安達 リョウ

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遠い日の記憶(見えなくても、覚えていなくても)


ひとつめは 目を凝らし目を凝らし
主の御身に平伏す 我が身を捧げん
ふたつめは 耳を澄まし耳を澄まし
主の言葉に聞き入る 声高に謳い給う
みっつめは、、、


「みっつめ………思い出せない」

いつもここで引っかかる。
誰が何の為にそれを歌っていたのか、いつの出来事なのか、それが本当にあった記憶なのかすらわからない。
親にはもちろん、仲のいい友達何人かに聞いてみたけれど、そんな歌は知らないと特に興味も示されず流されてしまった。

どこで覚えたんだろう?

小さい頃からずっと頭に残っている歌。気になる。
―――ランドセルの重さを無視して、わたしは水溜りをジャンプし飛び越える。
大きくなるにつれ忘れてもよさそうなのに、そんな気配が全くないのが不思議だった。

「♪ひとつめは 目を凝らし目を凝らし
主の御身に平伏す 我が身を捧げん」

誰も知らないこの歌。

「♪ふたつめは 耳を澄まし耳を澄まし
主の言葉に聞き入る 声高に謳い給う」

わたしだけが知るこの歌。

「みっつめは、、、」
「みっつめは 足るを知り足るを知り
主と共に生を成す」

わたしは驚いて振り返った。
―――目に入ったのは紺のランドセルを背負った幼馴染み。

「………。何で知ってるの」

『これ、なに?』
『僕もよくわからない。でも繋いでいれば、また会える気がしない?』

………。忘れちゃったのか。
不思議そうに目を瞬かせるのを見て、彼はほんの少しだけ切なくなる。

「何でかな。わかんないけど」
「? ふぅん」
ふと、わたしはどこか違和感を覚え、手を広げると小指に目をやった。
けれど何も問題はない。
「どうかした?」
「………ううん」
帰ろ、と彼が手を差し伸べてくる。
もう高学年、普段そんなことしないのに?
―――でもなぜか、わたしはそれに素直に従い手を繋いだ。

まだ小指が落ち着かない気がする。
おかしいなあ、と首を捻る少女のその隣で、

「………君に涙伝うなかれ」

―――彼は最後そう呟いて、繋いだ手を握り直した。


END.


※関連お題 7/1「赤い糸」

7/18/2024, 6:59:01 AM