美坂イリス

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 思い出したいことがある。それは、ずっと昔から。

「……本当に、これで思い出せるのか?」
 目の前にあるのは、古ぼけたランタン。曰く、これを灯せば失われた記憶に光が当たる、『記憶のランタン』らしい。
「まあ、試してみるか」
 思い出せないあの日――宵闇の迫る教室で、何故か俺は窓から飛び降りたらしい――のことを思い浮かべながら、俺はランタンに火を灯した。
「……ん」
 その瞬間、周囲は闇に包まれる。やがて、その闇をランタンの灯りが緩やかに照らし出す。これは……。
「あの日の、教室?」
 徐々に、緩やかに。遠くから記憶が蘇ってくる。
「……え?」
 目の前に広がる光景に、俺は思わず目をしばたかせる。目の前で、俺は同級生の誰かの――誰かとしか言い様がない、大半の同級生の机が荒らされていたのだから。そして、そこにいるのは俺。そしてその手には、机や鞄から持ち出したであろう何かを持っていた。

 それは、思い出したくもない風景。そうだ、俺はあのとき、『そう』していたんだ。

「……あ、あああああああっ!」
 衝動的に、俺は走り出す。『俺』の元へ。そして、俺は『俺』の襟元を絞り上げて、開いていた窓へと、『俺』を放り投げた。

 そして、はたと気付く。あの時、『これ』があったのだと。そして。

 俺が、俺自身を窓から突き落としたのだと。

11/19/2025, 3:45:04 AM