彼は私のことを一途に愛してくれている。だからこそ、私だけしか知らない彼の姿をたくさん見ることができるのだ。
普段の彼はとても紳士的だ。誰に対しても物腰柔らかく接しているが、決して感情的にならないし、自分の手の内を他人に明かすことがない。それ故に、他人の目にはミステリアスで魅力的に映っている。
しかし、そんな彼の本当の姿を私だけが知っている。見た目に反してたくさん食べること、私に対しては甘えん坊な部分があること…挙げだしたらキリがない程だ。
「ねぇ、いつになったら離れてくれるの?」
「ん〜、ずっと離したくないですね」
今、私は彼に後ろからギュッと抱きしめられている。その状態になってから少し時間が経っているが、全然離れる気配がない。
「他の子がこんな所見たらガッカリしちゃうよ〜?」
「貴方が喜んでくれればそれでいいんです〜、貴方以外には興味ありませんから」
たまにはこんな日があってもいいか、と思いつつ、私だけに許された彼との時間だなぁと優越感に浸るのであった。
テーマ「私だけ」
遠い日の記憶。それは、私たちが出逢った日のこと。もし、あの時私が彼を助けなかったら、彼を助けたのが別の人だとしたら。今の私たちは存在しないだろうと思うとゾッとする。彼にとっては泣き虫な自分の苦い思い出なのか、私と出逢えた日という幸せな記憶なのかどっちなんだろう。
「おや、ぼーっとしてどうしたのですか?」
「ううん、何でもない」
私は自分で思っている以上に考え込んでいたらしく、その様子に気づいた彼の声で現実に引き戻された。せっかくのおやつ時にネガティブな話をしたくない。彼が焼いてくれたホットケーキが冷める前に食べてしまおうと、私は考えることを止めた。
「私ね、あなたと出逢うことができて幸せだよ」
「いきなりどうしたんですか、俺も幸せですよ」
ただそれだけを伝えて、楽しい休日を過ごした。
テーマ「遠い日の記憶」
公園のベンチに座って休憩しながら、ふと空を見上げてみる。透き通るような青い空、何かに似ている形をした白い雲。小さい頃は、あれが何の食べ物だ、何の動物だと言い合ったっけ、と思い出に耽ける。
「お出かけする日に晴れてくれるのは嬉しいですけど、ちょっと暑いですね…」
そう言って彼は日傘をさしてくれた。確かに彼の言う通り、日差しが少し強く、少し汗ばんでいる。子供の頃はそんな事気にしなかったのに。
「あなたは空を見上げて、なにか思い浮かぶことある?」
「そうですね…明日も天気が良ければいいなとかですね」
「現実的だね…あの雲が何かの形に見えるとか考えたことない?」
「あぁ!小さい頃そんなこと考えてましたね。懐かしいです」
私より年上の彼はすぐに思いつかなかったらしく、私が言った事で大きくリアクションした。その後私が挙げた例が全て食べ物だったせいで、これから何か食べに行きましょうか、と提案された。
テーマ「空を見上げて心に浮かんだこと」
僕は、泣き虫でとても臆病だった。でも、そんな僕に優しくしてくれる人がいた。それが一目惚れした彼女だった。
「大丈夫、私が居るから」
「私があなたのことを守ってあげるから」
僕が泣いていると、いつも彼女が励ましてくれた。彼女のその笑顔が眩しくて、とても可愛らしくて、ずっと見ていたいと思った。
ある日、彼女が人知れず涙を流しているところを僕は見かけてしまった。どうしたのか聞いても、何でもないと答えるだけだった。絶対大丈夫な訳が無いと思った僕はどうか話して欲しいと何度もお願いした。曰く、彼女は嫌がらせを受けている様子だった。
「そんな…酷いですっ。こんな優しい人を傷つけるなんて…」
「本当に大丈夫だから…」
「今度は僕が…いや、俺が貴方を守りますから!」
それから、俺は強くなるために努力をした。泣き虫を克服して、彼女を守るのだと心に決めて。泣き虫で臆病な自分も、もう終わりにしよう。
テーマ「終わりにしよう」
辛い。何をしても上手くいかないし、努力も報われない。こんな私の事なんか、誰も理解してくれないだろう。そう思うと、涙が止まらなくなる。
「おや、どうしたのですか?」
気がつくと、隣に彼が居た。いつの間に、と思いながらも涙を隠そうとして顔を背ける。すると彼はそれを許さなかったらしく、抱き寄せて密着してきた。
「ほら、隠さないでくださいよ。俺は貴方の味方ですから」
「実は…」
私は今まであった辛かった事を全て打ち明けた。他の人にアドバイスされても、全くためにならなかったので、更に落ち込んでいたことも含めて話した。
「なるほど、でも大丈夫です。人は失敗を繰り返して成長するのですから。俺も一緒にどうしたらいいか考えます」
「どうして、あなたはそんなに優しくしてくれるの?」
「これくらい当然の事ですよ。俺たちは今まで手を取り合って生きてきたじゃないですか」
そう言って、彼はそっと手を繋いだ。その後彼は今は貴方の心のケアの方が大事です、と言って気分転換することを優先してくれた。
テーマ「手を取り合って」