってんだろ!? これじゃないと俺、眠れねーから!」

………。このすっごいぼろぼろの?
………。このくまさんよりねんきの入ってる?
タオルケット………。

にいに、と双子が兄の服の裾を両端から引っ張る。
「あ? なん、………」

「「すてな」」

………。
双子の容赦ない一言に、俺は無言でその場に固まる。

―――ハイハイと母親に無慈悲にそれを回収された後、どんまいと二人から優しく背中をさすられ、俺はこの裏切り者めと心の中で散々呪いの言葉を吐いていた。


END.

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