田中 うろこ

Open App
2/24/2025, 4:42:36 PM

現実とは酷く苛烈であり、より辛く、より滑稽な事実を作り出すらしい。花吐き病とは耽美の代名詞であり、チビでデブの俺とは真逆の言葉である。しかし、俺は今タクシーの中で小さな赤い花弁を吐き出した。花吐き病に罹患した。

運転手さんに乗り物酔い用の袋を貰って事なきを得たが、袋の中には色鮮やかな花弁がちらほらへばりついている。吐瀉物のツンとくる匂いではなく、花の香りがしてきて、余計にせりあがってくる。気持ちが悪い。俺の気持ちも込みで全部。

「真田さん、好きな人おるんでしょ」

紙袋を握りしめてタクシーを出る。家の前で涙を堪えて立ちすくむ。想い人には想い人が居る。そんな当たり前のことが辛い。ましてや自分はチビのデブ、上手くいくはずもない。二人の夢も叶えられていないのに、じわじわ寿命が縮む怖さに手先が悴んできた。溢れた涙がメガネのレンズに溜まる。何も見えない。未来も何も。そうしてうずくまって泣いていると、頭がクラクラしてくる。きっと絶望的なぶさいくだ。やってられない。

目が覚めると白い天井がそこにあった。点滴の匂いとサラサラとしたシーツ。知らない所だった。
「おう、やっと目ぇ覚めたか」
「さなださん?」
身じろぐと手に温もりを感じる。真田さんの手は骨ばって綺麗な手。指も長くて美しい。
「もういい?汗でしっとりしてんねんけど」
「いやいいっすよ、頼んでへんし」
「あそう、でもまあ生きててよかったわ」

『生きててよかった』そうやっていってもらえるぁけで御の字なのだ。

瞬間肺の奥が苦しくなる、どんどん異物がせりあがってくるのが分かる。そういえば俺花吐き病なんやった。首を抑えて悶えても、もうすぐそこまで来ている。

「おいお前大丈夫か?!」
「お"え"っ」

真っ赤な一輪のバラが丸々出てくるなんて。

「お前、花吐き病やったんか……なんかお前、一生治らんかもな、えっと……どんまい」

でもそんな所が好き、好きになってしまった俺の負け。

2/22/2025, 6:55:22 AM

夜に駆けるみたいですねw
沈むように溶けてゆくように自殺

2/20/2025, 9:24:57 AM

全世界5日前仮説。

5分前仮説というのはインターネット界隈じゃ有名な話。私たちが見てる世界は全て5分前にできたと言われても反論はできない。なぜなら、証明するものが記憶しかないのに、記憶すら作り物のレッテルを貼られてしまうから。

だけどそれが、5日前だと言われたらどうだろう。5日も前のことなんて事細かには覚えていないし、それより前のことも、余程大きなイベントでない限りは忘れていく一方だ。私はつい5日前に生まれた。ここに住み、友と学びあった17年間の思い出もある。しかし、私はつい5日前に作られたという記憶もある。

一日目は、細胞のような何かだった。
二日目には、いくつものそれが集まって私が生まれた。
三日目になると、世界が生まれて、家族や友人などの繋がりが設定されてくる。
この時点ではまだ、世界は世界という情報のみであり、風も吹かなければ日も射さない。言うなれば時は止まっている。

四日目でついに、情報が肉体という容れ物にしまわれ、世界に配置される。私は地球の中の日本にいるが、三つ隣の銀河の、名前も表記できない星に配置された存在もいる。

五日目。私たちが単位だった時から今の暮らしに至るまでの全てを忘れて、時が流れ始める。
この世は広い広い箱庭で、何者かの自由によっていくらでも形を変える。私はその記憶を持っている。それもきっと、その自由な閃きの中にあるだけの話なのだと思う。

「ねえツムギ、アイス溶けてるよ?」
「ああごめんレイラ、考え事してた」
「何?また好きな人のこと?」
「ううん、1週間前に出た宿題忘れちゃって」
「いま思い出したのか、ツムギどんまい」
「えへへ、あ! レイラ!アイスやばい!」
「食べな〜」
「あ、そうだ!言うの忘れてた」
「なになに?」

「(ここに題名を入力)」

2/17/2025, 5:48:04 PM

もちもち、すべすべ、しゅわしゅわ。
これらは私が焦がれてやまない感覚たち。もちもちとしたほっぺは見ているだけで癒されるし、すべすべとした大理石の床は触っても寝転がってもいい。しゅわしゅわとした細かな気泡たちが動いているのを見ていると、本当に心は浮き足立ってくる。その感覚をたくさん覚えておきたい。

けれど、全部の感覚をもってしても、それよりももっともっと焦がれるものがある。

それが、きらきら。

寒い日に星が光って、体育館の特別な日だけ照明が凝り始めて、好きな人の笑顔が眩しくて。全部きらきらしている。宝物のメタファーそのもの。掴みたくても掴めない遠さも愛おしいほど。光が好き、輝きが好き。響きも好き。離れているところから届いている実感が好き。

いつかそのきらきらが、私から放たれているんだなという実感を持ちたくて、持ちたくて持ちたくて持ちたくて仕方がない。

2/15/2025, 3:25:42 PM

ある昼下がりのこと、アンタが居ないコインランドリーは暇で仕方がなかった。しりとりも、あやとりも、雑談も出来ないままぼーっと過ごす。さしこんだ日溜まりが暖かいので、壁にもたれて考え事をするうちにうたた寝してしまった。

白黒映画のような、綺麗な場所にいる。

美しくなびく髪は、烏の濡れ羽色。いつしか写真の中で見た美しい人が、森の中に佇んで歌っている。精霊のような美しい声で、風に揺られながら笑っている。これが、アンタの彼女なのか。

突如耳が痛くなってその場に踞る。何かの病気か森の祟りか、怖くなって荒くなる呼吸、そのうち息も出来なくなっていって、意識が途切れる。

「オマエ、すげーいびきかくんやな」
「……なんだ、あんたか」
細く骨張った手が、僕の耳と鼻をぎゅっとつねっていた。差し込む光と空は紫色で、とっくに洗濯は終わっている。寝ぼけたままふらっと立ち上がって、洗濯物をバッグに詰め込んだ。
「アンタの彼女、夢に出てきた」
「……おう。取るなよ」
目を瞑ると、薄ぼんやりとしたままの記憶。
「すごい綺麗な声した」
「じゃあ俺の彼女ちゃうわ、すげー酒やけしてるもん、俺の彼女は」
「……そっか」
起きてしばらくすると、その夢は思い出せなくなっていた。大きなランドリーバッグを携えて外に出ると、冷えた空気が鼻につんと来た。

Next