吸って吐いて吸って吐いて。酸素で僕らは生きている。酸素で僕らは生きている。だけど、酸素はどんどん薄くなる。世界中でどんどん人が増えて、車も走って。酸素はどんどん薄くなる。
死ぬしかない。
死ぬしかないことから、目を逸らすしかない。
だから生きる。唐揚げも食べる。牛乳一日一杯飲む。草をちぎって、塩の味がする液体をかけてむしゃむしゃ食べる。楽しいか?この人生。それら全てが、酸素を吸って生きていた。
生きていた、は、死んだということ。
僕らは生きている。
死んでいたは存在しない。
生きてい
海面上昇。記憶がどんどん堆積していく。必要なものから、必要のないものまで、どんどん、どんどん堆積していく。要らないものが増えていく。
実体のないゴミのようなもの。触れないし、摘めない。つまり捨てられない。
捨てることの出来ないゴミが、頭の中に溜まり続けていく。これからもずっと溜まり続けていく。
必要なものが、下に埋もれていく。下に埋もれていくから、引っ張り出せなくなる。
引っ張り出せなくなるから、何も覚えていないのと変わらない。ただただ、空っぽになっていく。
記憶の海に溺れて消える。
静かなる森へ、足を踏み入れる。足音は子気味よく進む。草むらをかき分けて、獣道をずかずか進む。こんなに木々が生い茂っているのに、下を向けば足跡があるのに、不思議と生き物の気配がひとつもしない。それは何故か。理由なんてない。
歌を歌おう。ステップを踏もう。思い切り笑って思い切りふかふかの草むらに背面から飛び込んでしまおう。思い切り青いそこに倒れ込むと、つゆが顔に落ちる。冷たい水滴が心地良かった。こんなに楽しいひとりぼっちは初めてだ。いつの間にか気分は舞踏会。
僕は今日、樹海で自殺を試みた。
上を見上げても、嫌になるほど日が射さない。ただただ木々が僕を見下ろしている。平衡感覚がなくなってくる。散々踊ってくるくる回ったものだから、北も南もわからない。もう外に出られなくなってしまったのだ。パーカーのポケットにも何も入っていない。着の身着のまま森に来た。カバンも何も持っていない。僕はこのままここで死ぬ。なんだか眠たくなってきた。寝ればこの世からにげられるだろうか。安らかに目を瞑る。
「……………夢か。」
ふとした瞬間、坊主は綺麗に見える時がある。寝る前にメガネを外して世界の輪郭がぼやけた一瞬とか、あいつの好きなでっかいカップにココアを入れて飲んでる横顔とか。正面で捉えるとまん丸の輪郭も、横から見れば端正な骨格とわかる。
「……真田さん何見てんすか」
「お前、ジョッキでココア飲むやつおらんぞ」
「ジョッキちゃうすよ、ただ大きいだけ」
「おっさんみたいに飲み干しおって、どの面下げて言っとんじゃ、このポンポコリンが」
愛嬌だって1ミリもない。仕事のし過ぎでかけ始めたメガネだって、俺より似合ってない。
「まだ残ってますけど、飲みます?」
「俺はええ。まだカップ残ってるから」
「さいですか」
「誰かさんと違って砂糖中毒ちゃうからな」
ふと眉をしかめて、ジョッキの中の氷をガラゴロ言わす。いやジョッキやん。テーブルビシャビシャなってんで。でも丸太の中ではマグカップ。
「でもありがとな」
「……っす」
そう言って俯くと、短く切った髪を掻き回してまたココアをグイッと行った。俺のマグカップの3倍くらいあった中身は、一瞬で等しくなった。
花が咲いて枯れるから輪廻する
同じ過ちをしてしまっても
運命だ 決まっていた
そう考えればいい、考えるしかない
花びらはこぼれ落ちる涙と
一体なにを違えたというの?
最低だ 風すら僕
を追い抜いて 寂しさを募らせていく
ひとひらの雫が地に落ちた
一粒の命が宙を歌う
そして僕は散る 運命だから