空模様(幸運の象徴)
新しい長靴、新しい傘。
あいにくの空模様の下、双子がご機嫌な様子で庭先を闊歩しているのが見えた。
―――あいつら登園前に濡れまくって、また怒られんぞ。
ダイニングでパンをかじりながら、俺は呆れた溜息をつく。
まだまだ暑さの残る中、久し振りの雨。
まるで梅雨に戻ったような、しとしと具合にげんなりする。
―――天気の良し悪しで気分が左右されるのは、何も今日に始まったことではない。滅入っているのは夏の疲れからくるメンタル不調、………なのか。
何とか気持ちを奮い立たせたい。
彼女と普通に話せるまでになった今、もうひと頑張りで進展も夢じゃない、というところまで来ているというのに。
ああ全部この鉛色の空が悪い。
俺のテンションが回復するにはせめて、
「「あー! 虹!!」」
そう、虹でもかかってくれれば―――
って。え?
双子達の嬉しそうな声に窓の外に目を向ける。
座ったままでは確認できず、俺は立ち上がって窓際から覗き込んだ。
大きな半輪、七色の色が織り成す透明感。
………いやいつも七色なんて数えられた試しなどないのだけど。
その混じりけのない鮮やかさに、ほら元気を出せ、と言われているようで参った。
都合の良い解釈と捉えられても構わない。
そう思えば何だか気分も上昇しそうな気がした。
―――暫くして俺は外に出て、自転車の準備をする。
まだ新品雨グッズに夢中な双子に、お前らも早く支度しろと言い置いてペダルを踏み込んだ。
「「いってらっしゃーい!!」」
相変わらず元気の塊みたいな二人の声が背に響く。
俺は虹に向かって自転車を漕ぎなから、こんな景色滅多に拝めないよなあと呟いて―――ほんの少しだけ口角を上げると、鬱々した己の内を吹き飛ばすように空を仰ぎ、笑った。
END.
8/20/2024, 2:35:00 AM