ソラキ

Open App
6/8/2024, 6:54:44 AM

世界の終わりに君と昼寝をする約束をした。
「寝ようと思って寝られるもん?」
「いやームズいでしょ。という事で、睡眠薬用意してる」
「お〜」
拍手を貰い良い気になったところで、親友に薬を渡し、せーの、で同時に飲んだ。
やわらかい布団に横になる。
外の桜は満開で、快晴の春。だと信じたい。ふすまを閉めて、畳の部屋に閉じこもっているから外がどうだか分からない。最期の部屋に用意したのは、布団と時計とイルカの巨大ぬいぐるみ。
「このぬいぐるみでかいな」
「うん、私の身長よりちょっと低いくらい?いつも抱き枕にしてる」
ふーん、とイルカのヒレ?手?をふかふかと触る親友は、随分興味ありそうな様子。
「可愛いでしょ。握って寝て良いよ」
「そう?」
と、言った親友はそれから暫しイルカを揉んだ後、「やっぱり良いや、ありがとう」と言って、代わりに私の手を掴んだ。
別に嫌ではないし、なんならイルカだけでは耐えきれない寂しさがあったから、私も素直に手を繋いだ。
「まぁ最期だからね」
「確かに」
イルカもふかふかして大好きだけど、親友の手も、温かくて大好きだ。
これから冷たくなるって、そんなの知らない。この温かさは多分私の中で永遠になるのだろう。
ぎゅっと力を入れたら、握り返してくれた。
うん、今この瞬間が永遠だ。


/世界の終わりに君と

10/1/2023, 12:39:04 PM

【たそがれ】

河川敷の原っぱに横になってみた。漫画とかではよく見る光景だけど、実際のところこの場所でくつろいでいる人はそんなに見かけない。単純に、汚れてしまうからだ。
だけど今日の私は、髪に、服に、土が付着することを気にもしなかったから関係の無いことだった。むしろ、こうしていたかったような気がする。

オレンジ色を帯びた雲達をずっと眺めていた。この時間の空って綺麗だなとぼーっと考える。
ハッキリとはしないけど、私の気持ちが分かった。
自分を汚したいんだ。ぐちゃぐちゃにして傷つけたい。だけどそんなことを実行出来ないことも知ってる。
そうして逃げ込んでここに来て、髪や服が汚れただけで少し安心してる。なんというか、全体的に小さい人間なのかもしれない。

たそがれ時はもう終わる。いつまでもこうしては居られない。自分のことが嫌になって、汚れたい傷つきたいと思ってたって、行動出来ない。
でもだからこそ綺麗な夕暮れを知れた。とりあえず今日はそれで良いと思う。私は起き上がって、付いた土を落とした。

8/24/2023, 2:46:39 PM

【やるせない気持ち】

花ちゃんが死んだ。

スマホをぼーっと眺めていたら 6時半のアラーム通知がきたから、すぐにスワイプをして消した。今日も高校は休むけど、なんとなく区切りの為に朝のアラームはつけたままにしている。花ちゃんがこの世から居なくなって4日目の朝。

夜も朝もやることは変わらない。ただただ、インターネットに無数にある見ても見なくても良い文字列を、布団の中から追っていた。要らない情報で頭を埋めると楽な気がした。なにより、これをずっとしていたらそのうち頭がキャパオーバーして、いつの間にか気絶したように寝れるのだ。寝るために寝ることはあの日から出来ていない。だから、私にとっては必要な事だった。

*
「ねー連弾しよ!」
「いいよ〜」
私たちはいつものように1つのイスを2人で座った。花ちゃんは左側で、私は右側。ピアノ教室のピアノは窓から光が差し込んで、いつも優しく光ってたから好きだった。
ドと先生が印をしてくれているところに親指を置く。
「今日はどんな曲にする?」
「どうしよっか。今どんな気分?」
「えー、楽しい気分」
「私も」
じゃあそれで。と、いつも適当に曖昧にテーマをつけては2人でピアノを弾いていた。
私は楽しい気分のイメージはドとミを一緒に弾いた音な気がしたから、その音ばかりを使って弾いた。花ちゃんはアップテンポがそのイメージらしく、ダダダダと勢いよく弾いていた。めちゃくちゃだったけれど、2人の中では正解の音楽だった。
途中でどっちかが歌い出したり、2人共気に入ったフレーズを作れたら繰り返し繰り返し弾き続けて。

雨の日は雨の曲を作った。星をテーマにして作った時もあったな。学校の先生にムカついた怒りの曲や、犬可愛いって曲も作った。
目まぐるしく流れる演奏。2人分の小さい背中。笑いあっている横顔が遠くなっていく。
あ、これ夢だ。

*
薄らと目を開けた。静かな部屋とは裏腹に、耳ではピアノが鳴り続けている。
私は勢いよく体を起こし、部屋の隅にある電子ピアノに向かい合って座った。
ドとミの和音。それをきっかけに続けて指が勝手に動く。あぁ、あのフレーズだ。
覚えてる。弾けてる。これは楽しい気分の曲だ。

何やってんだろう、本当。

喉がしまったように苦しくなって、熱いものが目から零れ落ちる。演奏の手を止めて、鍵盤を思い切り叩きつけた。部屋中に金切り声のような不協和音が響いた後、その勢いのまま狂ったようにまた、ピアノを弾いた。ただ今の気持ちのままに自由に苦しく。
やるせない気持ちは、言葉のイメージよりもずっと意味の分からない音になった。でもこの方が正しいと思う。変えられないものを前にして、変えたいと思い続ける行為なのだから。もうどうしようもないって分かってるのに。
生き返らせることなんて出来ない。二度と会えない。ピアノを弾けば弾くほどそう実感していく。私の中の生きる力が萎んでいく感覚。
この最低な感覚も全部全部、音符に変えて、ただただ弾いた。

長い演奏を終えた後、私はイスの右側に座っていたことに今更気がついて、少し笑った。

8/19/2023, 8:47:42 AM

〔鏡〕

僕は鏡に映らない。
水溜まりとか写真とかには映るけど、鏡だけ。よく分からないけれどそういうものらしい。
周りの人達は当たり前のように僕を受け入れていて、身支度の時大変だね、とたまに同情されるくらいで至って普通に暮らせている。
そんな周囲をありがたく思いながらも、同時に僕は軽蔑していた。そして直ぐに自己嫌悪に陥る、いつものパターンだ。

僕以外の全てが映る鏡。
異端を受け入れてくれる周囲。

優しい世界の筈なのに全てをめちゃくちゃにしたかった。誰に何を言っても変えられない日々から逃げたくて、鏡に向かって手を伸ばす。当然のように、鏡に映ることも、まして鏡の中に入ることも出来やしなかった。
手が鏡に触れた時にたてた小さな音だけを、手繰り寄せるしかなかった。

8/18/2023, 9:59:21 AM

(もう4年経つんだ)
動かなくなった時計を腕にはめた。普段は部屋の飾り棚に隠れるようにして置いてあるそれは、私の腕によく馴染んだ。動かなくなった4年前まで毎日のように着けていたのだから、当たり前なのかもしれない。

中学生の時に、千里ちゃんが誕生日プレゼントにくれたのだ。当時の私にとって、中学生が腕時計をプレゼントって結構凄いことで。間違いじゃないか、本当に貰っても良いのか、千里ちゃんに何度も確認をした。
千里ちゃんは大笑いしながら「貰って貰って。だって一番の友達じゃん」って言うものだから、私は思わず抱きついてしまった。

私と千里ちゃんは一番の友達。
千里ちゃんが県外に出た4年前から、私は自信を持って言うことが出来なくなっていた。
関係を絶っている訳では無いけれど、もう随分と千里ちゃんから連絡は来ていない。私からメッセージを送ることもあったけれど当たり障りの無い会話で終わるのが何故か妙に苦しくて、あまり頻度は多くない。
(なんでこうなっちゃったのかな)
距離が離れるだけで、こんなにも関係が変わるとは思っていなかった。
千里ちゃんは今が楽しいんだと思う。
私を過去にした千里ちゃんは見る目が無いと思う。
私も、私だって今を生きているのに。

腕で顔を覆う。腕時計がおでこに当たり、その冷たさが伝わった。
(違う。分かってる)
千里ちゃんも、そして私も、多分悪くないんだと思う。だから、何も出来ない。
「……動かないかなー」
腕で顔を覆ったまま、独りごちた。願いはきっとシンプルで、ただ動いてほしいだけだった。


/いつまでも捨てられないもの

Next