これで最後
︎︎黄金のような髪に、賢そうな言動。圧倒的身体能力と頭脳を兼ね備えたカリスマ性。それなのに周りに好かれる親しみやすさ、1を聞いて100を知るような、そんな光を見てしまった。その瞬間から俺の人生はねじれてしまった。
︎︎いや、このために俺の人生はこんなにクソッタレだったのかと思うほど。鍵穴に鍵が嵌るように、蒸発した土に水が還るように、その存在は俺の中にある大きな空白を埋めていった。
「よっ、兄ちゃん」
「……ああ、君か」
何年生きたかもわからない。そんな中、あまりのどんでん返しに心が踊る。俺には人の心がわからない。だからこそ、平静を装って接するのだ。
「今日もねーちゃんのケツばっか追っかけ回してたんじゃないだろーな?」
「ほんとに物言いが下品だね君、悪いやつじゃないのは分かるけどさぁ」
「おっ、わかってくれんの? さっすがぁ!」
「……ぼくは、なんでも分かっちゃうからね」
「おう、マジかよ、じゃあ俺が今思ってることも分かるわけ?」
そうやって苦く笑う顔が嫌いだ。
「…………ぼくは、キミが思ってるほど素晴らしい人生を送れてきた訳じゃないから」
「あ? いいじゃねーか。アタマも良くて、イケメンで、なんでも出来るって俺の真逆だぜ」
ああ、また間違えてしまったのか。真逆だと伝えた瞬間、目から光が完全に消えた。天才様からすれば、下々の愚者なんて丸々同じようなものなのだ。昔そう悟ったはずの事を忘れた。俺が愚者だから。
「君の隙間を埋めるのは僕じゃない」
そうつぶやく声すら、一つ一つの声色が煌めいてい聞こえる。求められすぎて疲れたと言っていたお前さんの期待には応えられなさそうだ。でも、
「じゃあオマエのスキマを埋めるのは俺。ってことにしちゃダメかよ?」
「……っ!?」
瞬間に、翠色のエメラルドみたいなキラキラの目が見開かれた。驚くお前さんと、俺。
「…………アッ! 言っちまった! 悪ぃ、今の忘れてくんねーか?! お前ももう懲り懲りなんだろ? モテすぎだのなんだのってヤツ!」
「……ぷっ! あはは! バカすぎるでしょ! 一周……いや、六周くらいして面白いよ!」
「もうこれでお前と話すのは最後にするって決めてたのに……謝る、謝るって!」
「謝る必要ないよ、それに」
ひとしきり笑うと、俺の方に手を伸べてこう言った。
「互いの隙間を埋めあえるのも、素晴らしい事だからね?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
長い間憧れていた全てが、こちらを振り向いた気がした。足りない頭も、出来ない運動も、全てがこのためにあったのだ。
自分を卑下して悲しむ日々は、もうこれで最後。
5/27/2025, 4:06:59 PM