新しい年来たけど今年も僕ぼっちですよ
『仲間』
信じられたら仲間だ。私は、仲間を信じることが出来ない。仲間に裏切られる私の方ばかり考えてしまうから。結局私は、歪んだ形で私を見ているだけだ。
『ありがとうとごめんね』
ありがとう。そうやってお前はいつも言う。礼を言うのはこっちの方なのにな。お前は、不器用な俺の代わりにみんなを守ってくれる。庇ってくれる。いつも世話になってる。俺はただ、目の前にいるやつをぶっ飛ばしてるだけ。それなのに。
「いつもお疲れ様、ジュースいる?」
「……お前にはジュースの1本だって端金か」
こいつは優しすぎる。皮膚をもう一枚へだててその上から掻き毟られるような、むず痒いような気分になる。
「そうだけど、きっと俺が貧乏になっても差し入れはし続けると思うなあ」
ひょうひょうと言いのける。やっぱり俺は、こいつにだけは敵わないらしい。
「ありがとうな、」
あの人は絶対に謝らない。いや、謝って来ることはある。けど大体が生返事。
『あ、また壊れた、悪ぃ』
『あ? それ食っちまった! スマンスマン』
『あはは、ごめんて』
まあ、いつもお世話になってるし、なぜか手柄がこっちに回ってくるおかげでお金には困らないから、気にはしないんだけど。
「……ごめん」
ある日、突然現れて、謝って去っていった。月のよく見える晩に、ベランダの手すりの上で裾をはためかせて。どこかに消えていった。夜にトイレに行きたくなって起きた時に居たものだから、悪い夢かもしれない。何せ、翌日は普通に一緒に遊びに行ったから。
「ありがとう、ごめん。俺、お前がいないと生きていけないってわかったんだ。だけど、お前が好きなのは女だし、リアルなんてもってのほかだよな。分かってる。だから、一瞬だけ、そばにいることを許してほしい。俺が、俺がお前を全部守るから。俺の前だけで笑ってほしい。」
「…………水飲みすぎたかなあ」
「!」
「あれ、なんでこんなところに?」
「ごめん、ごめん!」
「こんな時間に会えるなんて、嬉しいなあ。ありがとう、来てくれて。」
「…………っ!」
「行っちゃった……いっけね!トイレトイレ!」
『部屋の片隅で』
「あの、その、離してよ……」
「やだよお前離したらすぐ逃げんじゃん」
「そ、そうだけど……」
「認めるなよ」
細マッチョに、全力で迫られている。ここは俺の家の寝室。寝る場所はここしかないので、まあこうなってるのは仕方がないけど。
「俺みたいなの抱き枕にするなんて正気?!」
俺、180cmあるよ? 身長。女の子とかにしなよ。
「だってそこにいるし」
「もういい! キューティ☆マリーちゃんの抱き枕持ってくるから、それ使いなよ……」
「お前がいいんだけど」
「どうせ暖かいからとかでしょ……」
こんなむさっ苦しいのはやだよ。でも、終電ないらしいし、うちソファーも布団もないし。
「はあ……布団、もう一組予備持っとけば……」
「あったとしても俺はお前を捕まえるけどな」
「嘘こけ……こんな、コワモテのデカいオタクなんて、抱き枕にするもんじゃないって……」
「え? だって、お前可愛いんだもん」
「目がいかれてるの?」
『さよならは言わないで』
夢を見た。さながら白昼夢のようで詳細は忘れたが、たしかあなたはこう言っていた。
「じゃあな、〇〇〇」
そう言いながら、俺が住む団地の四階から飛び降りて行った。夢の中の俺は特に狼狽えることもせず、また帰ってくると思いながら呑気に手を振った。それから、数ヶ月。彼が戻ってくることはなく、新聞の紙面で彼が居なくなったことを知る。あの時俺が止めていたなら良かった。そうすれば、あの人は死ななかった。
「……ねえ、」
「ん、どした?」
それはもちろん夢の話。今、夢で死んでしまった彼は目の前にいる。そして玄関から普通に帰る。
「今日さ、変な夢見たんだ」
「ああ、そりゃ災難だったな」
「だからね、いつもみたいにじゃあなって言って欲しくないんだ」
そう伝えると、何も意味がわからないと言った風に首を傾げた。それはそうだ。