安達 リョウ

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終わりにしよう(執行は総意の下で)


「観念しろ」

銃口を相手の頭部に突き付け、わたしは膝をついて屈んでいる男に両手を挙げるよう促す。
渋々と、ゆっくりそれに従いながら、自分を見据える双眸には憎悪の色しか見えない。
「“あと少しだったのに”“まさか女に捕まるとは”………そんなところか?」
嘲笑と共に吐き捨てるように問うが返答はない。
代わりに男は忌々しげにチッと舌を打つと顔を歪ませた。
「君には不服だろうが、これも仕事なのでね」
わたしの背後に薄く透明の、巨大な画面が現れる。

シメイテハイハン
トウソウレキ ゴネン

ザイジョウ:サツジン

―――男の経歴と顔写真がそこに鮮明に映し出される。
目の前にいる人物との一致率100%。問題はない。

「逃走五年とは、頑張ったじゃないか。罪状が殺人なだけにまあ、そうなるかな。………これから審判が始まる。心して聞け」

巨大画面が切り替わり、『国民の声』が反映される。
この男の罪に適切な刑は何かを、国中の人々が直ちに議論し結審まで行い、追い詰めた捜査員が確実に実行する手筈が整えられている。
………殺人及び逃走歴五年。罪は重い。
判例からすれば過酷な労働からの拷問か、身体の一部を強制的にもぎ取る欠損辺りが妥当だろうか。

画面に赤のパーセンテージが表示される。
これが低ければ低いほど冤罪、軽罪となり、逆に高ければ高いほど罪は重く、重罪となる。
そして0%ならば晴れて無罪放免、しかしもし100%ならば―――。

「………やれるものならやってみろ」
「何だと?」
「後悔なんかするかよ。何でも受けて立ってやる。けどな、半端な罰じゃまた似たようなこと仕出かすぜ、俺は。そういう根っから腐った人間だからな」
―――その声を受け、すぐさまパーセントの値が伸びる。
『国民の声』も重罪にすべき、無駄な手間を取らせるな、男を八つ裂きにしろとの意見が背後の画面に所狭しと流れ込んでくる。

「どうせこれ以上どうにもならない人生だ。バカな国民、バカな実刑即施行制度。反吐が出る!」

70、80、90%。
みるみる間にゲージが伸び、ついには99%、そして―――。

パン、と乾いた音が一発、辺りを震わせた。

銃口からの弾丸は男の眉間に命中―――はせず、空へと煙が揺らいでいる。

「………。残念。僅かに外れた」

彼女がつまらなさそうに呟く。
真っ青になり腰を抜かして動けなくなった男を、駆けつけた他の捜査員が数人でその場から連行して行く。

………躊躇わず外さなければよかったか。
画面に残る表示は“99%”。
それに一瞥をして、彼女は何事もなかったように歩き出す。

―――“外す”んじゃない。
彼女は気だるくもう一度呟くと、煩わしげにその画面を消し去った。


END.

7/16/2024, 7:04:42 AM