Leaf

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2/6/2023, 2:36:43 PM

コチコチと一定のペースで時を刻む音。普段ならば気に求めない微かな響きは,されど一旦気にしてしまえばそう簡単に耳から離れない。


壁に掛けられた小さな小さな歯車。狂うことも無く動くその針にがんじがらめに支配されているようなそんな錯覚に陥る。否,錯覚ではないのかもしれない。

余裕も感情も,描かれた数値と廻る2本の棒によって左右される。仮にその動きが早くなっても気づくことすらなく,ただ時の流れに驚愕するだけであろう。


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手に持った本から視線を上げ落ちる自身の分身を見つめる。正午を過ぎてから本を手に取って気が付けば随分と時が経っていたらしい。部屋を照らす橙は,ゆらゆらと不可思議な影を作り出していた。


目線を上にずらし見えた短針はちょうど120°の角を示している。思わず振り返った夕焼けはただ赤くて妙な気分に陥った。

どう考えたって七つ下がりには遅すぎる,逢魔が時を目前にした妖しい輝き。噛み合わない視界の情報にくらりとする。妙に静かな空間は落ち着かない。


……妙に静か。その原因が聞きなれたはずの音がしないからだと気が付くまでに数秒の時を有した。

その針が止まったのがどれほど前なのかも,今が何時なのかすらわからない。利便性の代償は己がいる時空の流れすらも歪ませることらしい。



「たまにはいいか」

幸いにも明日は休みで予定も特にない。忙しない近代の呪縛から解き放たれてみるのも悪くないだろう。

動かない針の指すその時に思いを馳せながら,もう一度本を開いた。きっと次に顔を開ければまた違う世界が出迎えてくれるから,電池を変えるのはもう少し後で。




テーマ : «時計の針»

2/1/2023, 12:46:59 PM

漕ぐ者もいないのに何故か きいきいと寂しげな軋んだ音を鳴らし前後に動く孤独な遊具。

かすかに積る雪に覆われ周りは白く染め上げられている。一人分だけ残された小さな足跡はこの寒い中遊んでいたであろう子供の存在を残す。



この年になれば公園の中へ入ることはおろか視界へ入れることすらも無いに等しい。忙しない日々の中で視線は自然と下がり,どこか不思議な魅力を放っていたその場所は認識されることも無く過ぎ去ってゆく。

滑り台もブランコもシーソーも在りし日に遊んだ思い出のひとつ。今では遥か彼方の過去となりかわった。


それでもここへ足を踏み入れたのは,銀世界の中の公園があまりにも眩しかったから。キラキラと光を反射するそんな白の中たたずむ遊具に心を奪われたから。

ほんの10年前まではしゃいでいたはずの そんな空間。夕暮れに染められるまで飽きもせずただ時間を過ごした。

確かにあの頃とは変わっている。遊具自体も塗装の色も。似ているところを探す方が難しいかもしれない。それでも,同じ雰囲気が空気が流れていた。


だからだろうか,無性に懐かしい気持ちを感じるのは。久しく忘れたはずの思いが蘇るのは。



丸太をモチーフにした椅子に荷物を預け,足跡をなぞるように動きを止めたそれに近づいてみる。

そっと 大切なものに振れるように冷たい鎖へと手を伸ばす。体温を奪ってゆく金属独特の硬い感触。錆びたような香りが指先へとまとわりつく。


おそるおそる 鎖の繋がった板に体重をかけ眺めた景色。椅子に座るよりもなお低く見上げた空はいつもよりずっと青く高い。ふっ と小さく息をついて,確かめるようにもう一度鎖を握りながら 軽く地面を蹴る。

その瞬間 揺れて流れる景色。前後にゆっくりと周りの物達が動いてゆく。思うよりはずっと早くて高くて妙な興奮に襲われる。

このままどこまでも行けるんじゃないかって そんな錯覚を覚える。思い出に刻まれた 遠いいつかの記憶。それはまざまざと蘇り襲うようにして感情を揺さぶる。


「たの しい」

こんな感情はもうずっと感じてこなかった。そんも得も何も無いただ純粋で自然な思い。ただ純粋で自然な思い。どこまでも自由で可能性にみちたそんな 悦び。

ついさっきまで酷く小さく見えていた空間が箱庭が,果てのない開かれた場所へと様変わりをする。


そうだった。世界は広くて美しくて 不可思議な魅力を放っていた。とらわれることも無く好きなだけ駆けてゆける遊び場だった。

自由になったはずの身はいつの間にか不自由になってがんじがらめで,忘れていた。翼はあった,空はひらかれている 未来は明るく夢に溢れる。なんだってできた。


「変わったのは自分か」

世界はこんなにも同じだ。さっきと今では,数分では変わらない。それでも見えている景色は違う。


「また来よう」

この思いを失う前に。今度は,滑り台に乗ってもいいかもしれない。もしくはジャングルジム。一つ一つ大切に思い出をなぞるように。




テーマ : «ブランコ»


1/31/2023, 1:43:59 PM

人は誰しも幸せとゆう不確定で曖昧なものを求め彷徨う旅人だという。地図も持たず目的地もわからないまま,まだ見ぬ遥か彼方を目指すそんな生き物。


強制的参加させられる競技からの離脱は許されない。諦めはゲームオーバーと同意義。そこに意思などは必要ない。

微かな希望と呼ばれる何かの為だけに力を振り絞って血まみれになっても歩き続ける。そうであれと 従えと誰かは言う。その先に求めたものなどありもしなくとも。



愛とか恋とか,金とか宝石とか 平和とか自由とか

勝手に与えられては奪われて,また急き立てられるように次を探す。際限などない。同じことの繰り返しがただ続くだけ。


手に入って失って 満たされる間もなくnext stage
そのうち自分の欲した何かすらわからなくなる。それが人生と呼ばれる時の使い道。




それでも,きっと終着点で何かが見つかるのだろう。それは形のないものかもしれない。言葉にはできないものかもしれない。

ただ,旅をしなければ手に入らなかった何かが どこかで密かに存在している。


それを探り当てることこそが,この身に課せられた使命なのだろう。






テーマ : «旅路の果てに»

1/30/2023, 2:23:21 PM



言えば分かり合えるなんてそんな夢物語信じてはないけれど,それでも伝えたいんだ。だって態度だけじゃこの想いは 感情は伝わらない。

心のうちは誰にも覗けない。表に出さなければいくらだって飾り立てて偽れる。だからこそ......


ああ,でも。あなたは束の間の言の葉を信じてはいない。好きだとか 愛してるだとか 借り物の言葉を受け止めてくれない。

いつだって否定もせず聞くけれど,僕の言葉を疑っている。違うか,軽んじている。嘘ではないけれど ただ雰囲気で口を着いたそんななにかだと思ってる。



こうして会っているのに手紙だなんて笑うのかもしれない。それでも,少しは本気にしてくれるでしょう? 文字は簡単には消えないから。微かであっても必ず跡を残すから。

だからさ,受け取ってよ。


何度だって確かめられるように。僕の想いを証拠として取っておいて。忘れないように。

君ならわかるはずだから。書き直しだらけのそんな文の意味を。






テーマ : «あなたに届けたい»

1/29/2023, 11:32:13 AM

愛とか恋とか世の中はそんな言葉に溢れ,意味も分からぬまま 簡単に人々はそれを囁き合う。

そうして伝えられた,インスタントで借り物な 使いこなせもしない道具 ”あい”と呼ばれる何かに縋って溺れ狂い散る。

それが人としての幸福なのだと盲目の彼らは口々に言い募る。束の間の夢の中 一時の物語に固執しながら。


これは,”あい”を知らない誰かのストーリー。



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「......あなたのことずっと好きでした。付き合ってくれませんか」

柔らかな翠の香りを運ぶ風のなか,そんな言葉を伝えられた。目の前に緊張した面持ちの見知らぬ誰かの影がある。


「ごめんなさい。あなたのこと知らないから」

先程名乗られた名前と見た目 それだけの情報の中で付き合うという選択肢は浮かんでくるはずもない。ありきたりな言葉に,ありきたりな返事を返し 呆然と黙りこくってしまった相手を置いてただ踵を返す。

よくあるいつもの,つまらないやり取りに終止符を打つ。それだけの行為。


「……なんで どこが好きなの?」

ふと生じた疑問に足を止め,気まぐれに視線も合わせず問い掛ける。当然で意地の悪いそんな純粋な質問。揺らぐ瞳をただ見つめて どんな発言をするのかと首を傾げる。


「理由はありません。いや,わからないのかもしれない。好きなところは沢山あるけれど,1番は真っ直ぐなところ。決して目をそらさないから」
「理由はない? 言葉にできないということ? 自分の感情なのに?」

曲がりなりにも告白をしてきた相手に問い詰めるようなことではない。まして,不完全でも誠実な言葉を返した目の前の人物には。

けれど,聞いてみれば案外答えに近づけるのでは そんな期待に押され口早に尋ねた。


「ええ。そこまで言葉巧みに話せませんから。あなたも,何故そんな質問をしたのかと聞かれても明確には答えられないでしょう?」
「……そうね。けれど,あなたは愛を語るのに説明は出来ないの? 」

知識欲 探究心 好奇心 それらを言語化してみろと言われたところで出来るわけもない。そう言われてしまえば納得するしかないが,けれどそれでは意味が無い。


「多分したところであなたには響きませんから。知りたいのなら,この手をとるほうが効果的ですよ」
「そういうもの? 充分巧言な気がするけれど」

よほど真っ直ぐな視線を向けて微笑む目の前の相手。それはどこまでも自信ありげで傲慢な,けれど凛として気高い表情。真実かはわからずとも嘘のないそんな言葉は決して不愉快ではない。

結局 愛も恋も語らない,いわゆる普通のそれを信じていないであろう相手の口から出てきたものでも。


「その手を取ればわかると言うの?」
「少なくとも何もしないよりは。後悔はさせません」

絡み合った視線は随分と鋭く 切っ先を向け合うかのような錯覚を起こす。どうあっても愛の告白なんかではない。精々が契約の誘いに過ぎない。

それでも。


「そう。なら,あなたを信じることにする。……よろしく」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

花のように笑ったその人物を眺める。さっきまでの冷静さと子供のような今の態度。その違いが感情に寄るものだとしたら,確かにヒントぐらいにはなるのだろう。


「……期待してるから」

これはただの取引。もしくは賭けのようなものだろう。欺瞞と打算に満ちた愛の真似事。

だって,互いに愛を知らない。きっと身勝手に相手を思うことしか出来ない。それも自分の為だけに。


でも。だからこそ,”あい”とやらを語らい試すには丁度いいのかもしれない。そんなふうに思えた。




テーマ : «I Love......»

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