田中 うろこ

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『オアシス』

 砂漠ほど、喉の乾く場所はない。水が飲めないのはもちろん、気を紛らわすために水のことを思えば思うほど、喉は加速度的に乾いていく。
舌の上にも砂が乗っているかのような、圧倒的な渇きが、青年の精神を蝕む。
 少年は病気だった。
「おれ、もう、だめなのか」
世界有数の奇病。『雛鳥病』にかかってしまったのだ。その病気は、おぞましいとしか言いようのない症例をいくつも有している。
その一つ。病気に伏した後に起床した時、初めに思い出した人のことを『親鳥』とする。そして、その親鳥の体液が混じったもの以外を口に入れると、身体が勝手に拒絶する。
「お前。もういないじゃん。」
しかし青年は、朝起きて偲ぶ故人が『親鳥』になってしまった。それはつまり、何も食すことができないということ。
「……今から、そっち行くよ。」
目を瞑ると、そこには酷く青い空と、遠く広がる地平線。それから、オアシスで遊ぶ、青年の思い人が、水辺に佇んでいた。

7/28/2025, 2:33:21 AM