彼が私を甘やかしてくれる時は、ギュッと抱きしめながら頭を撫でてくれる。私に触れる優しい手と、じんわりと伝わってくる彼の温もりが心地良い気分にさせる。そして、時に優しく、時に熱っぽく私に対する愛を囁いてくれる。
「俺は貴方の全てが好きですよ。可愛らしい笑顔も、優しい声も…」
「ありがとう、でもそんなに褒められると照れちゃうよ」
いつも彼は私のことを褒めてくれる。それも一言だけではなく、細かく具体的に褒めるので、聞いているこっちが恥ずかしくなるレベルなのだ。笑顔や声について言われる時はまだ軽い方で、宝石のような瞳や絹のように滑らかな肌ともてはやされた時には顔を真っ赤にして照れてしまった。
「本当に、あなたは私のことをよく見ているね」
「もちろんですよ。俺は他の誰よりも、ずっと貴方のことを愛していますから」
色々囁かれた中でも、シンプルに愛してると言われる方が、よりドキドキするように感じた。ロマンチストではある彼だからこそ、飾らない言葉で真っ直ぐに想いを伝えた時の方が私の心を掴んで離さないのだろう。だから、私も微笑みながらこう返した。
「私も、あなたのことを他の誰よりも、ずっと愛してる」
テーマ「誰よりも、ずっと」
「私って本当にダメだなぁ…」
小さな声だったが、俺の耳には確かにその言葉が届いた。それは貴方の悪い癖だ。貴方は失敗してしまったり、躓いたりしてしまうとすぐに自分自身を嫌ってしまう。それが例えどうしようもできない理不尽な理由であったとしてもだ。
「そんな事言わないでください。貴方は素敵な人なのですから」
俺は幼い頃から貴方と共に居て、心優しい性格や可愛らしい姿など、様々な部分に惚れたのだ。だから、俺の大好きな貴方が自己嫌悪に陥っていると、こちらも悲しい気持ちになってしまうのだ。だからお願い、自分を嫌わないで…
「私には自分の良さが分からない、だから何も…」
俺はこれ以上悲しみに満ちた言葉を言わせまいと、顔を埋めさせるようにして強く抱きしめた。少し強引かもしれないが、こうでもしないと止めることができないと思ったからだ。そして、気が動転している貴方を宥めるように頭を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ。貴方のことは、俺がちゃんと見ていますから。どんな貴方でも、俺は大好きですから」
おそらく大好きという言葉に反応したのだろう。貴方は顔を上げて俺を見つめてきたので、俺は優しく微笑みかけて安心させる。するとホッとしたのか貴方からも優しく微笑んでくれた。
「これからも、ずっと傍に居させてください。貴方のことを守りたいんです」
俺がそう言うと、貴方は笑顔になって俺を強く抱きしめ返した。
テーマ「これからも、ずっと」
彼と遠くへ出かけた帰り道。いつの間にか陽は沈みかけ、空は茜色から紺碧へのグラデーションになっていた。私は、昔から夕焼けを見ると切ない気持ちになり、時には泣いてしまうこともあった。一日が終わってしまうことに対する後悔か、あるいは夜の闇に対する無意識の恐怖か、理由は分からないけれど私の中で何かが込み上げてくるのだ。
「おや…どうしたのですか?」
「えっ、と…」
そんなことを考えていたら、私は足を止めてしまっていたらしい。その様子に気づいたらしい彼が、心配そうな顔をして私に声をかけた。はっ、と我に返った私は言葉を紡ごうとするが、声は出ず口をパクパクするだけだった。彼は何かを察したのか、何も言わずに私の手を握った。
「こうして手を繋げば、暗くなってもはぐれないでしょう?」
見上げて首を傾げる私に対して、彼は優しく微笑んでそう言った。繋いだ手はとても温かく、私の心のモヤモヤを溶かしてくれるようだった。私は強く頷いて、彼に感謝の気持ちを伝えた。
「それじゃあ、本当に暗くなる前に帰りますか」
そうして私たちは、再び歩みを進めて帰路に着くのだった。
テーマ「沈む夕日」
俺には、幼い頃から共に育ってきた大切な人がいる。彼女とゆっくり過ごせる時は、そっと抱き寄せて見つめ合う。貴方の目を見つめると、時間が止まったような感覚になる。俺の意識全てが貴方のことしか考えられなくなるくらい、貴方の事が愛しいのだろう。
「ねぇ、大好きだよ」
「俺も、貴方のことを愛しています」
貴方をときめかせられるような、ロマンチックな言葉を囁くことはできない。しかし、単純な愛の言葉を囁きながら優しく触れるだけでも、貴方は幸せそうに微笑んでくれる。貴方の可愛らしい笑顔は俺の心を癒してくれる。俺の瞳は貴方しか映らないし、耳は貴方の声しか聞こえない。そんな気がするくらい、俺は貴方に惚れてしまったのだろう。
「ずっと傍に居て、貴方の笑顔を守らせてください」
「ふふっ、ありがとう」
あぁ、俺はなんて幸せ者なのだろう。
テーマ「君の目を見つめると」
眠れない夜は、少し外に出て空を眺める。今日は冬の澄んだ空気と、明かりの少ない新月の夜という時間がより美しい星空を作り出していた。まるで宝石を散りばめたような空に目を奪われていた私を、彼は隣で微笑みながら見つめていた。
「今日はいつも以上に星がきれいですね」
「うん…!こんなにたくさん星が見える夜は初めてかも」
寒空の下で白い息を吐きながら、私たちは他愛もない会話をしていた。快晴でよかったなぁ、都市の夜景とはまた違った良さがあるなぁ、と色々考えていた時に、ふと思いついたことを彼に聞いてみた。
「ねぇ、もし流れ星が見えたら何をお願いする?」
「お願い事ですか?俺はあまりそういうものを信じたりしないのですが…お願いするとしたらきっと貴方と同じことですよ」
「何それ、さては何も考えてないな?」
お互い冗談を言うように笑い合いながら話していると、視界の隅に夜の闇を切り裂くような光が見えた。
あっ、と言おうとする前に消えてしまい、開いた口は音を失ってしまった。しかし、今度は空に長い線を引くように流れ星が流れ、私の瞳はしっかりとそれを捉えた。
「あっ、流れ星!」
「おぉ、本当ですね」
「早くお願いしなきゃ…」
私たちは流れ星が消えてしまう前に決めていた願い事を心の中で唱えた。
((いつまでも、一緒に居られますように…))
テーマ「星空の下で」