田中 うろこ

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11/5/2024, 12:40:12 PM

一筋の光

私にとってのあの子だ。夜の帳がゆっくり降りて、星の光たちがあたりにきらきら足をつける。その中でも一際輝く満月みたいな優しい光があなただ。愛しいよ、苦しいよ。だって朝が来たら行ってしまうじゃない。笑って次の夜を迎えられないかもしれないじゃない。

それでもあなたのことだけは、いつまでも満月のままでいてと願う。他者への祈りは傲慢な呪いと同じだ。だけど、暖かい光と冷たい空気が許してくれているような気がした。そんな澄んだ夜が好きだ。あなたが好きだ。

(片思い中のポエムなのでした)

11/4/2024, 1:46:29 PM

『哀愁を誘う』

寒風が吹きすさぶ季節に食べるおでん、それも仕事終わりに食べるものは一味違う。なんて言ったって疲れた体に、暖かいつゆが染み渡る。屋台も少なくなってきたこの世の中で、この高架下で食べるおでんが一番好きだ。

冬。雪に、みかんにこたつ。いろいろ思い浮かべる人も居るだろうが、俺にとってはマスターのいる屋台とおでんが冬だった。これがやりたくて春夏秋と耐え忍ぶ。別にそれまでに屋台が開いてない訳じゃない。春に焼き鳥夏に漬け物、秋のラーメンも乙だ。だけど、高架下にたどり着いたあの日をいつになっても思い出すため、俺には冬が必要だった。

「てか、マスター今年おでん出すの早くない?」
「お前毎回それ言うよな。オレが寒くなったらおでんのつゆを炊いてんだわ、文句言うでないよ」

十月も終わりごろ、今年も寒くなってくる。しかしまあ、早いよ。もう十月終わってんだもん。

「ハロウィン過ぎてさ、もう霜月なんだし良くね? オレももうおでんで加湿したくて……」
「別にガラスープでも保湿できるでしょ」

ハロウィン終わったとか言わないでよ、マジで。おじさんもう季節が一瞬で過ぎちゃうんだから、こないだ冷やし中華食ったばっかだよ。

「でもオメー、ウチのおでん好きじゃん」
「……それを言われるとぐうの音も……」

そう言って、マスターが震える手でいつものを出してくれた。玉子、こんにゃく、牛すじとウィンナー。寒さに弱いのに、マスターは絶対に店を出さない。

「ウィンナーなんてどこで食べても同じなのに、良くウチに来よるねえ」
「……なんででしょうね、落ち着くんですよ」

マスターと会ってからもう、二十年近く経つ。すっかり金曜日の夜はここに来ることに慣れてしまった。しかし、俺ももうおじさんだし、マスターはもうヨボヨボだ。

「玉子、今日ちょっといいやつだよ」
「……ほんとだ、黄身が赤っぽい」

季節が過ぎるのがもっともっと早くなれば、マスターが居なくなったその時も、すぐ忘れられるんだろうか。寒風が吹きすさぶと、決まってマスターは出汁割りを俺と一緒に飲んでいた。きっと、新卒の俺にはそれが嬉しかったんだ。

思い出を捨てきらない日々に吹く風は、哀愁を誘って病まない。毎日屋台があった場所には、花弁が舞っている。

10/31/2024, 1:11:03 PM

『理想郷』

手を繋いで理想郷に行こう。僕と、あなた。
花が咲き川は流れ、土も柔らかい。そこで昼寝や食事をして、ずっとはしゃぎ回ろう。ふかふかの芝生に、大木の根の枕。そこから落ちてくる大きな果実をかじって笑い合う。それから、目を閉じると遠くから、森のざわめきが聞こえてきて……

え?大昔に森で迷子になったことがトラウマで、
森が怖い?

……あなたの理想郷も聞きたいなあ。うんうん、そこは小さな小屋が沢山立ち並ぶ草原、いいね。走り回る子供たち。犬や猫、キツネやうさぎもみんなで楽しく遊ぶ。最高だね。冬は小屋の暖炉に集まって、夏は海に。

海、え、あ。海ですか。海かぁ〜〜〜〜そっか、うんうんうん、いいよね海、うんうん。泳げない訳じゃないよ、別にうん、平気平気〜

やっぱ、手は繋がなくてもいいかな、あは……

10/28/2024, 1:12:34 PM

暗がりの中で
お蔵入り。くらだけに。

10/25/2024, 12:05:01 PM

『友達』

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友達という身分に甘え倒していた。私はもうあの子の友達ではない。ただの、暴言厨の他人だ。

『うるさいなあ、そんなんだから……』
『もういい加減にして!』

そう言って、一緒に拡げたプリントを薙ぎ倒して彼女は教室を出ていった。筆箱の中身も辺りに散らばって、見るだけで虚しい。

最近様子がおかしいと思っていたけど、原因は自分にあったんだ。

「……っぐ、ごめ、ごめん……っ」
涙が溢れ出して止まらなかった。あの時も、あの時も、あの時も、私が悪かった。そう思うと、拭いても拭いても足りないほど溢れてくる。今頃あいつは……あのこは、何をしているんだろうか。

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騙して悪かった。そう思ったのもつかの間、私はあまりの幸福感と息苦しさで、階段に思わず腰かけた。大親友を教室に置き去りにして、階段を駆け下りてきた。

『ずっと友達でいてね』
『違ぇだろバカ、大親友だって』

大好きな大親友だ。だから、このくらいではへこたれないよね? きっとこれから、私よりも貧弱な体力で階段を駆け下りてくる。だから、そんな彼女の背中をさするために待ち続ける。そして、「行かないから安心してね」って、声をかけてやるの。そうすれば、もう私しか見えない。

閉校しても待ち続ける。どれだけ経っても、帰りはここを通らなきゃいけないから。

今頃あの子は私のことばかり考えているはず。ああ、そのまま私しか見えなくなればいいわ。私の大好きな友達。私に友達はたくさんいるけど、あなたの友達は私だけだもん。

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私の友達は。あのこだけなのに。酷いことを言った。ああ。孤独ならば、生きる意味などない。
三階の窓から、飛び立ってしまおう。二重ロックのかかったカギを丁寧に開けて、スチールで出来た窓枠に足をかけた。風が心地よい夕暮れ時だった。今までありがとう。大好きだったよ。

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大親友は、戻ってこなかった。その時彼女が、私のことをどう思っていたかだけが、気がかりだった。



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