帰り道、雲行きが怪しいなと思っていたら予想通りポツポツ、と雨が降って来た。
「やっぱり降って来た。傘持ってない。」
でもまだ小雨、この程度の雨であれば乗り切れる。
そう思えば思うほど雨足は強くなり服の色が段々と色濃くなっていく。
「仕方ない。少し走るしかないか」
駅まではまだ少し距離があるがこのままだと滴る程濡れてしまいそうだと荷物を抱えて走り出そうとした矢先。雨が止んだ気がした。
「傘持ってないのか?風邪引くぞ」
「衛輔くん」
見上げると私の方に傘をさしてくれている衛輔くん。
いつもバレー部の中では小さいと気にしているが私からしたら衛輔くんだって少し見上げないと目が合わない。
「今帰りか?」
「うん。衛輔くんは部活ないの?」
「もう終わった。そしたら傘さしてないお前見つけて驚いたよ。天気予報くらい見ろよな」
反論する言葉も見当たらず、すみませんと呟くと彼は瞳をキラキラさせながら
「でもこうしてお前と近くで話せるの、なんかいいな」
表裏のないド直球な言葉に顔に熱が集まるのを感じた。
-相合傘-
“これ、お土産!キミの目の色と同じですげー綺麗で思わず持って来ちゃったんだ”
掌に乗っているのは綺麗な色の石。
任務で拾って来たと言ってたけど落ちている物だったとは思えないくらい綺麗な石だ。
“今度のデートの時はもっと綺麗なやつ買おうな”
そう言って消えてしまった彼。
デートは未だ出来ていない。
「嘘つき」
何日、何ヶ月経とうと彼の消息は不明。
タークス達が創作を続けてくれてはいるけども彼らが見つけられないならきっともう…
「会いたいな」
石を転がしながら暇をしてると誤って手からこぼれ落ちる。
転がっていった石を目で追うと誰かの足元にコツンと当たる。
「…これまだ持っていてくれたんだな」
「う、そ」
耳を疑う。顔を上げられない。幻聴かもしれない。
溢れる涙を堪えながら下を向く。
「約束、遅くなってごめんな。」
私の手を取り石を乗せてくれる彼。
「デートの約束はまだ有効だよな?」
返事の代わりに喜びの涙が石に落下した。
-落下-
「なぁ」
「なに?」
「今の任務が片付いたら海に行かないか?」
いつもの時間いつもの夕陽約束もしてないけどいつも2人で夕陽を眺める。そんな日が続いたなんてことない日にアクセルはいつもと違うことをいう。
「急だね」
「偶には俺たちだって休暇が必要だと思わないか?」
息抜きも大事だろ?とアイスを食べながら夕陽を眺めている。
楽しみな気持ちと悲しい気持ちが混ざり合う。
「私と?」
「…他に誰がいるっていうんだよ」
私は知ってる。
本当の本当は3人で行く約束をしていたこと。
「そう、だよね」
「んで?行くのか、行かないのか…どっちなんだよ」
「行きたいな。私まだ海を近くで見たことないの」
私の答えを聞いて満足そうに笑う彼
アクセルといると嬉しいような苦しいような気持ちになる。
「よし!決まりな…ってなんて顔してんだよ」
表情に出ていたのかこちらを覗き込んでくる
「約束だからね」
「あぁ、お前もだぞ。ちゃんと記憶したか?」
「もちろん」
明日ですら存在しているか分からない不安定な私たち。
それでも未来を約束してあなたと繋がっていたい
-未来-
「石田くんっていつもどんな本読んでるの?」
同じクラスの彼女は席が隣ということもあって良く話しかけてくる。
「別に決まったジャンルはないよ」
こんな時もっと上手い返し方があるんじゃないかといつも思う。
せっかく話しかけてくれた彼女もこれではつまらないだろう。
「そっか。そしたら今まで読んだ中で好きだった本はある?」
それでもなお話を続けてくれる君に柄にもなく心が弾む
「そうだね。カフェで提供される食べ物からその人の記憶を探す物語とかは結構面白かったよ」
「素敵な話だね!今度私も読んでみようかな」
「それなら僕は一度読んでいるし、良ければ明日貸そうか」
提案すると彼女の表情が綻ぶ。
「いいの?ありがとう。楽しみにしてるね」
話の区切りがついたところで丁度よく始業のチャイムが鳴る
「ふふ、また後でね」
授業中にも関わらず僕の気に入った本が君も気に入ってくれると嬉しい、なんてふと考えた。
-好きな本-
「あなたは誰?」
夕焼けに反射して貴方が誰だか分からないの。
目を凝らしながらまだ遠くにいる彼を見つめる。
「俺のこと忘れたのか?悲しいぞ、と」
その口調、私の知る限りでは一人しかいない。
でもそんなことはありえない。
だって私と貴方は住む世界が違うから。
一歩ずつ近づいてくる彼に戸惑いを隠せない。
「どうして…私の事、知ってるの?」
「知ってるぞ、と。お前のことも、お前の住む世界のことも」
目の前に来たあなたは恋焦がれてやまない人
「ここの方がきっとお前は幸せになれる。分かってて、それでも迎えに来た。」
「迎えにって…どうゆう」
太陽が沈む。
眩しかった景色も落ち着いて彼の綺麗な髪がよく見えるようになった。
「この陽が沈む前に俺の手を取ってくれ。」
有無を言わさない表情で見つめてくる彼。
「この場所は俺からはお前に触れられないんだぞ、と」
儚げに笑う彼に時間がないというのに見惚れてしまった。
そう言えば聞いた事がある夕焼けで薄暗くなると色んな事が曖昧になるって。空を見ると明るいような、暗いような雲ひとつなく空を見ているのかもあいまいだ。
今決めないと、きっと永遠に後悔する。
彼の手を取らない選択肢はない。
彼に近づき恐る恐る手を重ねると手を引かれ腕の中へ。
「間に合ったぞ、と」
でももう帰れもしないぞ、と少し申し訳なさそうに言う彼に返事をするように抱きしめ返した。
あいまいだった空はいつの間にか一面の星空に変わっていた。
-あいまいな空-