私には、何も秀でるものがない。特別な才能を持っている訳でも、自分にしかないものを持っている訳でもない、ごく普通の存在だ。しかし、私のことを好いてくれている彼はどうだろう。彼はできないことの方が少ないくらい何でもできるし、周りと比べても輝いて見えるくらい、私とは対照的な存在だ。
それなのに、なぜ彼がこんな私の傍に居てくれるのだろう。私なんかが釣り合うはずもないのに…
「どうしたのですか?そんな暗い顔して」
いきなり声をかけられて隣を見ると、いつの間にか彼がそこに居た。驚いた私は目を丸くしながらも、彼に思いを打ち明けた。
「どうして、どうしてあなたは私のことが好きなの?なんの取り柄もないのに…」
「そんな事ないですよ。貴方はとても優しい人です。それに、俺は貴方のとても素直なところに惚れたんですよ。俺にとって、あなたの代わりになるような人は居ないんです」
彼は優しく微笑んで、私の背中を撫でながらそう言った。彼の瞳はただまっすぐに私を見つめていて、嘘を吐いている様子はなかった。私だって彼と一緒に居る時が楽しい。ずっと一緒に居たい。お互いの気持ちが同じであると確かめられた私は安堵して微笑みを浮かべた。
「ふふっ、貴方の笑顔は素敵ですね。それでいいんですよ」
「ありがとう、ありのままの私を好きになってくれて」
「どういたしまして。これからも、変わらずそばに居てくださいね?」
テーマ「それでいい」
真夜中に空腹で目を覚ました私は、こっそりと布団を抜け出してキッチンへ向かう。何か無いものか、と冷蔵庫を開けると彼が買ってきてくれたケーキの残りが入っていた。その一切れをお皿に乗せて、いざ食べようとしたところ、何者かにお皿を取り上げられた。
「おや、こっそり夜食なんていけませんよ?」
後ろを振り返ると、さっきまで寝ていたはずの彼が私のケーキを載せたお皿を持って立っていた。怒っているわけでもなくクスクスと笑うようにそう言っているあたり、私の健康を気遣っているというより抜け駆けはずるいと思っているような感じだった。
「しょうがないじゃん、お腹空いちゃったんだし。何なら一緒に食べてもいいんだよ?」
「仕方ないですねぇ、一つだけですよ?」
「ふふ、これであなたも共犯だからね」
そうして二人分のケーキを並べて、夜食を食べながら二人だけの秘密の時間を楽しんだ。あっという間にケーキを一つ食べ切ってしまった私がもう一つ持ってこようとした時は、流石に彼に軽く叱られてしまった。
テーマ「一つだけ」
「あなたって、いつもそれを大切に着けているよね」
私の友達は、私が身に着けている雫型の首飾りを指さしてそう聞いてきた。確かに私はそれを肌身離さず着けており、暇な時はたまに見つめていることもある。
「あぁ、これ?私の愛しい人から初めてプレゼントされたものでね、とても思い出深いんだ」
これは今でも愛し合っている彼とまだ付き合い始めた頃、私の誕生日にプレゼントしてくれたものなのだ。これを着けていると、いつでもどこでも彼が傍に居てくれている気がして、とても穏やかな気持ちになれる。辛い時も、悲しい時も、この首飾りを見つめたり握り締めると力をもらえるから、どんなことも乗り越えていけるのだ。
「そうなんだ。あなたのその表情を見ていると、その人ってあなた思いの優しい人なんだなぁって思ったよ。これからも、その人と首飾りを大切にしてね」
微笑みを浮かべながら嬉しそうに話す私を見て、友達は優しい言葉をかけてくれた。私はその言葉に強く頷いた。
テーマ「大切なもの」