バイクの後ろに乗りながら何の気なしに空を見上げる。
先ほど完遂してきた任務には似合わないほど綺麗な青空だ。
「なーんか辛気臭いこと考えてんだろ」
エンジン音に負けないくらいの声量が前から聞こえる。
私の顔を見たわけでもないのに、この男は人の変化に敏感だ。
「別にそんなこと」
考えてないと言えば嘘になる。
声には出さず彼の腰にしがみついていた力を強めると肯定と捉えた彼はこちらに顔を向けることなく笑ったような気がした。
「なぁ!このまま遠回りして帰ろうぜ」
赤い髪を靡かせながら悪い顔をして笑う彼と目が合えば先ほどのモヤついた気持ちなんて何処かに消えていった。
-どこまでも続く青い空-
「なぁ、良い加減降参しろよ」
何回も飽きず隙を見つけてはそういってYESのみの回答を求めてくる同僚のレノ。数日前に告白されたのがもう遠い昔のように感じる。オフィス内ではまたか、のような表情で何事もなかったかのように仕事に戻るツォンさん達。誰か止めて欲しい。
私が返事をせず書類に向かっていると視界に入るように屈んで見上げてくるその姿は外の任務では決して見られない表情だ。
「聞こえてんのか?」
「…聞こえてる」
「俺がお前の事好きなのは?」
「…この前聞いた」
そう何回も言わないで欲しい。
私は自分の心臓の音がバレるんじゃないかと内心、落ち着かない。
「だったら、その返事はいつ貰えるんだ?言った日にはお前、走って逃げただろ」
「そ、れは…」
もう答えが分かってるかのようにニヤけながら詰め寄るレノが腹立たしい。このいつもいつも自分は余裕です、という表情をなんとかして崩してやりたい。私は咄嗟に目に入った彼の手の甲に自分の手を重ねて手首から指先までをゆっくりとなぞった。
「お、ま」
まさかそんな事をされるとは思ってなかったのだろう。
レノの表情に焦りが見えた。
「…好きよ。最初に会ったあの時からずっとレノが好き」
私はそのまま周りにバレない声量で、めいいっぱい甘ったるい声でそう囁いてやった。
-最初から決まってた-
久々の休日、ベッドで寝たのはいつぶりだろう。
妙な時間に起きてしまった。
まだ太陽は登りきっていないのか世界は薄暗い。
私はこの時間帯が好きだ。
起きて外を眺めても気持ちが良いし、二度寝することも出来る。
今日はどうしようか、なんて考えていると腰を引かれ背中に大好きな温もりを感じる。
「…はよ、」
少し掠れた声はまさに今起きましたと言う感じだ。
それでも腕の力は強く、嬉しさから顔が綻ぶ。
「おはよう。もう少し寝てたら?」
彼だって休みは久々だろう。
私達の仕事に時間帯は関係なく、任務があれば出動する。
仕事抜きで彼と会ったのも久しぶりだ。
「…いや、お前と少しでも長く居たい」
彼はこんな甘い台詞を言うタイプだっただろうか。
久しぶりの体温と耳元で囁かれる声に体が火照る。
返事の代わりに彼の手を握り、その指を撫でるように弄ぶとグルリと体の向きを変えられ向き合う形になる。
「なんか今日のお前、可愛くてずるいな。反則だぞ、と」
思ってることはお互い様だったもよう。久しぶりの二人の時間を今日はどう過ごそうか、太陽はまだ登ったばかり。
-太陽-
ジーッと真ん丸い瞳が私を貫く。
「…やっくん何かある?」
「い、や。なんもない!」
何かあるのかと本人に声掛けしても何もないと言う。
「?…そう?」
気になりつつも自分の作業に戻るとまた視線を感じる。
私、何かしたかな?
やっくんの視線を感じながら一日を終え、帰ろうとした時その答えが分かる。
「あ、のさ。今度の土曜日、どっか行かね?」
顔を赤くさせて伝えるその姿に、誘いの意味を知る。
今日ずっと様子が違かったのはきっと伝えるタイミングを探ってたから。
「私?」
「今、目の前にお前しか居ない」
信じられず聞き返すと少しいじけて言うその姿も可愛くて
「そ、だよね。私で良ければ」
そう答えればパァッと音が聞こえてきそうな程の笑顔で喜んでいるやっくんに恋に落ちるのは不回避ではないだろうか。
-視線の先には-
「……はよ」
何回起こしても起きなくて、
やっと起きたと思ったら甘く抱き締めてくれるのも
「今日は俺との任務だぞ、と」
話す時やすれ違う時の他の人とは違う距離感も
「…少しだけここにいてくれ」
貴方が辛い時そばに居られるのも
全部私だけの特権
-私だけ-