星乃 砂

Open App
5/22/2024, 9:46:33 AM

【透明】

 [5/14 失われた時間
[5/15 風に身をまかせ
[5/16 後悔
[5/18 真夜中   続編

登場人物
 勇気
 遥香
 フーリン
 ホムラ
 アクア

『君が勇者ですか』
「はい?」またかよ。
「そ、そうよ。この人が勇者です」
(勇気!もっと自覚しなさいよ)遥香は勇気にヒジテツをした。
「フーリン、この人は?」
「申し遅れました。私は、火炎の里のホムラといいます。ここで勇者をお待ちしてました」
「ホムラもボクと同じ‘選ばれし者’なんだ」
「という事は、火を操れるのか」
「はい、こんな感じです」
ホムラは指先に火を灯し前方へ突き出した。すると、指先から炎が火炎放射器のように噴き出した。
「おお、これは凄い」
「頼もしい仲間がまたひとり増えて心強いわ」
「勇者は、なぜ夜が明けないのかご存知ですか?」
勇気ではなく、ここはしっかり者の遥香が事の経緯を説明した。
「そうでしたか。という事は敵はオークにスケルトンとトロールですか」
「もうひとり居る」フーリンが話し出した。「ただ、気配は感じるのに姿が見えないんだ」
「フーリンはソイツにやられたのか?」
フーリンは無言で頷いて、ハッとした。「こっ、転んだのだ!」
「「まだ、言ってる」」
「トロールにやられたのかと思ってたわ」
「あんなトロイ奴にやられるもんか」
「見えないのは、厄介ですね」
「オバケなの、それとも透明人間かな?」
4人は少し休憩をしてから出発した。
「この前と道が違うな」
「フーリンどういう事?」
「この前は、こんな道は通らなかった」
「道、間違えたのか?」
「そんな筈はない。“風の鈴”は、行くべき場所に導いてくれる」
「大丈夫よ。他の仲間の所かも知れないわよ」
「あそこの泉に村が見えますね」
村の入り口に少女が立っていた。
「お待ちしていました。貴方が...」
「俺が、勇者だ!」勇気は聞かれる前に答えた。「自覚してるからな」
「あんたバカ?そう言う事じゃないのよ」
「ゴメンね。コイツが勇者で私が遥香。そして、フーリンとホムラよ」
「アタイは泉の里のアクア、水の戦士よ」
「凄い水だって、これで風・火・水が揃ったよ。それに、勇者とヒーラー。これだけいれば鬼に金棒でしょ」
「なんか、勝てる気がしてきた」
「急ぎましょう。敵のアジトはもうすぐです」
「よーし、夜明けを取り戻しに行くぞ!」
「「「「オー!」」」」

こうして勇者一行は敵のアジトに着いた。

           つづく

5/21/2024, 9:02:25 AM

【理想のあなた】

 [5/6 君と出逢って
 [5/9 一年後
 [5/12 愛を叫ぶ   続編

登場人物
 紬  剛志
 優斗 雅

愛の告白から一週間後
「優斗さん、先週会った時、剛志と雅ちゃんが、近くで見ていたの知ってますか?」
「えっ、そうなんですか?」
「あの日、家に帰ったら剛志に〈良かったね〉って言われたんです。それで問い詰めたら白状しました。優斗さんは雅ちゃんに何か言われてませんでしたか?」
「女は、ちゃんと言葉にしてほしいのよ。とか、その気がないと思われちゃうわよって言われて気持ちを伝える決心が付いたんだ」
「私も、似たような事を剛志に言われたのよ」
「どうやら、ふたりがキューピットだったんだね」
「ちょっと癪に触るけどね」
今日も公園デート。デート?、デートだ。私達恋人だからデートなんだ。ワーなんか照れるなぁ。
「どうかしました。顔が赤いですよ」
「いえ、何でもありません」
ふたりはゆっくりと歩き出した。
どうしよう、‘手’握っちゃおうかな。無理むり無理!そんな事出来ない。
「本当に、大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ」
「ゴメンない。本当に大丈夫です」...大丈夫じゃないよ。心臓バクバクだよ。
「あそこのベンチで少し休みましょうか」
「は、はい」
困ったな。意識しちゃって何話したらいいか分かんないや。
「紬さん、今日はいい天気ですね」
「はい」紬さんか、‘つむぎ’って呼んでほしいな。恋人なんだから。よし、勇気を出して言ってみよう。
「あのー、出来たら‘つむぎ’って呼んでくれませんか?恋人なんだし」
「そうですね。ちょうと照れるけど、これからはそうします」
「つむぎ」
「はい」?なんか声が違う。振り返るとそこには剛志と雅ちゃんが仲良く手を繋いで立っていた。
「剛志また付けて来たの?」
「違うよ。ボク達もデートで、またまたここに来たんだ。喉が渇いたからジュースを飲もうと思ったんだけど、あそこのお店のジュースが美味しそうで。でもお店に小学生ふたりじゃ入れないし。そしたら、お姉ちゃんを見かけたんだよ」
「それじゃあ、僕達と一緒に入ろう。好きなものを頼んでいいよ」
私達は、4人で食事をしてお店を出た。
「お兄さん、お姉ちゃんの事をよろしくお願いします」
「もちろんだよ。剛志くんも雅の事よろしくね」
「雅ちゃんは、ボクが全力で守ります」
「カッコいい。やっぱり剛志くんはわたしの理想の人だわ」
「それじゃあボクたちはここで。お姉ちゃん遅くなるようだったら、帰って来なくてもいいからね」
「やかましい!剛志は早く帰って来なさいよ」

           おわり


5/20/2024, 11:35:24 AM

【突然の別れ】

登場人物
 高峰桔梗(たかみねききょう)
   樹     (いつき)
 桜井華 (さくらいはな)
 犬塚刑事

別れは突然訪れた。

学校からの帰り、家の回りが騒々しい。何かあった様だ。家に近付くにつれ人の数が増え、みんなが私を見ている。
家の前にはパトカーが止まっている。一瞬身動きが出来無くなった。
「キョーちゃん、家に入ってはダメ!」隣りのおばさんの制止を振り払い家の中に入った。
私は玄関先で氷付いた。
床も壁も天井も真っ赤に染まっている。モニターやスクリーン越しにしか見たことのない景色が現実のものとして、私の瞼に焼き付いた。
もう一歩も動けない。
後のことは覚えていない。

気が付くと、隣りのおばさんの家で横になっていた。
「お気付きになりましたか」婦人警官に声を掛けられた。
「何が、何があったんですか?父は母は、弟は無事なんですか?」
30前後の男が割って入ってきた。
「落ち着いて下さい。
私は捜査一課の犬塚といいます。今から事件の経緯を説明します。今日1時半ごろ、お宅に空き巣が入ったようです」
「私が、ガラスの割れるような音を聞いたのよ」と、隣りのおばさんが口を挟む。
「そこに運悪く、お父さん達が帰ってきて鉢合わせになった様です。残念ながらお父さんとお母さんは胸や腹などを刺されお亡くなりになりました」
「そ、そんな。弟はどうなったんですか?」
「弟さんは病院で治療を受けています」
「無事なんですね」
「かなり厳しい状態だと聞いています」
「私を病院に連れて行って下さい」
何とか一命は取り留めたものの予断を許さない状態で、今夜が峠だと言われた。
犬塚刑事が、その後の操作内容を説明したくれたが、何を言っているのか、まるで頭に入ってこない。犯人はまだ捕まっていないことだけは理解できた。
どれだけの時間が流れたのだろう。
看護師さんに体を揺すられ我に返った。
「先生からお話があるそうです」
「樹は?」
「峠は超えました。もう大丈夫です。弟さんはよく頑張りました」
「先生ありがとうございます」
涙が溢れて止まらない。
事件後、初めて泣いた事に気がついた。
そのまま意識が遠くなり、深い眠りに落ちた。

どのくらい寝ていたのだろう。
目を覚ますと、そこは病室のようだった。
一気に記憶が蘇る。
夢だ。今までのは全て夢だったのだ。
自分にそう言い聞かせたが、病室にいる理由が見つからない。
その時、看護師さんが病室に入って来た。
「気付かれましたか。今、先生を呼んできますね」
「弟は、樹に合わせて下さい」
「落ち着いて、先生を呼びますから」
「具合の悪いところは無いですか?あなたは2日間眠っていたのですよ」
「2日も、私は大丈夫です。弟に合わせて下さい」
「弟さんはまだICU(集中治療室)にいます。命の危機は脱したのですが、意識が戻らないのです。しばらく様子を見ましょう」
私は樹の手を握り話しかけた。
「樹もう大丈夫よ、何も心配する事はないわ。後はお姉ちゃんに任せて、ゆっくりお休みなさい」
その後、若い刑事さんと一緒に事件後初めて自宅へ帰った。
「あまり部屋の中は見ずに必要なものだけ持ち出すようにして下さい」
そうは言われても、余りにも大量な血痕は嫌でも目に入ってくる。やっぱり現実なんだ。堪え切れず溢れる涙を拭いもせずに鞄に荷物を押し込んだ。
外に出るとそこには、婦警さんがいた。最初にあった婦警さんだ。
「私は桜井華。しばらくの間、私があなたを預かる事になりました」
家族以外身寄りがないのでお願いすることにした。

「遠慮しないでね。私は母とふたり暮らしで部屋もひとつ空いてるから自由に使ってね」
「いらっしゃい。大変だったわね。内ならいつまで居てくれても構わないからね。遠慮しないでね。お腹空いたでしょ、それともお風呂が先かしら?」
「ありがとうございます。では、お風呂頂きます」
「ゆっくり温まってね」

考えれば考える程、現実の事とは思えない。どうしても受け入れられない。今は樹の回復だけを考えよう。

「ご馳走様でした。とても美味しかったです。片付けは私がやります」
「いいのよ、そんな事はあたしがやるから」

布団に入ったが、寝られるはずがない。
「桔梗ちゃん、まだ起きてる?」
「はい」
「ちょっと話せる?」
「事件の進展があったんでか?」
「白昼堂々の犯行なのに、目撃情報がまるで無いんだ。それに、強盗犯の線と、怨恨の線でも捜査をしている」
「怨恨だなんて、そんな」
「お父さんやお母さんが誰かに恨まれてる事はないか?逆恨みかもしれない。怨恨の線が消えない限り、君の身も危ない。だから内で預かる事になったんだ」
「父はとても誠実な人です。恨みを買うことなんてありません。母だつて同じです」
「樹君が眼を覚ましてくれれば、犯人の顔を見ているかもしれないのに」
桔梗は毎日、樹に会いに行った。
事件から1週間が経つのに意識が戻らない。
「先生、樹はどうして意識が戻らないのでしょうか?」
「余りにも残酷なものを見たせいで、自ら殻に閉じ籠り、拒否しようとしているのかもしれません」
桔梗は樹の手を握り話しかけた。
「樹、眼を覚まして、お姉ちゃんをひとりにしないで、お願い」
桔梗の眼から一筋の涙が樹の頬に落ちた。
その時、微かに樹の指が動いた。
「先生、樹の手が!」
樹がゆっくりと眼を開けた。
「樹、お姉ちゃんよ。分かる」
「お姉ちゃん、ここ何処?」

次の日、犬塚刑事が事件当時の様子を聞きに来た。
「ボク、犯人の顔見たよ」
「それは、知ってる人だったかい」
「隣りのおばさんの弟だよ」
樹の供述により犯人は逮捕された。
調べによると、被害者の高峰家の裕福さを妬み、金品を奪う目的で強盗に入ったところ、高峰一家が帰宅し顔を見られたので殺害に及んだとの事である。犯人の姉は弟を庇う為に嘘の供述をしていた。

「華さん、おばさんいろいろと有難う御座いました。これからは樹とふたりで頑張っていきます」
「何言ってるの?住む所はどうするのさ」
「施設に入ることになりそうです」
「ここに居ればいいじゃないの。
物置部屋を片付ければ何とかなるよ」
「母もそう言ってるんだ、そうするといい。私も賑やかな方が好きだ」
「ボクもここがいい」
「決まりだね」
私に第2の家族が出来た。

           おわり

5/19/2024, 6:19:36 AM

【恋物語】

急な坂道を300m程登った所にある、とても古い屋敷が僕の家だ。
家は崖っぷちに建っていて2階の僕の部屋からは街の全てが見渡せる。
僕にとってこの景色が全てだ。
小さい頃事故に遭い、目の前で父を失い僕は記憶を失った。
足にも大怪我をし再び歩くのは難しいと言われた。
僕にとってこの家は陸の孤島になった。
2日に1度、家庭教師が来てくれる。
1日の殆どをこの部屋で過ごしている。
くる日もくる日も外を眺めている。
近くに中学校があり、毎朝遅刻ギリギリに走って来る子がいる。
さすがに顔までは見えないが、今日はアウトかセーフか。
毎日の日課になっていた。
帰りはどうなのだろう?
顔がハッキリしないので探せないと思っていたが、授業が終わると真っ先に走って帰る子がいた。
あの子に違いない。
一度でいいからあの子に会って話しをしたい。
何とかしてあの子に会えないだろうか。
この足さえ動けば会いに行けるのに。
僕はとんでもない事を思いついた。
僕は彼女宛に手紙を書いた。
《いつも走っているキミへ
はじめまして、ボクは崖っぷちの家に住んでいます。
ボクの部屋の窓からは街が一望できます。
最初にキミを見かけたのは、小雨の降る朝でした。
傘も差さずに全力で走っていた。
次の日もまた次の日も、朝も帰りもキミは走っていた。
ただそれだけなのに、名前も知らない顔もわからない。
それなのにボクの中でキミが溢れている。
この気持ちがキミに届く事はないだろう。
それでいい》
ボクは手紙で紙飛行機を折り、窓からキミに向けて飛ばした。
奇跡なんて起こりはしない。
それでも紙飛行機は風に乗りボクの想いを運んで行く。

翌朝、いつものように走っているキミを見かけた。
「おはよう。今日も元気そうだね」
あの紙飛行機はどうなったのだろう。そんな事を思いながら下校時刻を迎えた。
校庭を走り校門へ向かうキミ。
校門を出ていつものように右に向かうはずが今日に限って真っ直ぐに進んで行く。
珍しく用事でもあるのかな。

夕食のあと、お母さんが手紙を持ってきた。
切手がないので直接ポストに入れたのだろう。
宛名には ‘窓辺のあなたへ’ と書いてある。
《はじめまして、いつも走っている私です。》
ボクは自分の眼を疑った。
あの子からの手紙だったのだ。
届いたのだ。
《体育の時間に偶然、枝に引っかかっている紙飛行機を見つけました。
あなたからの手紙だと知り驚愕しました。
私は以前からあなたの事を知っています。
もう少し時間があれば、会って謝りたいのに。
私は、明朝母の実家に引っ越す事になりました。
もう二度と会う事はないでしょう。
私がなぜあなたの事を知り、なぜ謝りたいのか。
引っ越し先から一度だけ手紙を書きます。
        サヨウナラ》

ボクはショックのあまり、しばらく動けずにいた。
もう会えないなんて。
彼女はどうして、ボクの事を知っているのだろう?
謝りたいなんて、どうしてだろう。

ボクの恋物語は始まる前に終わってしまった。

           つづく

5/18/2024, 10:05:29 AM

【真夜中】

 [後悔 続編]

登場人物
 勇気
 遥香
 フーリン

翌日、遥香は勇気の家で作戦会議を行なっていた。
「敵はボスがオークで手下がスケルトンなんだよな」
「私が見たのはそうよ」
「何匹くらいいたんだ」
「村のあちこちにいたからハッキリとはわからないけど、
オークが数体
スケルトンが20〜30体いたと思う」
「そいつら全部俺が倒すのか」
「フーリンがいるじゃない」
「でも、アイツのは攻撃じゃなくて援護だって言ってたしな」
「それでも、風で敵を蹴散らしてくれれば、大助かりでしょ」
「なんか厄介なものに首突っ込んじまったな」
「ゴメン、私のせいかも」
「どう言う事だ?」
「勇気があの世界に最初に来た時の事覚えてる?」
「ああ、いきなりスケルトンに襲われたんだ」
「実は、あのスケルトン私に向かって来てたの。その時、(勇気助けて!)って叫んだら目の前に勇気が現れたのよ」
「お前のせいか」
「ゴメン。多分」
「まぁ、今更しょうがない。やってやるさ。どうせ死んでも夢だしな」
「あらヤダ、もう夕飯の時間だわ帰らなきゃ。じゃあまた、《夢美の国》でね」
「おぉ!《夢美の国》か?いい名前だ。今日行ったら夜が明けてればいいんだけどな」

「やっぱり、まだ真夜中のままか」
「みんな集まったわね、準備はいい?」
「おお!」
「もちろん」
勇気と遥香はフーリンにしがみ付いた。
「何やってんだよ」
「飛んで行くんだろ」
「私達、飛べないもん」
フーリンは仕方なくふたりを抱えて飛んだ。
フラフラフラ〜
「これ飛んでるのか?」
「なんか歩いた方が速いみたいね」
「歩きかよ」
俺達は月明かりの中歩き出した。
「星がとってもキレイね」
「夜中に歩くなんて初詣くらいだもんな」
「お前ら遠足じゃないんだから、もっと気を引き締めろよ」
「「は〜い」」
「そういえば、魔物のアジトってどんな所なの?」
「どうして?」
「お前、アジトに攻め込んだんだろ」
「攻め込んでない」
「だってケガして帰って来たじゃない」
「あれは、転んだんだ」あくまでシラを切っている。
「魔物はやっぱりオークと、スケルトンだけなのかな?」
「トロール」
「えっ?」
「トロールがいた」
「お前やっぱりアジトに行ったんじゃん」
「こっ、転んだんだ」尚もとぼける。
「「.....」」
「方角はこっちでいいの?」
「間違いない、“風の鈴”が教えてくれる」
3人はひたすらに歩き続けた。
すると、前方にポツンと明かりが見えた。
「あそこに明かりが見えない?」
「あっ、本当だ。なんか燃えてるみたいだな。もしかしたら、また村が燃えてるんじゃ」
「フーリン先に行って...」
「もう行ったよ。俺達も急ごう」
「うん」
炎に近付くにつれ、どうやら村が燃えている訳ではなさそうだ。
「ひとまずは良かったわ」
「フーリンが誰かと話してるようだな。髪の毛が真っ赤っ赤じゃないか」
やっとフーリンの所に着いた。
「遅い!」
「俺達は飛べないんだ」
「これでも全力で走って来たのよ」
『君が勇者ですか?』
「はい?」

           つづく

Next