あの時僕に送ってくれた白いスニーカーは、底が少し磨り減ったまま、靴箱の一番上に飾ってある。履く度に真っ白がチラついて、浮かれた気持ちになると同時に、それが汚れていくのがどうにも許せなくなってしまったから。明日も仕事で君に会う。その時には、いつもの革の靴を履いていこう。
「おはよ、一昨日ぶりだね」
「……ん、おはよ」
やっぱり向こうから声をかけてくるのは変わらない。僕たちの立つ場所の名前が変わっても、互いに抱く熱情が変わっても、愛情が深いのはいつも君だ。あの日と変わらないリップクリームを片手に、ソファーに腰掛けている。
「おれがあげた靴履いてくんねーんだ」
「アレ白いから、汚したくないのよ」
足元を覗き込むと不機嫌そうにむくれる。その表情すら可愛らしくてたまらない。
どうしても… 随筆
食べすぎで胃を荒らしてしまいました。
もともとお腹が弱っていたバイトの帰りに、唐揚げ、ちくわ、蒸しケーキ、大盛り唐揚げ弁当を無理して平らげてしまったものですから、その日から少し物を飲み込むだけで圧倒的な腹痛にうずくまるような地獄を見てきました。
実はその前から、生理の食欲、風邪の栄養不足とやられていたものですので、3コンボ。
最近ようやっと、ヨーグルトと納豆で胃が回復出来てきましたが、もともと一口も大きくて噛まずにたくさん胃に入れる性分だったので、食事が難しくて仕方がない。
知っていますか? パンって飲み込む時水分が無いから食道に吸い付くように胃に落ちるんです。普段気にしないで食べていても、実は臓器って頑張ってくれているんです。
でもどうしても、どうしても。
揚げ物とラーメン、あまーいクリームがたっぷり詰まったケーキ、高カロリーかつ胃腸に悪そうなグルメが食べたい!!食べたい食べたい食べたーい! セブンの揚げ鶏、ファミチキ、からあげクン。すき家の牛丼、倍ダブチ、日高屋、幸楽苑、たっぷりチーズのピザ、ミラノ風ドリア、ハンバーグ……。あげればキリがないほど、世の中は美味しい食べ物で、満ちているんですね。
ああ、食べたい。
吸って吐いて吸って吐いて。酸素で僕らは生きている。酸素で僕らは生きている。だけど、酸素はどんどん薄くなる。世界中でどんどん人が増えて、車も走って。酸素はどんどん薄くなる。
死ぬしかない。
死ぬしかないことから、目を逸らすしかない。
だから生きる。唐揚げも食べる。牛乳一日一杯飲む。草をちぎって、塩の味がする液体をかけてむしゃむしゃ食べる。楽しいか?この人生。それら全てが、酸素を吸って生きていた。
生きていた、は、死んだということ。
僕らは生きている。
死んでいたは存在しない。
生きてい
海面上昇。記憶がどんどん堆積していく。必要なものから、必要のないものまで、どんどん、どんどん堆積していく。要らないものが増えていく。
実体のないゴミのようなもの。触れないし、摘めない。つまり捨てられない。
捨てることの出来ないゴミが、頭の中に溜まり続けていく。これからもずっと溜まり続けていく。
必要なものが、下に埋もれていく。下に埋もれていくから、引っ張り出せなくなる。
引っ張り出せなくなるから、何も覚えていないのと変わらない。ただただ、空っぽになっていく。
記憶の海に溺れて消える。
静かなる森へ、足を踏み入れる。足音は子気味よく進む。草むらをかき分けて、獣道をずかずか進む。こんなに木々が生い茂っているのに、下を向けば足跡があるのに、不思議と生き物の気配がひとつもしない。それは何故か。理由なんてない。
歌を歌おう。ステップを踏もう。思い切り笑って思い切りふかふかの草むらに背面から飛び込んでしまおう。思い切り青いそこに倒れ込むと、つゆが顔に落ちる。冷たい水滴が心地良かった。こんなに楽しいひとりぼっちは初めてだ。いつの間にか気分は舞踏会。
僕は今日、樹海で自殺を試みた。
上を見上げても、嫌になるほど日が射さない。ただただ木々が僕を見下ろしている。平衡感覚がなくなってくる。散々踊ってくるくる回ったものだから、北も南もわからない。もう外に出られなくなってしまったのだ。パーカーのポケットにも何も入っていない。着の身着のまま森に来た。カバンも何も持っていない。僕はこのままここで死ぬ。なんだか眠たくなってきた。寝ればこの世からにげられるだろうか。安らかに目を瞑る。
「……………夢か。」