安達 リョウ

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手を取り合って(相反する力)


20XX年。
とある国の人口は下降の一途を辿り、二進も三進もいかない崖っぷちに立たされていた。
窮地に陥り二大政党が起死回生の公約を打ち出したが、これが国民に大きな波紋を広げることになる。


【A党】
子供一人出産の折に現金500万円を支給
子供給付金毎年一人につき一律10万円
2人目からは教育による資金全額控除
扶養完全撤廃、全母親は正社員契約必須とする

当面、お金の心配はいりません。
母親もしっかり働きましょう。
なお、精神面でのサポートはありません。
体力の続く限りお金を稼ぎ、それ以外は各自お金で解決しましょう。


【B党】
不妊治療費全額控除
出産後入学までベビーシッター無料
祖父母による育児支援につき介護保険料減額
全企業育児休暇完全取得制度制定

出産、育児を母親一人に任せない。
心のケア、育児の不安に手厚く、人の手を大いに借りましょう。
なお、金銭面でのサポートに期待せず、現状維持のまま倹約に努め、子育てに励みましょう。


………極端が過ぎる。
金かそれ以外。なぜどちらか一方だけなのか。

若者が結婚に興味を示さなくなり、故に子供の数も減り続け、故に街には年寄りしかいなくなった。
子供の姿など稀にしか見かけなくなって久しい時代に、何とまあ時代遅れの政策よ。
政権を取る為だけの潰し合い合戦でしかない。
党を越え手を取り合う姿勢など全くもって垣間見えないところが、既に終わっている。

―――お金がないからではない。

―――子供が好きではないからでもない。

こんな世の中で、自分以上に愛しい者を生み出すことが単純に怖いのだ。

………赤子を連れて歩くと年配者が手を合わせ拝み、神のように扱うようになったこの国で。
一体どこに救いがあるのかと、国の行く末に何の期待もしなくなっている―――

わたし自身に。恐れを覚えた。


END.

7/15/2024, 6:03:38 AM