鏡(真似したいお年頃)
普段何かと喧しい双子が静かなことなど滅多にない。
そういう時は大抵余計な、いけない何かに夢中になっているのはもう、お約束だった。
「………おい」
―――ぎくり。
漫画で擬音語をつけるならそれが一番的確であろう双子どもの動作に、思わず吹き出しそうになる。
それでも俺はあくまでも低く、威厳を持って鏡台の前に座る二人に背後から声をかけた。
「………。にいに」
「何しにきた」
振り向きもせず問いかける不自然さに俺は首を捻る。
「何ってこっちのセリフだろうが。親の鏡台の前に居座って、二人で一体何して―――」
るんだ、と。言い終える前に振り返った二人の顔は、―――何とも形容し難いほどの、面白いくらいぶ厚い化粧で覆われていた。
「く、………くくっ」
笑うまい。態度に出すまい。と思えば思うほど込み上げてくる可笑しさに耐えきれず―――俺はとうとう腹を抱えて、双子を目の前に大笑いしてしまう。
「お、お前ら………その、顔」
「にいに! しつれい! れでぃーに向かって!」
「何でわらう! れでぃーにあやまって!」
甲高い声で騒ぐ二人のうるささに俺は耳を塞ぐ。
一体何に感化されたんだ、こいつらは? いやそんな顔でこっち見んな。笑いが止まらん。
「てか謝るのはお前らの方だろ。バレても知らんぞ」
「「え」」
双子が一瞬にして動きを止める。と同時に、青ざめた表情で俺に縋るような目を向けた。
「今からいそいで落とすから、にいにだまってて」
「おねがい。ね?」
「えー? 今まで散々好き勝手やられたからなあ」
どーすっかなあ。
ニヤニヤと圧をかけると、それを受けて途端に双子の態度が一変した。
「いいからだまってて。じゃないとおねーさんにこれ送るよ」
取り出したのは、またも俺のスマホ。
しかも昨日一悶着あったタオルケットで気持ち良く眠っている、写真―――ではなく、まさかの動画。
「は!? 何だそれ!!」
「『にいにはおきにいりのタオルケットを捨てられてけきどして泣いてました』って今からおくる?」
!!!
―――俺はそれをぶん取ろうと必死に追いかけるが、双子は見事な連携プレーで悉く脇をすり抜けていく。
「だまってるってやくそく!して!」
「して!」
〜〜〜〜〜………。
「わかった! わかったから消せ、それ!」
「落として、いんぺいできたら消してかえす」
隠蔽………。
悪賢さに磨きがかかってきた双子どもに、俺は脱力して肩を落とす。
いつかお仕置きしてやると歯噛みするものの、想い人に何を吹き込まれるかと思うと迂闊には手を出せない……。
―――そんな俺に双子どもは鼻歌交じりに鏡台の前でメイクを落としながら、にやりと笑みを浮かべるのだった。
END.
8/19/2024, 5:08:52 AM