安達 リョウ

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7/18/2024, 6:59:01 AM

遠い日の記憶(見えなくても、覚えていなくても)


ひとつめは 目を凝らし目を凝らし
主の御身に平伏す 我が身を捧げん
ふたつめは 耳を澄まし耳を澄まし
主の言葉に聞き入る 声高に謳い給う
みっつめは、、、


「みっつめ………思い出せない」

いつもここで引っかかる。
誰が何の為にそれを歌っていたのか、いつの出来事なのか、それが本当にあった記憶なのかすらわからない。
親にはもちろん、仲のいい友達何人かに聞いてみたけれど、そんな歌は知らないと特に興味も示されず流されてしまった。

どこで覚えたんだろう?

小さい頃からずっと頭に残っている歌。気になる。
―――ランドセルの重さを無視して、わたしは水溜りをジャンプし飛び越える。
大きくなるにつれ忘れてもよさそうなのに、そんな気配が全くないのが不思議だった。

「♪ひとつめは 目を凝らし目を凝らし
主の御身に平伏す 我が身を捧げん」

誰も知らないこの歌。

「♪ふたつめは 耳を澄まし耳を澄まし
主の言葉に聞き入る 声高に謳い給う」

わたしだけが知るこの歌。

「みっつめは、、、」
「みっつめは 足るを知り足るを知り
主と共に生を成す」

わたしは驚いて振り返った。
―――目に入ったのは紺のランドセルを背負った幼馴染み。

「………。何で知ってるの」

『これ、なに?』
『僕もよくわからない。でも繋いでいれば、また会える気がしない?』

………。忘れちゃったのか。
不思議そうに目を瞬かせるのを見て、彼はほんの少しだけ切なくなる。

「何でかな。わかんないけど」
「? ふぅん」
ふと、わたしはどこか違和感を覚え、手を広げると小指に目をやった。
けれど何も問題はない。
「どうかした?」
「………ううん」
帰ろ、と彼が手を差し伸べてくる。
もう高学年、普段そんなことしないのに?
―――でもなぜか、わたしはそれに素直に従い手を繋いだ。

まだ小指が落ち着かない気がする。
おかしいなあ、と首を捻る少女のその隣で、

「………君に涙伝うなかれ」

―――彼は最後そう呟いて、繋いだ手を握り直した。


END.


※関連お題 7/1「赤い糸」

7/17/2024, 6:57:15 AM

空を見上げて心に浮かんだこと(二人で溶ける)


「唐揚げ」
「恐竜?」
「綿あめ」
「うーん風船」
「スイカ」
「………」

空に浮かぶ雲の形、何に見える?

学校からの帰り道、空を見上げてわたしは隣を歩く彼に何気に問いかける。
遠くに入道雲、近くに点々と散らばるはぐれ雲。

「食べるものばっかりじゃん。お腹空いてる?」
「もう昼前だっての。そりゃ減ってるよ、育ち盛りの男子高校生だし」

真夏の課外授業は暑さとの勝負でもある。
教室へ入りさえすれば極楽以上の寒さ対策まで考える快適空間を満喫できるものの、一歩でも外に出てみればあら不思議、流れる汗に干からびてしまわないかと揺らぐ景色に辟易してしまう。

「帰ったらコーヒーフロート飲みたい」
「いいねえ。冷えた部屋で寝転びたいね」
「………一緒に飲む?」
「え」

蝉の音が一段とけたたましくなる。
―――一緒に? 今一緒って言わなかったか。

「英語教えて? 得意だったよね、確か」
「………。コーヒーフロートが報酬?」
「そ。特製のとびきり美味しいの作るから、お願い」
………両手を合わせられて拝まれては、受けないわけにはいくまいて。

「しゃあねーなあ」
「やった! 期待してます、全国模試二桁の頭脳の威力」
「あのね、教える力とは別モノだから。呑み込む読解力、吸収力に期待大」
「ええーーー」

―――そう不満そうな顔するなって。
口実が勉学と固い肩書だとしても、こちとら心弾ませてんのよ。

「ねー見て、飛行機雲! どこ行くんだろ、わたしも乗りたい」

空を仰ぐ彼女に、彼もおー、ときつい陽射しを遮りながら視線で雲を追いかける。
………高校最後の夏、色っぽい出来事なんざ皆無なんだろうけども。こうして二人で真夏の空の色を眺めるのも悪かないと思う。

俺はほんの少し自分より前に出た彼女の頭上越しに、その雲を掴もうと手を伸ばした。


END.



♡1000越え、ありがとうございます✨
皆様の♡に大感謝です。
投稿時間まちまちですが、目指せ年内お題コンプリ!で頑張ります🎆

7/16/2024, 7:04:42 AM

終わりにしよう(執行は総意の下で)


「観念しろ」

銃口を相手の頭部に突き付け、わたしは膝をついて屈んでいる男に両手を挙げるよう促す。
渋々と、ゆっくりそれに従いながら、自分を見据える双眸には憎悪の色しか見えない。
「“あと少しだったのに”“まさか女に捕まるとは”………そんなところか?」
嘲笑と共に吐き捨てるように問うが返答はない。
代わりに男は忌々しげにチッと舌を打つと顔を歪ませた。
「君には不服だろうが、これも仕事なのでね」
わたしの背後に薄く透明の、巨大な画面が現れる。

シメイテハイハン
トウソウレキ ゴネン

ザイジョウ:サツジン

―――男の経歴と顔写真がそこに鮮明に映し出される。
目の前にいる人物との一致率100%。問題はない。

「逃走五年とは、頑張ったじゃないか。罪状が殺人なだけにまあ、そうなるかな。………これから審判が始まる。心して聞け」

巨大画面が切り替わり、『国民の声』が反映される。
この男の罪に適切な刑は何かを、国中の人々が直ちに議論し結審まで行い、追い詰めた捜査員が確実に実行する手筈が整えられている。
………殺人及び逃走歴五年。罪は重い。
判例からすれば過酷な労働からの拷問か、身体の一部を強制的にもぎ取る欠損辺りが妥当だろうか。

画面に赤のパーセンテージが表示される。
これが低ければ低いほど冤罪、軽罪となり、逆に高ければ高いほど罪は重く、重罪となる。
そして0%ならば晴れて無罪放免、しかしもし100%ならば―――。

「………やれるものならやってみろ」
「何だと?」
「後悔なんかするかよ。何でも受けて立ってやる。けどな、半端な罰じゃまた似たようなこと仕出かすぜ、俺は。そういう根っから腐った人間だからな」
―――その声を受け、すぐさまパーセントの値が伸びる。
『国民の声』も重罪にすべき、無駄な手間を取らせるな、男を八つ裂きにしろとの意見が背後の画面に所狭しと流れ込んでくる。

「どうせこれ以上どうにもならない人生だ。バカな国民、バカな実刑即施行制度。反吐が出る!」

70、80、90%。
みるみる間にゲージが伸び、ついには99%、そして―――。

パン、と乾いた音が一発、辺りを震わせた。

銃口からの弾丸は男の眉間に命中―――はせず、空へと煙が揺らいでいる。

「………。残念。僅かに外れた」

彼女がつまらなさそうに呟く。
真っ青になり腰を抜かして動けなくなった男を、駆けつけた他の捜査員が数人でその場から連行して行く。

………躊躇わず外さなければよかったか。
画面に残る表示は“99%”。
それに一瞥をして、彼女は何事もなかったように歩き出す。

―――“外す”んじゃない。
彼女は気だるくもう一度呟くと、煩わしげにその画面を消し去った。


END.

7/15/2024, 6:03:38 AM

手を取り合って(相反する力)


20XX年。
とある国の人口は下降の一途を辿り、二進も三進もいかない崖っぷちに立たされていた。
窮地に陥り二大政党が起死回生の公約を打ち出したが、これが国民に大きな波紋を広げることになる。


【A党】
子供一人出産の折に現金500万円を支給
子供給付金毎年一人につき一律10万円
2人目からは教育による資金全額控除
扶養完全撤廃、全母親は正社員契約必須とする

当面、お金の心配はいりません。
母親もしっかり働きましょう。
なお、精神面でのサポートはありません。
体力の続く限りお金を稼ぎ、それ以外は各自お金で解決しましょう。


【B党】
不妊治療費全額控除
出産後入学までベビーシッター無料
祖父母による育児支援につき介護保険料減額
全企業育児休暇完全取得制度制定

出産、育児を母親一人に任せない。
心のケア、育児の不安に手厚く、人の手を大いに借りましょう。
なお、金銭面でのサポートに期待せず、現状維持のまま倹約に努め、子育てに励みましょう。


………極端が過ぎる。
金かそれ以外。なぜどちらか一方だけなのか。

若者が結婚に興味を示さなくなり、故に子供の数も減り続け、故に街には年寄りしかいなくなった。
子供の姿など稀にしか見かけなくなって久しい時代に、何とまあ時代遅れの政策よ。
政権を取る為だけの潰し合い合戦でしかない。
党を越え手を取り合う姿勢など全くもって垣間見えないところが、既に終わっている。

―――お金がないからではない。

―――子供が好きではないからでもない。

こんな世の中で、自分以上に愛しい者を生み出すことが単純に怖いのだ。

………赤子を連れて歩くと年配者が手を合わせ拝み、神のように扱うようになったこの国で。
一体どこに救いがあるのかと、国の行く末に何の期待もしなくなっている―――

わたし自身に。恐れを覚えた。


END.

7/14/2024, 7:44:19 AM

優越感、劣等感(不条理な恋)


「いや、あの………気持ちは本当に嬉しいんだけど、俺には勿体ないっていうか。高嶺の花すぎて。ごめんなさい」

……………。

―――はあぁぁぁ。
肺の中の酸素を全て吐き出す、深い深い溜息。

………勿体ないってなに? 高嶺の花って?
そんなのこっちの知ったことじゃないんだけど。
誰が言ったか校内一の美人と評されて、あの子は別格だ特別だと崇め奉られ女子のやっかみをこの身一身に請け負ってきた。
この状況を打破するには相思相愛の誰かと対になるに限る、と告白をしてみても上記の理由で悉く断られる始末。もう立つ瀬がない。
これ以上わたしにどうしろって言うの。


「いや、あの………気持ちは本当に嬉しいんだけど、友達以上には見れないっていうか。このままの関係じゃ駄目かな? ごめんなさい」

………………。

―――はあぁぁぁ。
肺の中の酸素を全て吐き出す、深い深い溜息。

友達以上に見れない、女子として意識したことがない。もう耳にタコができる程聞き飽きたセリフ。
わたしの雰囲気が親しみやすいらしく、周りとの調和を慮る性格からか、後腐れなく男女共に友好的に接してきたのがどうやら仇になったようだった。
異性じゃなく男友達に近くて、とにかく付き合うという図が想像できない。
そんな理由で悉く断られてしまう。
こんなの治る治らないの問題じゃなくない?
どうすればいいのか誰か教えてほしい。

―――二人劣等感に苛まれ凹みながら歩いていると、ばったりとお互い正面で出くわしてしまった。

………。何か気まずい。

別に見られたわけではないものの、そそくさと無言のうちにすれ違う。

………あの子みたいに綺麗で美人だったら
………あの子みたいにフレンドリーだったら

わたしの恋の行方も違っていたのだろうか。

―――有りもしない相手の優越感に心が折れそうになり、お互い堪えきれず逃げるようにその場から駆け出していく。

とにもかくにも男の方に見る目がないのだ、と。
そう自分に強く言い聞かせ、わたしは唇を噛んだ。


END.

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