星乃 砂

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5/20/2024, 11:35:24 AM

【突然の別れ】

登場人物
 高峰桔梗(たかみねききょう)
   樹     (いつき)
 桜井華 (さくらいはな)
 犬塚刑事

別れは突然訪れた。

学校からの帰り、家の回りが騒々しい。何かあった様だ。家に近付くにつれ人の数が増え、みんなが私を見ている。
家の前にはパトカーが止まっている。一瞬身動きが出来無くなった。
「キョーちゃん、家に入ってはダメ!」隣りのおばさんの制止を振り払い家の中に入った。
私は玄関先で氷付いた。
床も壁も天井も真っ赤に染まっている。モニターやスクリーン越しにしか見たことのない景色が現実のものとして、私の瞼に焼き付いた。
もう一歩も動けない。
後のことは覚えていない。

気が付くと、隣りのおばさんの家で横になっていた。
「お気付きになりましたか」婦人警官に声を掛けられた。
「何が、何があったんですか?父は母は、弟は無事なんですか?」
30前後の男が割って入ってきた。
「落ち着いて下さい。
私は捜査一課の犬塚といいます。今から事件の経緯を説明します。今日1時半ごろ、お宅に空き巣が入ったようです」
「私が、ガラスの割れるような音を聞いたのよ」と、隣りのおばさんが口を挟む。
「そこに運悪く、お父さん達が帰ってきて鉢合わせになった様です。残念ながらお父さんとお母さんは胸や腹などを刺されお亡くなりになりました」
「そ、そんな。弟はどうなったんですか?」
「弟さんは病院で治療を受けています」
「無事なんですね」
「かなり厳しい状態だと聞いています」
「私を病院に連れて行って下さい」
何とか一命は取り留めたものの予断を許さない状態で、今夜が峠だと言われた。
犬塚刑事が、その後の操作内容を説明したくれたが、何を言っているのか、まるで頭に入ってこない。犯人はまだ捕まっていないことだけは理解できた。
どれだけの時間が流れたのだろう。
看護師さんに体を揺すられ我に返った。
「先生からお話があるそうです」
「樹は?」
「峠は超えました。もう大丈夫です。弟さんはよく頑張りました」
「先生ありがとうございます」
涙が溢れて止まらない。
事件後、初めて泣いた事に気がついた。
そのまま意識が遠くなり、深い眠りに落ちた。

どのくらい寝ていたのだろう。
目を覚ますと、そこは病室のようだった。
一気に記憶が蘇る。
夢だ。今までのは全て夢だったのだ。
自分にそう言い聞かせたが、病室にいる理由が見つからない。
その時、看護師さんが病室に入って来た。
「気付かれましたか。今、先生を呼んできますね」
「弟は、樹に合わせて下さい」
「落ち着いて、先生を呼びますから」
「具合の悪いところは無いですか?あなたは2日間眠っていたのですよ」
「2日も、私は大丈夫です。弟に合わせて下さい」
「弟さんはまだICU(集中治療室)にいます。命の危機は脱したのですが、意識が戻らないのです。しばらく様子を見ましょう」
私は樹の手を握り話しかけた。
「樹もう大丈夫よ、何も心配する事はないわ。後はお姉ちゃんに任せて、ゆっくりお休みなさい」
その後、若い刑事さんと一緒に事件後初めて自宅へ帰った。
「あまり部屋の中は見ずに必要なものだけ持ち出すようにして下さい」
そうは言われても、余りにも大量な血痕は嫌でも目に入ってくる。やっぱり現実なんだ。堪え切れず溢れる涙を拭いもせずに鞄に荷物を押し込んだ。
外に出るとそこには、婦警さんがいた。最初にあった婦警さんだ。
「私は桜井華。しばらくの間、私があなたを預かる事になりました」
家族以外身寄りがないのでお願いすることにした。

「遠慮しないでね。私は母とふたり暮らしで部屋もひとつ空いてるから自由に使ってね」
「いらっしゃい。大変だったわね。内ならいつまで居てくれても構わないからね。遠慮しないでね。お腹空いたでしょ、それともお風呂が先かしら?」
「ありがとうございます。では、お風呂頂きます」
「ゆっくり温まってね」

考えれば考える程、現実の事とは思えない。どうしても受け入れられない。今は樹の回復だけを考えよう。

「ご馳走様でした。とても美味しかったです。片付けは私がやります」
「いいのよ、そんな事はあたしがやるから」

布団に入ったが、寝られるはずがない。
「桔梗ちゃん、まだ起きてる?」
「はい」
「ちょっと話せる?」
「事件の進展があったんでか?」
「白昼堂々の犯行なのに、目撃情報がまるで無いんだ。それに、強盗犯の線と、怨恨の線でも捜査をしている」
「怨恨だなんて、そんな」
「お父さんやお母さんが誰かに恨まれてる事はないか?逆恨みかもしれない。怨恨の線が消えない限り、君の身も危ない。だから内で預かる事になったんだ」
「父はとても誠実な人です。恨みを買うことなんてありません。母だつて同じです」
「樹君が眼を覚ましてくれれば、犯人の顔を見ているかもしれないのに」
桔梗は毎日、樹に会いに行った。
事件から1週間が経つのに意識が戻らない。
「先生、樹はどうして意識が戻らないのでしょうか?」
「余りにも残酷なものを見たせいで、自ら殻に閉じ籠り、拒否しようとしているのかもしれません」
桔梗は樹の手を握り話しかけた。
「樹、眼を覚まして、お姉ちゃんをひとりにしないで、お願い」
桔梗の眼から一筋の涙が樹の頬に落ちた。
その時、微かに樹の指が動いた。
「先生、樹の手が!」
樹がゆっくりと眼を開けた。
「樹、お姉ちゃんよ。分かる」
「お姉ちゃん、ここ何処?」

次の日、犬塚刑事が事件当時の様子を聞きに来た。
「ボク、犯人の顔見たよ」
「それは、知ってる人だったかい」
「隣りのおばさんの弟だよ」
樹の供述により犯人は逮捕された。
調べによると、被害者の高峰家の裕福さを妬み、金品を奪う目的で強盗に入ったところ、高峰一家が帰宅し顔を見られたので殺害に及んだとの事である。犯人の姉は弟を庇う為に嘘の供述をしていた。

「華さん、おばさんいろいろと有難う御座いました。これからは樹とふたりで頑張っていきます」
「何言ってるの?住む所はどうするのさ」
「施設に入ることになりそうです」
「ここに居ればいいじゃないの。
物置部屋を片付ければ何とかなるよ」
「母もそう言ってるんだ、そうするといい。私も賑やかな方が好きだ」
「ボクもここがいい」
「決まりだね」
私に第2の家族が出来た。

           おわり

5/19/2024, 6:19:36 AM

【恋物語】

急な坂道を300m程登った所にある、とても古い屋敷が僕の家だ。
家は崖っぷちに建っていて2階の僕の部屋からは街の全てが見渡せる。
僕にとってこの景色が全てだ。
小さい頃事故に遭い、目の前で父を失い僕は記憶を失った。
足にも大怪我をし再び歩くのは難しいと言われた。
僕にとってこの家は陸の孤島になった。
2日に1度、家庭教師が来てくれる。
1日の殆どをこの部屋で過ごしている。
くる日もくる日も外を眺めている。
近くに中学校があり、毎朝遅刻ギリギリに走って来る子がいる。
さすがに顔までは見えないが、今日はアウトかセーフか。
毎日の日課になっていた。
帰りはどうなのだろう?
顔がハッキリしないので探せないと思っていたが、授業が終わると真っ先に走って帰る子がいた。
あの子に違いない。
一度でいいからあの子に会って話しをしたい。
何とかしてあの子に会えないだろうか。
この足さえ動けば会いに行けるのに。
僕はとんでもない事を思いついた。
僕は彼女宛に手紙を書いた。
《いつも走っているキミへ
はじめまして、ボクは崖っぷちの家に住んでいます。
ボクの部屋の窓からは街が一望できます。
最初にキミを見かけたのは、小雨の降る朝でした。
傘も差さずに全力で走っていた。
次の日もまた次の日も、朝も帰りもキミは走っていた。
ただそれだけなのに、名前も知らない顔もわからない。
それなのにボクの中でキミが溢れている。
この気持ちがキミに届く事はないだろう。
それでいい》
ボクは手紙で紙飛行機を折り、窓からキミに向けて飛ばした。
奇跡なんて起こりはしない。
それでも紙飛行機は風に乗りボクの想いを運んで行く。

翌朝、いつものように走っているキミを見かけた。
「おはよう。今日も元気そうだね」
あの紙飛行機はどうなったのだろう。そんな事を思いながら下校時刻を迎えた。
校庭を走り校門へ向かうキミ。
校門を出ていつものように右に向かうはずが今日に限って真っ直ぐに進んで行く。
珍しく用事でもあるのかな。

夕食のあと、お母さんが手紙を持ってきた。
切手がないので直接ポストに入れたのだろう。
宛名には ‘窓辺のあなたへ’ と書いてある。
《はじめまして、いつも走っている私です。》
ボクは自分の眼を疑った。
あの子からの手紙だったのだ。
届いたのだ。
《体育の時間に偶然、枝に引っかかっている紙飛行機を見つけました。
あなたからの手紙だと知り驚愕しました。
私は以前からあなたの事を知っています。
もう少し時間があれば、会って謝りたいのに。
私は、明朝母の実家に引っ越す事になりました。
もう二度と会う事はないでしょう。
私がなぜあなたの事を知り、なぜ謝りたいのか。
引っ越し先から一度だけ手紙を書きます。
        サヨウナラ》

ボクはショックのあまり、しばらく動けずにいた。
もう会えないなんて。
彼女はどうして、ボクの事を知っているのだろう?
謝りたいなんて、どうしてだろう。

ボクの恋物語は始まる前に終わってしまった。

           つづく

5/18/2024, 10:05:29 AM

【真夜中】

 [後悔 続編]

登場人物
 勇気
 遥香
 フーリン

翌日、遥香は勇気の家で作戦会議を行なっていた。
「敵はボスがオークで手下がスケルトンなんだよな」
「私が見たのはそうよ」
「何匹くらいいたんだ」
「村のあちこちにいたからハッキリとはわからないけど、
オークが数体
スケルトンが20〜30体いたと思う」
「そいつら全部俺が倒すのか」
「フーリンがいるじゃない」
「でも、アイツのは攻撃じゃなくて援護だって言ってたしな」
「それでも、風で敵を蹴散らしてくれれば、大助かりでしょ」
「なんか厄介なものに首突っ込んじまったな」
「ゴメン、私のせいかも」
「どう言う事だ?」
「勇気があの世界に最初に来た時の事覚えてる?」
「ああ、いきなりスケルトンに襲われたんだ」
「実は、あのスケルトン私に向かって来てたの。その時、(勇気助けて!)って叫んだら目の前に勇気が現れたのよ」
「お前のせいか」
「ゴメン。多分」
「まぁ、今更しょうがない。やってやるさ。どうせ死んでも夢だしな」
「あらヤダ、もう夕飯の時間だわ帰らなきゃ。じゃあまた、《夢美の国》でね」
「おぉ!《夢美の国》か?いい名前だ。今日行ったら夜が明けてればいいんだけどな」

「やっぱり、まだ真夜中のままか」
「みんな集まったわね、準備はいい?」
「おお!」
「もちろん」
勇気と遥香はフーリンにしがみ付いた。
「何やってんだよ」
「飛んで行くんだろ」
「私達、飛べないもん」
フーリンは仕方なくふたりを抱えて飛んだ。
フラフラフラ〜
「これ飛んでるのか?」
「なんか歩いた方が速いみたいね」
「歩きかよ」
俺達は月明かりの中歩き出した。
「星がとってもキレイね」
「夜中に歩くなんて初詣くらいだもんな」
「お前ら遠足じゃないんだから、もっと気を引き締めろよ」
「「は〜い」」
「そういえば、魔物のアジトってどんな所なの?」
「どうして?」
「お前、アジトに攻め込んだんだろ」
「攻め込んでない」
「だってケガして帰って来たじゃない」
「あれは、転んだんだ」あくまでシラを切っている。
「魔物はやっぱりオークと、スケルトンだけなのかな?」
「トロール」
「えっ?」
「トロールがいた」
「お前やっぱりアジトに行ったんじゃん」
「こっ、転んだんだ」尚もとぼける。
「「.....」」
「方角はこっちでいいの?」
「間違いない、“風の鈴”が教えてくれる」
3人はひたすらに歩き続けた。
すると、前方にポツンと明かりが見えた。
「あそこに明かりが見えない?」
「あっ、本当だ。なんか燃えてるみたいだな。もしかしたら、また村が燃えてるんじゃ」
「フーリン先に行って...」
「もう行ったよ。俺達も急ごう」
「うん」
炎に近付くにつれ、どうやら村が燃えている訳ではなさそうだ。
「ひとまずは良かったわ」
「フーリンが誰かと話してるようだな。髪の毛が真っ赤っ赤じゃないか」
やっとフーリンの所に着いた。
「遅い!」
「俺達は飛べないんだ」
「これでも全力で走って来たのよ」
『君が勇者ですか?』
「はい?」

           つづく

5/17/2024, 6:21:15 AM

【愛があれば何でもできる?】

 [愛を叫ぶ 続編]

登場人物
 剛志
 雅

「ただいま」と言ったところで返事が返ってくる訳でもない。
いつからこんな風になってしまったんだろう。

ボクと雅ちゃんは幼稚園の時に偶然知り合った。
運命的な出会いだった。
小中学校を一緒に通い
高校大学は別々になったが、ふたりの気持ちが変わる事はなかった。
雅ちゃんは短大を卒業すると、小さい頃からの夢だった保育士になった。
ボクも大学を卒業し、小さいながらもアットホームな会社に入った。
3年後、ボクたちは結婚をした。
雅ちゃんの為ならば、ボクは何だって頑張れる。
2年後、長女を授かった。
子供はあまり好きではなかったが、自分の子がこれ程までに可愛いなんて思いもしたかった。
ふたりの為ならと、仕事も人一倍頑張った。
そんな時、倒産する会社が相次ぐ中、人の良い社長が信頼していた人に騙され会社は窮地に立たされた。
この危機を乗り越える為、みんな必死に戦った。
次第に帰りが遅くなり、そのうち3日に一度帰るような生活になっていった。
‘家族の為にも頑張らなければ’
‘愛さえあれば何でもできる’
その思いで必死だった。

だが
悲劇は突然訪れた。
その日も夜遅くなったのだが、いつもは寝ているはずの雅ちゃんが起きて待っていてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい。大事な話があるの」
いきなり離婚届を見せられた。
「別れて下さい」
「どうして、ボク何か悪い事でもした?もしそうなら謝るから考え直して」
「剛志くんは私達の事を何だと思っているんですか?仕事が大変なのはわかります。私達の為に頑張ってくれているのもわかります。だから、剛志くんに負担をかけないように家事も、育児も私ひとりでやってきました。‘愛さえあれば何でもできる’と思いやってきたんです。でも、最近は剛志くんの愛が、私たちに届かないんです。届かない愛は、無いのと同じです。
サヨウナラ」
雅ちゃんは娘と共に家を後にした。
ボクは悲しみのあまり思い切り泣いた。
「わ〜!」
ボクは自分の声に驚き眼を覚ました。何だ夢だったのか。よかった。それにしてもリアルな夢だったな。まさか予知夢?
あの夢が現実にならない様に努力していこう。なにが雅ちゃんの為なのかを考えていこう。
ボクのお父さんもそうだ、家族の為に働いていると言っているけど、ボクとはちっとも遊んでくれない。そんなの家族の為じゃないと思う。いろいろと考えてるうちに学校に着いた。
「おはよう剛志くん」
そこには、あどけない小学1年生の雅ちゃんがいた。

           おわり

5/16/2024, 9:32:18 AM

【後悔】

 [風に身をまかせて 続編]

登場人物
 勇気(17)
 遥香(17)
 フーリン(123)

「おい、勇者ってのはお前か?」
「はい?」
「勇者はお前かって聞いてんだよ!」
「俺は、勇者じゃなくて勇気!高2の17才だ!って言うか、お前こそ誰だ?」
「17才?」
「なーに、どうしたの?」
「おぅ遥香、実はこの子が俺の事を勇者だって言うんだ」
「まぁ、可愛い、お嬢ちゃん何処から来たのお名前は、歳はいくつ?」
「ボクは、風の民の戦士フーリン123才だ」
「「はぁ?」」
「123才って、どっから見ても小学生だろ」
「フーリンちゃんはひとりでここに来たの」
「うん、そうだよ。お前は誰」
「私は遥香、勇気と同じ17才よ」
「そうか、コイツは勇者じゃないのか?」
「フーリンちゃんは勇者を探しているの?」
「そうだ」
「どうして?」
「この災いを止める為にだ。なぜ夜が明けないのか、お前知ってるか?」
遥香は魔族に“時の女神”を奪われて時が止まった事を話した。
「フーリンちゃんはどうしてここに勇者がいると思ったの?」
フーリンは自分が風の民の戦士で“風の鈴”に導かれここに来た事を話した。
「コイツは勇者なのか?」
「そうよ」遥香はあっさり答えた。
「何言ってるんだよ、俺は勇者なん...」ドスッ!遥香にヒジテツを食らった。
「今の話し聞いたでしょ。この子は導かれてここに来たのよ。戦えるのは勇気だけ、だから勇気が勇者なのよ」
「そんなムチャクチャな」
「こいつ本当に強いのか?」
「それが、まだ勇者に成りたてで弱いのよ。だから今特訓してる最中なの。フーリンちゃんは何が出来るの?」
「ボクは風を操れる。攻撃と言うより援護だ。相手を吹き飛ばす事は出来るが倒す事は出来ない。こんな感じだ」
フーリンは勇気に向かって三角帽子を振り下ろした。
「うわー!」勇気は10m程吹き飛ばされた。
「いきなり何すんだよ!」
「軽くやったのに、あんなのも避けられないのかよ。勇者が聞いて呆れる」
「うるさい、今のはイキナリだったから避けられなかったんだ」
「まあまあ、2人ともケンカしないで。仲間は多いほどいいでしょ」
「まあな」
「それより、その“風の鈴”を使って“時の女神”の場所も分かの?」
「分かるよ、ボクに付いて来て」
「すごーい、じゃあ直ぐ出発しましょう」
「もう行くのか?俺はまだ心の準備が出来てないんだけど」
「だって、早くこの暗闇を終わらせなきゃ」
「それはそうだけど、俺まだ弱いし...ってアイツどこ行った?」
「あら、居ないわね?」
「あれそうじゃないか、あの飛んでるの」
「ウソ、やだー、ひとりで行っちゃったの?」


  ーー魔物のアジトーー

「よし、着いたぞ」振り返ったが誰もいなかった。
「アイツら、何で付いて来ないんだ。しょうがない、ボク1人で“時の女神”を取り返してやる」

   ーー数時間後ーー

「あの子、どこ行っちゃったんだろう?」
「さあな、でも飛べるなんてさすが夢の世界だぜ」
「あっ、帰ってきてみたいよ」
フーリンはふたりのそばに着地した。
「何で付いて来ないんだ」
「オレ達は飛べないんだ」
「それより、どうしたの、キズだらけじゃないの」
「転んだ」
「どんな転び方をしたらこんなにキズだらけになるのよ。今、治してあげるからね」
「治せるのか?」
「私、ヒーラーだもん」
遥香はフーリンのキズを治してあげた。
「ありがとう」
「あら、素直じゃない。私達は仲間なんだから、もう単独行動はしないでね」
「うん、分かった」この女は信用できそうだ。ヒーラーだと分かっていたら、ひとりで魔物のアジトに突っ込むんじゃなかった。
フーリンは深く後悔した。

           つづく

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