田中 うろこ

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6/24/2025, 10:31:40 AM

『子供の頃の夢』(自創作です⚠️)

 今日もオルター御一行は、元気に星空の下で野営をして夜を過ごす。星の光が降り注ぐ中に焚き火を燃やして肉を焼く、なんとも贅沢な日。
「俺の夢はずっとさ、」
剣士の兄妹はテントでいびきをかいている頃、落ち着きのある二人の語らいが始まる。
「通訳だったんだ。異能を貰ってからずっと」
「へえ。ずっと?」
「うん、絶対この力で成り上がってやる!って」
「野心家ですねえ」
オルターのレンズの奥の瞳は、焚き火を反射しながらたなびくデナーの灰色の髪を見つめている。
「お前は?」
「ぼく?」
オルターの読心する異能は、自身で使用出来ない。デナーが本心を出そうと殺そうと、二人きりのタイミングでは分かりえない。
「…………たくさんありましたね」
「世界一の忍者!とか?」
「それもありました」
「変身ヒーロー?」
「それもね」
 だからこそ、オルターは嘘もホントも一緒くたに飲み込む。そこが、彼を愛す人が絶えない理由なのだろう。にしても所詮は男の子、語れば語るほどに、共通の夢が出てくる。ある時は国王、ある時は騎士団長を夢に見て、成長してくると共に定まってくるものだ。
「で、最後に見た夢を知りたい」
「踏み込みますよね、オルター」
「いいだろ、俺がリーダーなんだからさ」
「全く、敵わないな」
尊大そうな態度でふんぞり返る彼が、誰より仲間思いなことを、デナーは知っている。オルターはデナーの羨望と憧れを一身に受けているのだ。
「適わないのは俺だよ、片手で捻られちゃう」
一方そう言ってへにゃりと笑う彼は、そんな憧れの感情を抱かれていることを知らない。
 そして、デナーの重たい心の扉は開く。
「……ぼくは、お母さんとずっと、忍者稼業をして……世界一のからくり大屋敷を作りたかった」
「え!良いじゃん」
重すぎも軽すぎもしないリアクションだった。
「お前の家の回転扉だいぶ使い込んでるもんな」
「帰る度回っておりますから」
「今度もっと改造しようぜ」
「いえ、シンプルイズベストですので」
オルターの異能は、自身を領域に含められない。それでも、心を開き合うことはできる。
星空では知らない星座がきらきら瞬いた。

6/19/2025, 7:48:54 AM

 赤い糸ってやつが、見えた。これは冗談や比喩なんかじゃない。クラスのマドンナ、ユリカちゃんの小指から、俺の大大大親友のシュージの小指にガッツリ結ばっている。信じられないが、本気で見える。なぜならそう、信じるに足る材料がある。俺の親指からシュージの親指には、金色の毛糸が繋がっていた。これは恐らく恋とか愛とか運命ではなく、友情の糸だ。だってこんなに太いんだから。毛糸だぜ、毛糸。
 「お前、ユリカばっかり見てどうしたんだよ」
「……んや。お前と会えてよかったと思って」
「キンタお前……!」
小学校からの仲なだけあって、シュージも感動してわなわな震えてやがる。
「気色が、悪いな」
「そこは感動してるんじゃねーの?!」
ついかっと来て、シュージの方を向いて立ち上がると、周囲の目もこっちに向いてくる。そうだよ今は授業中だ。
「今日もお前の歯はでっかいなあ」
「マジでそこ見てるのお前だけだぜ」
でも俺の突飛な言動にツッコミを入れてくれるのも、シュージだけなんだな。
俺の自慢の糸切り歯、ユリカちゃんとシュージの間にある赤い糸なんて、直ぐに切れるってーのに。ガチガチと空に歯を鳴らす。
 瞬間、風に吹かれた赤い糸は宙に舞う。
 「あっ」
 糸切れちゃった……。で、でもこれは偶然、偶然だからオレ悪くないよ、悪くない悪くないうん。だってシュージとユリカちゃんにはこれ見えてないもんな。
「どしたのキンタ」
「な、なんでもないぜ」

翌日。俺の小指から赤い糸が生えた。行き先はユリカちゃん。さすがはクラスのマドンナである。

5/29/2025, 2:22:03 PM

渡り鳥が青く澄む空を駆けていく。眩しい日差しに目を焼かれて、木々の間をすり抜ける。

「今日はツバメが高く飛んでるね」
「……ほんとだ。低い時にしか見ないからちょっと新鮮かもしれない」

僕は空が好き。星が好き。それから鳥が好き。

「空はいいぞ〜、ずっと見てられる」
「お前ほんと好きだよな。」
「ねえ、今度プラネタリウム行こうよ」

そして、君のことも大好き。

「えっ、彼方とサシで出かけるのって初めてじゃない? 私でいいの?」
「君だからいいの、星野」

ああ私が星野だからか、と顔を赤くしてブツブツ言ってる星野。そんな星野が好き。

5/29/2025, 5:58:53 AM

さらさらと文章がかける人間になりたかった。

このさらさらの受け取り方さえ、きっとありふれたもので、他の人の作品を見れば、どうせ被っている。

私はただなりたかった。
誰とも被らないで、速筆で、面白いイメージをみんなに共有することの出来る存在に。

だのに出来上がったのは、
周りと何も共有できず、言葉選びに苦難して誰よりも書くのが遅い愚図。

あーあ。

5/27/2025, 4:06:59 PM

これで最後

 ︎︎黄金のような髪に、賢そうな言動。圧倒的身体能力と頭脳を兼ね備えたカリスマ性。それなのに周りに好かれる親しみやすさ、1を聞いて100を知るような、そんな光を見てしまった。その瞬間から俺の人生はねじれてしまった。
 ︎︎いや、このために俺の人生はこんなにクソッタレだったのかと思うほど。鍵穴に鍵が嵌るように、蒸発した土に水が還るように、その存在は俺の中にある大きな空白を埋めていった。

「よっ、兄ちゃん」
「……ああ、君か」

何年生きたかもわからない。そんな中、あまりのどんでん返しに心が踊る。俺には人の心がわからない。だからこそ、平静を装って接するのだ。

「今日もねーちゃんのケツばっか追っかけ回してたんじゃないだろーな?」
「ほんとに物言いが下品だね君、悪いやつじゃないのは分かるけどさぁ」
「おっ、わかってくれんの? さっすがぁ!」
「……ぼくは、なんでも分かっちゃうからね」
「おう、マジかよ、じゃあ俺が今思ってることも分かるわけ?」

そうやって苦く笑う顔が嫌いだ。

「…………ぼくは、キミが思ってるほど素晴らしい人生を送れてきた訳じゃないから」
「あ? いいじゃねーか。アタマも良くて、イケメンで、なんでも出来るって俺の真逆だぜ」

ああ、また間違えてしまったのか。真逆だと伝えた瞬間、目から光が完全に消えた。天才様からすれば、下々の愚者なんて丸々同じようなものなのだ。昔そう悟ったはずの事を忘れた。俺が愚者だから。

「君の隙間を埋めるのは僕じゃない」
そうつぶやく声すら、一つ一つの声色が煌めいてい聞こえる。求められすぎて疲れたと言っていたお前さんの期待には応えられなさそうだ。でも、

「じゃあオマエのスキマを埋めるのは俺。ってことにしちゃダメかよ?」
「……っ!?」
瞬間に、翠色のエメラルドみたいなキラキラの目が見開かれた。驚くお前さんと、俺。
「…………アッ! 言っちまった! 悪ぃ、今の忘れてくんねーか?! お前ももう懲り懲りなんだろ? モテすぎだのなんだのってヤツ!」
「……ぷっ! あはは! バカすぎるでしょ! 一周……いや、六周くらいして面白いよ!」
「もうこれでお前と話すのは最後にするって決めてたのに……謝る、謝るって!」
「謝る必要ないよ、それに」
ひとしきり笑うと、俺の方に手を伸べてこう言った。

「互いの隙間を埋めあえるのも、素晴らしい事だからね?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
長い間憧れていた全てが、こちらを振り向いた気がした。足りない頭も、出来ない運動も、全てがこのためにあったのだ。

自分を卑下して悲しむ日々は、もうこれで最後。

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