美坂イリス

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11/1/2024, 2:13:38 PM

例えば、だ。ああ、そんなに身構えなくていいよ。単純な、至極単純な仮定の話だ。仮に、君が永遠の命を求めたとしよう。まあ、君でなくても他の誰かでもいい。そこは重要ではないからね。もしも永遠の命があれば、万事幸福憂いなし、と言えるのだろうか?

……これは私の意見だ、異論はむしろあってほしい。私はね、その行く先は絶望だと考える。何故かって? 永遠に生きると言うことは、何があっても生き続けるのだろう? 例え、普通であれば、骨すら残らない溶岩の中や、呼吸すら不可能な海の中、果ては……これは極端だけれども、この惑星系がなくなってしまっても、永遠に「生きて」しまうのだから。

けれど、それでも。きっと、私たちは永遠を望むんだろうね。

それじゃあ、また。いつか、どこかでまた会おう。

10/24/2024, 1:01:16 PM

手を伸ばした。ドットが欠けていくように、消えていくお母さんの後ろ姿に。行かないで。そう、ぼくは叫んだ。

「……夢……?」
目をこすりながら、ぼくはそうつぶやく。気付けば部屋は真っ暗で、目の前のホログラフの投影機だけが淡く光を放っている。
「まだかな……お母さん……」
さっきの夢がフラッシュバックして、泣きそうになる。


「ん……」
そこで、私は目が覚めた。
「夢かぁ……。それにしてはリアルだったね……」
それにしても、夢とは思えないリアルな夢、今はまだない技術。
「……まさかの予知夢かなぁ?」
軽く笑って私はベッドから降りる。さあ、今日もいい天気になる。

7/5/2024, 10:37:32 AM

空を見上げた。星が輝く夜空を。

「……ん」
時刻は午後九時二十七分。公園の真ん中にあるオブジェの土台に腰掛けて、私は軽く伸びをする。どうやら、今日も待ち人は来ないみたいだ。
「でも、ほんといい天気だね……」
空に手を伸ばして、星を辿る。あれが北斗七星、大熊の尻尾。そして北極星、空の巡りの目当て。確か、そんな歌詞があった気がする。
「てか、星多いな……?」
うん、これ以上星を結ぶのは無理っぽい。多分、4等星ぐらいまで見えてるんじゃないかな。地味に、目が回る。
「……とりあえず、ジュースでも買ってこよっか」
誰にともなくそう呟いて、私は公園の端のほうにある自販機に向かう。まあ、多分自販機には虫が集まってるだろうけども。せめてカメムシはいないで欲しいな。

「おぉう」
そして自販機の前。案の定、虫まみれ。しかも緑色の小さめのカメムシいっぱい。これは、少し悩むなぁ。
「ま、いっか」
ため息をついて、私は自販機から離れる。
「――ちゃん?」
その目の前、小さな水路の向こうから、ざり、と言う足音と、小さな声。どうやら待ち人は来たらしい。

七月七日の、この星空の下に。

6/6/2024, 3:14:27 PM

「最悪だ……」
空を仰いで、私はそうこぼす。その先には、屋根に激しく打ち付ける雨。や、この音は雹か霰かもしれない。まあ、その辺りはどうでもいい。どちらにしても、今の問題は手元に傘がないということ。置いていたはずの傘も、どこの誰かが勝手に持っていったのか見当たらない。足でも生えていれば別だけども。
「これを走っていくのか……」
絶対痛い。痛いどころの騒ぎでもない。それをしたら多分明日は青あざ多数で下手すると職員室三時間コース、おまけに親があらぬ嫌疑をかけられてしまう。
「仕様がない、やむの待つか…… 」
……いや、待てよ。これは『傘の代わりになるもの』があればいいのか。そして、幸いなことにまだ衣替え直前、ブレザーは意外に生地が厚い。なら。

「あだだだだだたっ……」
甘かった。ブレザーを傘代わりになんてショ糖を通り越してグルコースもトレハロースも通り越してキシリトール並みに甘い。痛いしおまけに冷えたせいかお腹痛くなってきた。

家まであと七百メートル。それは、今までの人生で最悪の七百メートルだった。

6/2/2024, 12:51:41 PM

「正直に答えてくれ。お前にとって、俺はどんな風に見えている?」
奴――中学の頃からの悪友の唐突な言葉に、俺は思わず頓狂な声をあげる。
「どんな風って……どう言えばいいんだ?」
「どんなでもいい。ただ、お前にどう見えてるかが知りたいんだ」
ほう。何かよくわからんのだが、そこまで言うのなら。
「まるでこの世のものではないくらいに輝かしい」
「他には?」
「穏やかな顔をしている」
「ほう」
「どこから見ても完全に自由だな」
「そうなのか……」
だから。
「だから、そろそろ行った方がいいぞ。大丈夫だ、こっちはこっちで何とかする。いつかまた会うときにおんなじことをこっちから訊いてやるから……」
そこで、俺は言葉を切る。そして、誰もいないはずの虚空に拳を伸ばす。
「何にも心配すんな」

それは、俺が最期に奴に言いたかった正直な思い。あの日、鬼籍に入った悪友に、伝えられなかった言葉だった。

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