星乃 砂

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7/9/2024, 8:42:58 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑥

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

【星空】
高峰桔梗と葛城晴美は無事に警察学校を卒業し晴れて警察官になった。
しかも、桔梗は授業と実習で、晴美は実技でトップだった。
おまけに、晴美の二輪走行の腕は群を抜いていた。
桜井華はふたりの卒業を祝ってくれた。
「凄いじゃないか、ふたりとも私と同じ警察署に配属されたから、署内では君達の話題でもちきりだよ。桔梗は警察官に向いているとは思ったが、まさかこれ程迄とはさすがに思わなかったよ。葛城君も特にバイクの腕前は教官以上だったらしいな、驚いたよ。これからは、同じ警察署員として一緒に市民の安全を守っていこう」
やっと華さんと一緒に仕事ができるんだ。そして、黒鉄銀次を逮捕するんだ。
緊張の中初出勤を迎えた。桔梗は華の先輩でもある高見巡査と駐車違反の取り締まりなどを行った。 
一方、葛城晴美は白バイ隊員の訓練生として、養成所で訓練を受けることとなった。大抜擢である。
そして一年後、星空のキレイな夜に事件が起きた。
桔梗は高見巡査と、華は3年目の若い巡査と警ら中、猛スピードで大通りを走り抜ける車がいると連絡が入った。
車は桔梗達のいる方へ向かっているようだ。
さらに入った連絡によると、暴走車は銀行強盗の容疑者が逃走中なのだとわかった。
「高見先輩、桜井です。私達もそちらに向かってます。港に誘導して逃げ道を塞ぎましょう」
「了解、絶対に捕まえるぞ」
地元の道を熟知している華達にとってはそれ程難しい事ではなかったが、車両2台では、難しいと言わざるを得ない。
「しまった。この先の交差点で左側を塞いで右折させなければ逃げられてしまう」
その時、後方から白バイが猛スピードで華たちを追い抜いて行き、左側にプレッシャーをかけ右折させた。
「よし、これで奴等は袋のネズミだ。応援のパトカーも合流してきた。華、慎重にな」
「了解です。桔梗の事お願いします高見先輩」
「もちろんだ」
行き場を失った車から容疑者達が3人現れた。
「手を上げて後ろを向きなさい」
犬塚刑事が犯人に告げると3人はおとなしく従った。
ホッとした隙をついて車の中からもうひとりが勢いよく飛び出してきた。
主犯格と思われる男はナイフを持ち突破しやすそうな場所を見極め突っ込んでいった。
「桜井!」犬塚刑事が叫ぶ。
「ドケドケ退け!」男はナイフを振りかざして華めがけて突進していく。
すると、華も男に向かって走りだした。
これには男もビックリしたようで一瞬ひるんだ。
その隙を逃さず華は一本背負いで男を投げ飛ばした。
「悪いな、こう見えても私は柔道五段なんだ」
「華さん、伸びてるから聞こえてませんよ」
「桜井よくやったなお手柄だぞ」
「ありがとうございます」
「桜井先輩すごーい!」
少し離れた場所からこちらに向かってくる人がいる。
「あれは、葛城君じゃないか、さっきの白バイって葛城君だったのか?」
「お久しぶりです。皆さんのおかげで白バイ隊員になれました。これからもよろしくお願いします」
このあと、夜中まで女子会が続いたのは言うまでもないだろう。

           つづく

7/5/2024, 2:57:30 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑤

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

【神様だけが知っている】
金城小夜子は祖母の死のショックから仕事でミスを繰り返し、お客さんからの信用を無くし、客足が遠のいてしまった。
そこに玲央たちが来た。
「お姉ちゃん」
「ノド渇いた」
「「麦茶ちょうだい」」
いつもの玲央と真央の双子トークだ。
「剛志君、雅ちゃん、こんにちは、ちょっと待っててね」
「お姉ちゃん」
「お客さん」
「「いないね」」
「そうなのよ、玲真(玲央と真央の略語)たちもお客さん集めるの協力してくれない?」
すると、剛志が周りを見回して聞いてきた。
「そこにある中古の自転車はこのあと廃棄するのですか?」
「これは下取りした自転車で部品取りのために置いてあるのよ」
「小さい子向けの自転車も4・5台あるんですね。その自転車を無料で貸し出ししてみませんか?」
「どういうこと?」
「そこの空き地で練習用として貸し出すのです。購入を考えている人、補助輪を外そうか考えている人、大きいサイズに買い替えを考えている人達に自由に使ってもらうのです」
「それいいかも、早速やってみるね。ありがとう」
次の日曜日から、お客さんが増え始め、1ヶ月後には以前よりお客さんが増えていた。
よかったわ、これも剛志君のおかげだわ。あの子って本当に小学1年生なのかしら?
「剛志君のおかげで」
「お客さんが増えたって」
「お姉ちゃんが言ってたよ」
「また、遊びに」
「「来てねって」」
「そうですか、お役に立てて良かったです」
剛志はこれで本当に良かったのかと少し後悔していた。
あまり人に影響を与えない方がいいのではないかと。
しかし、すでに雅ちゃんや玲央真央には影響を与え続けている。
この時代の人に関与し過ぎると僕は罰を受けるのだろうか?
それは神様だけが知っている

           つづく

7/3/2024, 8:52:30 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ④

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)

 若宮園子 (わかみやそのこ)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

【赤い糸】
金城小夜子は全速力で自転車を飛ばしていた。
おばあちゃん、大丈夫だからね。
30分程前に祖母が倒れて病院に運ばれたと、連絡が入ったのだ。
店を閉めるわけにもいかないので園子さんに連絡をして店に来てもらった。
病院に着くと母が先に来ていた。
「お母さん、おばあちゃんが倒れたってどういうことなの?」
「それが、買い物の途中で急に苦しみ出したって言うのよ。運良く医学生の人が救急車を呼んでくれたのよ」
「それで、どこが悪いの?」
「今診察中なんだけど...」
「そんなに悪いの」
「まだ、わからないわよ」
無理してたんだ、無理させてたんだ、ごめんねおばあちゃん。
「小夜子、あそこで先生と話をしている人が救急車を呼んでくれた人だよ」
「おじさん、無沙汰してます」
「うん、勉強の方はどうなんだ響?」
「問題ないです。来年卒業できそうです」
「隣りの君は琴美ちゃんかい?」
「はい、京町琴美です。お久しぶりです」
「見違えたよ、前に会った時はまだ小学生だったからね。琴美ちゃんは薬剤師を目指しているそうだね」
「はい、響をそばで支えたいんです」
「それは心強いね。響は幸せ者だな」
「あの、お話中すいませんが、祖母を助けて頂いたそうで、ありがとうございました」
「いえいえ、偶然通りかかっただけですから、大したことないといいですね」
「あれは、肝臓よ、黄疸(おうだん)が出てたわ」
「よさないか琴美。僕たちに診断する資格はないんだ」
小夜子はビックリした。随分とハッキリ言う人だと思った。
「小夜子、診察が終わったわよ」
「はい、今行きます」
「おばあさんは肝臓を患っているようです。しばらく入院して検査をしていきましょう」
「よろしくお願いします」
そして1週間後検査結果がでて、肝臓癌のステージ4で余命3ヶ月だと告知された。
それからの小夜子は仕事も手に付かず、幾度も失敗をしお客さんを怒らせることもあった。
そんな小夜子を見かねて園子が手伝いに来るようになった。
「すいません園子さん」
「気にしなくていいよ、そんなことより少しでもおばあちゃんのそばにいてあげなさい」
「顔を見るのが辛くって、それに何を話したらいいのか」
「黙って手を握ってあげな、それだけでおばあちゃんには伝わるからね」
そして、医師の告知通り3ヶ月後に祖母は他界した。
幸か不幸か祖母は生命保険に入っていたのでそのお金で借金を全額返済することができたが小夜子の心にはポッカリと大きな穴が空いてしまった。
49日が過ぎた頃、中学時代の友達の椎名友子から電話が掛かってきた。
「もしもし、いつまでも落ち込んでちゃダメだよ。おばあちゃんだって安心できないよ」
「それはわかってるんだけどね」
「話しは変わるけど、昨日カズ君が住んでた崖っぷちの家の前を通ったら工事業者の人が出入りしてたんだ。今まで売れなかったのにとうとう買い手がついたんだね。これでカズ君を探す手掛かりがなくなっちゃったよ」
その話しを聞いてポッカリ空いた穴を急激にカズ君が埋めていくのを感じた。
「そんなことない、まだ可能性はあるよ。おばさんのいた会社の人を探し出せればきっとわかるよ。
私は信じてる赤い糸の伝説を。


【窓越しに見えるのは】
加寿磨の母ユカリは高校時代の同級生であった向井秀一と再婚しユカリの実家で同居していたが、弁護士である秀一は数社の顧問弁護士もしており、家に帰って来るのは週末ぐらいであった。
「ユカリさん、現状では別居状態なので、引っ越すことはできませんか?」
「そうですね、私も考えていました」と言うものの、何か言いにくそうにしているのを察して秀一は問いかけた。
「ユカリさん私たちは夫婦です、何でも話して下さい」
「ありがとう秀一さん実は...」とユカリは胸の内を話した。
「わかりました。明日にでも見に行きましょう」
「いいんですか、事務所からも少し離れていますけど?」
「大丈夫、通勤圏内ですよ」
次の日、ふたりは目的の物件を見に来た。
「この際だから何ヶ所か修繕しましょう。キッチンもユカリさんの好きなように改善して下さい」
「本当にここでいいんですか?」
「もちろんです、2階からの眺めが最高ですね」
「お願いです。あの部屋は加寿磨の部屋なんです。そうさせて下さい」
「わかりました」
その後、不動産屋と契約を済ませ工事業者を紹介してもらい3ヶ月後に引っ越すことになった。
「母さん、僕は高校を卒業するまではここに居たいんだ」
「それはやっぱり秀一さんと3人で暮らすのはイヤということですか?」
「違います。お義父さんはとてもいい人ですし、尊敬もしています。母さんと結婚してくれて本当に良かったと思っています。ここに来て僕は初めて友達ができました。だから今は樹と離れたくないのです」
その時秀一が部屋に入ってきた。
「すまない、盗み聞きをするつもりではなかったんだが、聞いてました。加寿磨君、僕は君を縛り付けるつもりはない。自分の思った通りにするといい。ただし君はひとりではない、私達家族がいる。決して無理をしないで、必要な時は私達を頼ってくれ」
「ありがとうございます、お義父さん」
そして、ユカリ夫婦は加寿磨と以前に住んでいた崖っぷちの家に越してきたのだ。
2階の窓越しから見える景色はなにも変わらずユカリを迎えてくれた。

           つづく

6/30/2024, 10:39:38 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ③

登場人物

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)
 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)


高峰桔梗は警察学校に入校し、初めての寮生活を過ごしていた。
同室のパートナーは、ふたつ年下で高卒の葛城晴美という活発な子だ。
1ヶ月も経つと晴美は桔梗に打ち解けていた。
「葛城さんはひとり暮らしで寂しくないの?」
「私の実家はど田舎で農家なんですけど、周りには田んぼと畑しかないんですよ。コンビニだって自転車で20分もかかるんですよ。おまけに休みの日は畑の手伝いさせられるし、脱出できてよかったですよ」
「友達とも離れちゃったんでしょ?」
「それが、仲のいい友達はみんなこっちの大学や会社に就職したから、またに会ってるんです」
「そうなんだ。それなら寂しくないね」
「高峰さんはどうして警察官になろうと思ったんですか?」
「実は数年前から婦警さんの家に居候してて、その人に勧められたのが一番の決め手かな」
「その人にいろいろ教えてもらっているんですか?」
「まあね」
「今度の休みにお邪魔してもいいですか、私も教えてもらいたいです、お願いします」
「うん、大丈夫だと思うよ」
そして、次の休みに葛城晴美を連れて自宅へ戻った。
「おかえり桔梗、いらっしゃい葛城さん。私が桜井です」
「初めまして葛城晴美です、いろいろと教えて下さい。よろしくお願いします」
「ここは署じゃないんだから、そんなに固くならないで」
その後、女子会が始まった。
そして、
「桜井さんは、どうして警察官になったんですか?」
桔梗はビックリした、以前聞いた時は(今は話せない)と華さんは言っていたから。
「私の父も警察官だったんだ。
10年前に巡回中に殉職したんだ。犯人はまだ捕まっていない。私はこの手で犯人を逮捕するつもりだ」
「そういうことって、映画やドラマだけかとおもってましたけど本当にあるんですね」
葛城は他人事のように興奮している。
「それで犯人の目星は付いているんですか?」
「おおよその見当は付いているんだが、証拠も確証もないんだ」
「私、無事に警察官になれたらお手伝いします」
「ありがとう、でも危険過ぎるから、気持ちだけ有難く受け取っておくよ」
その後、葛城は友達に会うからと言って帰っていった。
桔梗はストレートに華に聞いてみた。
「華さん、何か隠してますよね」
「何の事だ?」
「警察官になった理由です」
「やっぱり桔梗は鋭いな。この際だから話しておこう。警察官になった理由はさっき言った通りだ、だが続きがある」
「それは?」
「父は巡回の途中で言い争っている声を聞き、声のする方へ向かい、応援要請もした。ふたりを見つけ声をかけようとした時、ひとりの男がもうひとりを刃物で刺した。それを偶然通りがかった一般市民が目撃してしまったんだ。そして目撃者を始末しようと男が襲いかかった時、父が間に割って入り、犯人と揉み合いになり胸をひと突き、即死だったよ。その時、応援が駆けつけたので、犯人は逃げて行った。その時の警察官が桔梗も会ったことのある犬塚刑事だよ。
犬塚刑事は父の後輩でバディだったそうだ」
「その目撃者って、もしかして私達ですか?」
「桔梗は覚えていたのか」
「私は父に抱っこされて寝ていたので、夢かと思っていたんです。父も母もその話しはしませんでしたから」
「そうか。犬塚刑事は犯人を遠目でしか見ていないので顔もハッキリとはわからなかったそうだ。桔梗のお父さんたちも協力してくれたのだが、モンタージュを作れるほどではなかった。それに、犯人に狙われる可能性もあるので、身を隠すようにしてもらったそうだ」
「それで、引っ越しをしたんですね。わかりました。話してくれてありがとうございます。私も犯人を逮捕するの手伝います」
「この話はまだ終わらないんだ。
桔梗の両親を殺害した足立を操っていたのが、父を殺害した容疑者によく似ていると、犬塚刑事が言うんだ」
「それって、目撃者である私の両親を殺害する為に足立を使ったってことですか」
「私と犬塚刑事はそう思っている」
「その容疑者のなまえは?」
「黒鉄銀次だ」

           つづく

6/27/2024, 8:38:31 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ②

登場人物
 向井加寿磨
       (むかいかずま)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 田中(サイクルショップ店長)

【相合傘】
「玲央・真央 もう起きなさい」
「えー」
「もう少し」
「遅刻しちゃうわよ」
「「は〜い」」
ふたりは時間ギリギリまで寝ていて大急ぎでご飯を食べ、支度をした。
「「行って来ま〜す」」
「今日は雨降るから傘持っていって...もういないわ。帰ってくるまで天気がもつといいけどね」
そんな願いも虚しく、雨が降りだした。
傘を持ってこなかった玲央と真央は昇降口で空を仰いでいた。
「玲央がもう少し早く起きてれば天気予報を見れたのよ」
「真央が起きればよかったんだよ」
ふたりが言い争いをしていると、剛志と雅が近づいてきた。
「どうしたんですか、傘がないんですか?」
「「うん」」
「私のを貸してあげます」
雅は傘を差し出した。
「ありがとう」
「でも雅ちゃんはどうするの?」
「僕と一緒に帰るから大丈夫」
そう言ってふたりは相合傘で帰っていった。

【あなたがいたから】
警察官になると決めた桔梗は日々体力作りの為、ジムに通い毎朝ジョギングもしていた。
今更ながらに思うが自分に警察官が務まるのだろうか。
6年前両親を殺害され弟も大怪我をした時のことを思い出す。
幸いにも、弟の樹が犯人を目撃していたので早々に犯人は逮捕されたが、もしあの時私が警察官だったら何ができたのだろう、少し不安になってくる。
「ただいま」
「おかえり、どうした何かあったのか?」
「えっ、どうしてですか?」
「悩み事でもありそうな顔をしているから」
「華さんには隠し事できないですね」
「仕事がら人の顔色を見る癖がついているからな」
「実は、私なんかが警察官になって市民のために何ができるんだろうって不安になってしまって」
「なるほど、私にも経験がある。心配することはないさ、桔梗はひとりではない。仲間がいる、先輩がいる、それに私もいる。ひとりで抱え込むことはないんだ」
そうだわ、私は華さんがいたから警察官になる決意をしたんだ。
もう悩まない、華さんの背中を追いかければいいんだ。


【好きな色】
小夜子はサイクルショップ田中2号店のオープンを明日に控え、最終チェックをしていた。
なんだか興奮するな。私に務まるのだろうか。
不安と期待で胸が張り裂けそうになる。
今晩は寝られるだろうか。
家に帰ると、家族みんなで、ささやかではあるが前祝いをしてくれた。
「小夜子頑張ってね。これ商売繁盛の招き猫」
「ありがとう、お母さん。お店に飾るね」
「「お客さんいっぱい来るといいね」」
「うん、玲央と真央もお友達に宣伝してね」
「「うん、わかった」」
そして、オープンを迎えた。
田中社長や園子たちが駆けつけてすれた。
「おはようございます。忙しい中来ていただきありがとうございます」
「小夜子君、頑張ってよ。期待しているからね」
「はい一生懸命頑張ります社長」
「サヨ、これからが本番だからね」
「はい、分かってます」
「こんにちは」
声のする方を向くと、女の子を連れた夫婦が立っていた。どうやらお客さん第一号のようだ。
「いらっしゃいませ」
「この子の自転車を見にきたんですけど、どれがいいかしら?」
「自転車は初めてですか?」
「そうなんです。だから補助輪の付いているのがいいんですけど」
「お嬢ちゃんの好きな色は?」
「オレンジ色が好きなんです」
あいにく、該当する自転車が店にはなかったので、小夜子はカタログから探すことにした。
「この自転車はいかがでしょう、これならば明後日の夕方にご用意できます。そこにある自転車の色違いです。どうぞ乗ってみて下さい」
夫婦は子供を自転車に乗せてみて満足しているようだ。
「アタシ、オレンジがいい」
お母さんが娘にカタログを見せて
「これでいい?」と聞いた。
「アタシ、これにする」と、娘も納得してくれた。
「じゃあ、これを下さい」
「ありがとうございます。お代は商品と引き換えで結構です」
幸先よく、最初の一台を売ることができた。
小夜子は涙が出るほど嬉しかった。
「接客も見事だったね。やっぱり私の目に狂いはなかったようだ。安心したよ。これからも、よろしく頼むよ」田中社長はそう言うと店を後にした。
「じゃあ、私達も行くからね。何かあったらすぐに連絡してね」
「はい、園子さん。これからもよろしくお願いします」
こうしてサイクルショップ田中2号店はスタートした。


【日常】
球技大会を終え加寿磨と樹は平凡な日常を過ごしていた。そんな中加寿磨が空を眺めて物思いにふけっいることが何度かあり、樹は加寿磨に聞いてみた。
「加寿磨、悩み事でもあるのか」
加寿磨は樹をじっと見つめ、
「聞いてくれるか?」と言った。
「当たり前じゃないか」
「長い話しになるから、今日僕の家で話そう」
「わかった」
樹には加寿磨の悩みが想像もできなかったが、力になってやりたいと強く思った。

そして加寿磨の部屋で今までの人生を聞いた。

小さい頃事故に遭い、目の前で父を失いショックで加寿磨は記憶を失った。
足にも大怪我をし再び歩くのは難しいと言われたこと。
その頃住んでいた家は急な坂道を300m程登った所にあり、とても古い屋敷で崖っぷちに建っていた。
歩けないので引きこもりになり2階の部屋から見える街の景色が全てだったこと。
そんな折、中学校の登下校でいつも走っている彼女を見かけたこと。
それ以来彼女が気になり次第に好意を持つようになったこと。
名前も住所もわからない彼女宛に手紙を書き、紙飛行機にしてダメ元で飛ばしたその紙飛行機が奇跡的に彼女に届いたこと。
しかし、次の日に彼女は引っ越してしまい、引っ越し先から手紙が届き、彼女が幼馴染で事故の加害者の娘だったことを知ったこと。
そして、彼女が加寿磨以上に傷ついていること。
「だから、君のせいじゃない、君は何も悪くないって事を伝えたいんだ」

それは、想像すら出来ないことだった。
加寿磨はなんて、重い荷物を背負っているんだ。
「彼女を探す宛はあるのかい?」
「手紙には住所が書いてなかったけど消印の郵便局あたりを探してみたんだ。役所や学校に行って聞いてもみたが、個人情報は教えてもらえなかったよ。そして僕はここに越してきた」
「それって、お互いに居場所を知らないってことじゃないか」
「そうさ、でも僕は諦めない」
「これで会えたら奇跡だよ」
「そうさ、でも彼女に手紙が届いたのも奇跡なんだ。奇跡は必ず起きる」
加寿磨の原動力はこれなんだと僕は思った。

           つづく

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