星乃 砂

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《巡り逢うその先に》
        第2章 ②

登場人物
 向井加寿磨
       (むかいかずま)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 田中(サイクルショップ店長)

【相合傘】
「玲央・真央 もう起きなさい」
「えー」
「もう少し」
「遅刻しちゃうわよ」
「「は〜い」」
ふたりは時間ギリギリまで寝ていて大急ぎでご飯を食べ、支度をした。
「「行って来ま〜す」」
「今日は雨降るから傘持っていって...もういないわ。帰ってくるまで天気がもつといいけどね」
そんな願いも虚しく、雨が降りだした。
傘を持ってこなかった玲央と真央は昇降口で空を仰いでいた。
「玲央がもう少し早く起きてれば天気予報を見れたのよ」
「真央が起きればよかったんだよ」
ふたりが言い争いをしていると、剛志と雅が近づいてきた。
「どうしたんですか、傘がないんですか?」
「「うん」」
「私のを貸してあげます」
雅は傘を差し出した。
「ありがとう」
「でも雅ちゃんはどうするの?」
「僕と一緒に帰るから大丈夫」
そう言ってふたりは相合傘で帰っていった。

【あなたがいたから】
警察官になると決めた桔梗は日々体力作りの為、ジムに通い毎朝ジョギングもしていた。
今更ながらに思うが自分に警察官が務まるのだろうか。
6年前両親を殺害され弟も大怪我をした時のことを思い出す。
幸いにも、弟の樹が犯人を目撃していたので早々に犯人は逮捕されたが、もしあの時私が警察官だったら何ができたのだろう、少し不安になってくる。
「ただいま」
「おかえり、どうした何かあったのか?」
「えっ、どうしてですか?」
「悩み事でもありそうな顔をしているから」
「華さんには隠し事できないですね」
「仕事がら人の顔色を見る癖がついているからな」
「実は、私なんかが警察官になって市民のために何ができるんだろうって不安になってしまって」
「なるほど、私にも経験がある。心配することはないさ、桔梗はひとりではない。仲間がいる、先輩がいる、それに私もいる。ひとりで抱え込むことはないんだ」
そうだわ、私は華さんがいたから警察官になる決意をしたんだ。
もう悩まない、華さんの背中を追いかければいいんだ。


【好きな色】
小夜子はサイクルショップ田中2号店のオープンを明日に控え、最終チェックをしていた。
なんだか興奮するな。私に務まるのだろうか。
不安と期待で胸が張り裂けそうになる。
今晩は寝られるだろうか。
家に帰ると、家族みんなで、ささやかではあるが前祝いをしてくれた。
「小夜子頑張ってね。これ商売繁盛の招き猫」
「ありがとう、お母さん。お店に飾るね」
「「お客さんいっぱい来るといいね」」
「うん、玲央と真央もお友達に宣伝してね」
「「うん、わかった」」
そして、オープンを迎えた。
田中社長や園子たちが駆けつけてすれた。
「おはようございます。忙しい中来ていただきありがとうございます」
「小夜子君、頑張ってよ。期待しているからね」
「はい一生懸命頑張ります社長」
「サヨ、これからが本番だからね」
「はい、分かってます」
「こんにちは」
声のする方を向くと、女の子を連れた夫婦が立っていた。どうやらお客さん第一号のようだ。
「いらっしゃいませ」
「この子の自転車を見にきたんですけど、どれがいいかしら?」
「自転車は初めてですか?」
「そうなんです。だから補助輪の付いているのがいいんですけど」
「お嬢ちゃんの好きな色は?」
「オレンジ色が好きなんです」
あいにく、該当する自転車が店にはなかったので、小夜子はカタログから探すことにした。
「この自転車はいかがでしょう、これならば明後日の夕方にご用意できます。そこにある自転車の色違いです。どうぞ乗ってみて下さい」
夫婦は子供を自転車に乗せてみて満足しているようだ。
「アタシ、オレンジがいい」
お母さんが娘にカタログを見せて
「これでいい?」と聞いた。
「アタシ、これにする」と、娘も納得してくれた。
「じゃあ、これを下さい」
「ありがとうございます。お代は商品と引き換えで結構です」
幸先よく、最初の一台を売ることができた。
小夜子は涙が出るほど嬉しかった。
「接客も見事だったね。やっぱり私の目に狂いはなかったようだ。安心したよ。これからも、よろしく頼むよ」田中社長はそう言うと店を後にした。
「じゃあ、私達も行くからね。何かあったらすぐに連絡してね」
「はい、園子さん。これからもよろしくお願いします」
こうしてサイクルショップ田中2号店はスタートした。


【日常】
球技大会を終え加寿磨と樹は平凡な日常を過ごしていた。そんな中加寿磨が空を眺めて物思いにふけっいることが何度かあり、樹は加寿磨に聞いてみた。
「加寿磨、悩み事でもあるのか」
加寿磨は樹をじっと見つめ、
「聞いてくれるか?」と言った。
「当たり前じゃないか」
「長い話しになるから、今日僕の家で話そう」
「わかった」
樹には加寿磨の悩みが想像もできなかったが、力になってやりたいと強く思った。

そして加寿磨の部屋で今までの人生を聞いた。

小さい頃事故に遭い、目の前で父を失いショックで加寿磨は記憶を失った。
足にも大怪我をし再び歩くのは難しいと言われたこと。
その頃住んでいた家は急な坂道を300m程登った所にあり、とても古い屋敷で崖っぷちに建っていた。
歩けないので引きこもりになり2階の部屋から見える街の景色が全てだったこと。
そんな折、中学校の登下校でいつも走っている彼女を見かけたこと。
それ以来彼女が気になり次第に好意を持つようになったこと。
名前も住所もわからない彼女宛に手紙を書き、紙飛行機にしてダメ元で飛ばしたその紙飛行機が奇跡的に彼女に届いたこと。
しかし、次の日に彼女は引っ越してしまい、引っ越し先から手紙が届き、彼女が幼馴染で事故の加害者の娘だったことを知ったこと。
そして、彼女が加寿磨以上に傷ついていること。
「だから、君のせいじゃない、君は何も悪くないって事を伝えたいんだ」

それは、想像すら出来ないことだった。
加寿磨はなんて、重い荷物を背負っているんだ。
「彼女を探す宛はあるのかい?」
「手紙には住所が書いてなかったけど消印の郵便局あたりを探してみたんだ。役所や学校に行って聞いてもみたが、個人情報は教えてもらえなかったよ。そして僕はここに越してきた」
「それって、お互いに居場所を知らないってことじゃないか」
「そうさ、でも僕は諦めない」
「これで会えたら奇跡だよ」
「そうさ、でも彼女に手紙が届いたのも奇跡なんだ。奇跡は必ず起きる」
加寿磨の原動力はこれなんだと僕は思った。

           つづく

6/27/2024, 8:38:31 AM