安達 リョウ

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いつまでも捨てられないもの(個々の自由)


ぜったいぜったい、ぜーーーっっったい、捨てちゃダメ!!!

せっかくの日曜日。
いつまでも布団の中で微睡んでいようと目論んでいた俺は、リビングに響く双子らの怒号で叩き起こされた。
―――捨てるな? って、何をだ何を。
眠さに目を擦りながら階下に降りていくと、双子がでかい縫いぐるみを抱え込んで憮然としている。

「………朝っぱらから何を騒いでんだお前らは」
「ぬいぐるみ捨てるとかいうから、そししてた」
「だいじなこなのに、すてるとかきちくなこと言う」
………縫いぐるみ、ねえ。
つと見遣ると、薄汚れているどころか明らかに“汚い”と表現するのが最適なそれが双子達の腕の中にすっぽりと収まっている。

「だいぶキてるなそれ。そりゃ捨てるって言われるわ」
「ずっと一緒にいきてきたのに、そんなことするわけない。にいにくずすぎ」
「誰がクズだ。だったらせめて洗えよ」
「あらったら形くずれて見るもむざんになる。むり」
両側から二人にぎゅうと抱きつかれる、大きなクマの縫いぐるみ。これほど愛を込められて、何とはなしに嬉しそうに見えるその顔がいじらしい。

「………。まあ人間ひとつやふたつ、捨てられないものもあるからとっとけばいいんじゃね」
ファブって天日干しして、コロコロガンかければちっとはマシになるだろ。
そう助言してやると双子の表情が途端に華やぎ、わかったそうする!と二人は同時に素直に頷いた。
これで一件落着。よかったよかった―――と再度二度寝をしようと二階へ上がりかける俺の横を、母親が何かを手に持って通り過ぎた。

「え、なに。どうすんのそれ」
「え? 捨てるのよ、決まってるでしょ」
捨て………る?
「は!? ダメに決まってんだろ、何勝手なことしてんだよ!」
俺は鬼の形相で母からそれを引ったくる。
「にいにそれなに?」
「だいじなもの?」
―――尋ねる双子を他所に、俺は母に詰め寄った。

「昔から使ってるタオルケットだって知ってんだろ!? これじゃないと俺、眠れねーから!」

………。このすっごいぼろぼろの?
………。このくまさんよりねんきの入ってる?
タオルケット………。

にいに、と双子が兄の服の裾を両端から引っ張る。
「あ? なん、………」

「「すてな」」

………。
双子の容赦ない一言に、俺は無言でその場に固まる。

―――ハイハイと母親に無慈悲にそれを回収された後、どんまいと二人から優しく背中をさすられ、俺はこの裏切り者めと心の中で散々呪いの言葉を吐いていた。


END.

8/18/2024, 6:31:11 AM