安達 リョウ

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さよならを言う前に(逆転のホームラン)


「あっ。待って」

―――帰りのホームルームが終わり、教室を出たところで彼女に呼び止められた。
彼女とは双子を通じて絵画展、自転車の練習とここのところいい感じで距離が縮まっていて、俺としてもそれなりに手応えを感じているだけに何事かと内心ドギマギする。

「あのこれ、夏休みに旅行でテーマパークに行った時のお土産なんだけど、良かったら………」
そう言い取り出した小さな袋に、俺の鼓動が高鳴る。
旅行のお土産。え、このサイズからしてキーホルダー? ………もしやペアの片割れとか!?

「双子ちゃんに」

「………。あいつら、に?」
がっくりと肩を落としそうになって、俺はヤバいと不自然に姿勢を正す。何してんだしっかりしろ、俺。
「え、本当に? 有り難いけど―――もしかしてあの二人に催促された?」
不穏な空気になりかけ、彼女が慌てて否定する。
「違うの、これはわたしからの純粋なプレゼント。いつも楽しく相手してもらってるから」
「いや逆だよ。あいつらの相手してもらってる上にこんなお土産まで貰って………ごめんな。ありがとう」
頭を下げる俺に、そんな、いいのと彼女が勢い良く片手を横に振る。
「誘ってもらって、いつも本当に楽しくさせてもらってるから。わたし一人っ子だから余計に嬉しくて」
こちらこそ、ありがとうね。
そう微笑まれて、こちらも自然と笑顔になる。
「あいつらの喜ぶ顔が見えるよ。渡しとくな」
「うん。じゃまたね」

―――手を振る彼女に、俺は咄嗟にあのさ、と声を出した。どうしてだか、今しかないと思った。
「今度の休みさ、一緒に、遊びに行かね?」
自分でも驚く。そんな勇気どこから湧いたんだと。
緊張に上擦った声は―――、彼女に届いただろうか。

「………うん。いいよ。でも、」

双子ちゃん抜きでね。

―――え。とだけ呟いて確認できぬまま、彼女はまたねと待たせていた友達を追って、小走りに去って行ってしまう。

その後ろ姿を呆然と眺め見送った後、

「!!!」

………我に返った俺は、周りが引くほどのガッツポーズで喜びを表していた。


END.

8/21/2024, 5:44:32 AM