星乃 砂

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《巡り逢うその先に》
        第2章 ④

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)

 若宮園子 (わかみやそのこ)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

【赤い糸】
金城小夜子は全速力で自転車を飛ばしていた。
おばあちゃん、大丈夫だからね。
30分程前に祖母が倒れて病院に運ばれたと、連絡が入ったのだ。
店を閉めるわけにもいかないので園子さんに連絡をして店に来てもらった。
病院に着くと母が先に来ていた。
「お母さん、おばあちゃんが倒れたってどういうことなの?」
「それが、買い物の途中で急に苦しみ出したって言うのよ。運良く医学生の人が救急車を呼んでくれたのよ」
「それで、どこが悪いの?」
「今診察中なんだけど...」
「そんなに悪いの」
「まだ、わからないわよ」
無理してたんだ、無理させてたんだ、ごめんねおばあちゃん。
「小夜子、あそこで先生と話をしている人が救急車を呼んでくれた人だよ」
「おじさん、無沙汰してます」
「うん、勉強の方はどうなんだ響?」
「問題ないです。来年卒業できそうです」
「隣りの君は琴美ちゃんかい?」
「はい、京町琴美です。お久しぶりです」
「見違えたよ、前に会った時はまだ小学生だったからね。琴美ちゃんは薬剤師を目指しているそうだね」
「はい、響をそばで支えたいんです」
「それは心強いね。響は幸せ者だな」
「あの、お話中すいませんが、祖母を助けて頂いたそうで、ありがとうございました」
「いえいえ、偶然通りかかっただけですから、大したことないといいですね」
「あれは、肝臓よ、黄疸(おうだん)が出てたわ」
「よさないか琴美。僕たちに診断する資格はないんだ」
小夜子はビックリした。随分とハッキリ言う人だと思った。
「小夜子、診察が終わったわよ」
「はい、今行きます」
「おばあさんは肝臓を患っているようです。しばらく入院して検査をしていきましょう」
「よろしくお願いします」
そして1週間後検査結果がでて、肝臓癌のステージ4で余命3ヶ月だと告知された。
それからの小夜子は仕事も手に付かず、幾度も失敗をしお客さんを怒らせることもあった。
そんな小夜子を見かねて園子が手伝いに来るようになった。
「すいません園子さん」
「気にしなくていいよ、そんなことより少しでもおばあちゃんのそばにいてあげなさい」
「顔を見るのが辛くって、それに何を話したらいいのか」
「黙って手を握ってあげな、それだけでおばあちゃんには伝わるからね」
そして、医師の告知通り3ヶ月後に祖母は他界した。
幸か不幸か祖母は生命保険に入っていたのでそのお金で借金を全額返済することができたが小夜子の心にはポッカリと大きな穴が空いてしまった。
49日が過ぎた頃、中学時代の友達の椎名友子から電話が掛かってきた。
「もしもし、いつまでも落ち込んでちゃダメだよ。おばあちゃんだって安心できないよ」
「それはわかってるんだけどね」
「話しは変わるけど、昨日カズ君が住んでた崖っぷちの家の前を通ったら工事業者の人が出入りしてたんだ。今まで売れなかったのにとうとう買い手がついたんだね。これでカズ君を探す手掛かりがなくなっちゃったよ」
その話しを聞いてポッカリ空いた穴を急激にカズ君が埋めていくのを感じた。
「そんなことない、まだ可能性はあるよ。おばさんのいた会社の人を探し出せればきっとわかるよ。
私は信じてる赤い糸の伝説を。


【窓越しに見えるのは】
加寿磨の母ユカリは高校時代の同級生であった向井秀一と再婚しユカリの実家で同居していたが、弁護士である秀一は数社の顧問弁護士もしており、家に帰って来るのは週末ぐらいであった。
「ユカリさん、現状では別居状態なので、引っ越すことはできませんか?」
「そうですね、私も考えていました」と言うものの、何か言いにくそうにしているのを察して秀一は問いかけた。
「ユカリさん私たちは夫婦です、何でも話して下さい」
「ありがとう秀一さん実は...」とユカリは胸の内を話した。
「わかりました。明日にでも見に行きましょう」
「いいんですか、事務所からも少し離れていますけど?」
「大丈夫、通勤圏内ですよ」
次の日、ふたりは目的の物件を見に来た。
「この際だから何ヶ所か修繕しましょう。キッチンもユカリさんの好きなように改善して下さい」
「本当にここでいいんですか?」
「もちろんです、2階からの眺めが最高ですね」
「お願いです。あの部屋は加寿磨の部屋なんです。そうさせて下さい」
「わかりました」
その後、不動産屋と契約を済ませ工事業者を紹介してもらい3ヶ月後に引っ越すことになった。
「母さん、僕は高校を卒業するまではここに居たいんだ」
「それはやっぱり秀一さんと3人で暮らすのはイヤということですか?」
「違います。お義父さんはとてもいい人ですし、尊敬もしています。母さんと結婚してくれて本当に良かったと思っています。ここに来て僕は初めて友達ができました。だから今は樹と離れたくないのです」
その時秀一が部屋に入ってきた。
「すまない、盗み聞きをするつもりではなかったんだが、聞いてました。加寿磨君、僕は君を縛り付けるつもりはない。自分の思った通りにするといい。ただし君はひとりではない、私達家族がいる。決して無理をしないで、必要な時は私達を頼ってくれ」
「ありがとうございます、お義父さん」
そして、ユカリ夫婦は加寿磨と以前に住んでいた崖っぷちの家に越してきたのだ。
2階の窓越しから見える景色はなにも変わらずユカリを迎えてくれた。

           つづく

7/3/2024, 8:52:30 AM