“紫陽花は土に含まれる成分で色が変わるんだって”
梅雨時期の任務で君がそんな事を言っていた気がする。
憂鬱な雨でもそんな事を忘れさせてくれるような、とても神秘的な空間だったのを今でも覚えている。
任務で服はびしょ濡れ、戦った後の場所は建物が崩れていたり地面に不規則な水溜りが出来ていたり、お世辞にも綺麗な場所では無かったはずなのに崩壊した家の片隅でひっそりと咲いていた紫陽花を見つけ彼女は濡れた髪を気にもせず笑顔で私にそう言った。
「君は私の知らない事を沢山知っているね」
“そうかな?それなら傑は私の知らない事を沢山知っているから2人合わせて丁度良いね”
「ふふ、嬉しい事言ってくれるね」
そんな帰る途中の他愛のない話。
“ね、傑”
そうよく私を呼んでくれる彼女の声がとても懐かしく愛おしい。
________
「夏油様ー!紫陽花咲いてますよ!ほら!」
「本当だ」
「紫陽花って同じ場所に咲いていても色が違ったりして綺麗ですよね」
あぁ、それはね
“「紫陽花は土に含まれる成分で色が変わるんだって」”
-あじさい-
「夕焼け」
「好き」
「ほうれん草」
「好き」
「任務」
「んー内容による」
「そうなのか。俺は任務嫌いだな」
いつもの時計台に2人で腰掛け甘くてしょっぱいアイスを食べる。
私は何よりこの時間が好き。夕焼け越しに見る貴方は何よりも眩しくて儚い。
「調査とかで色んな世界を周れるのは楽しいかな。世界によって見える景色、美味しい食べ物、どれも違うもの」
「そんなもんなのか」
「ほら、アクセルだって帰らないでここに来てるじゃない」
「そうだな」
もうすぐアイスが無くなる。帰りたくない。
「じゃー続きな」
「え?」
突然始まっていた問いかけはまだ続くらしい
「これは?」
無くなりかけたアイスを指差し
「好きよ」
「この場所」
「好き」
「…」
「アクセル?」
「それじゃ…俺は?」
思わぬ質問に本人を見ると真剣な表情に目を逸らす事が出来ない。
「まさか、嫌い。だなんて言わないよな」
応える返事はただ一つだけ
-好き嫌い-
街の中で目立つ赤髪をみつけた。
見つけて欲しいような、そうでないような複雑な気持ち。
この気持ちに気付いたのはいつからだろうか。
背中合わせで戦える喜び、怪我を隠してもすぐバレてしまうその鋭い洞察力、目が合った時に吸い込まれる綺麗な目。共にいる時間が長くなる程に自覚したくない感情が渦巻いてどうしようもない。
ずっと一緒にいたい。この戦友という関係を無くしたくない。
でも他の誰かといる姿を見たいわけじゃない。
そんな事を考えているうちに彼は街の何処かに消えてしまった。
今更やっぱり声をかければ良かったなんて、虫のいい話。
もう帰ろうかと進行方向を変えたら目の前には赤い髪の彼。
「よぉ、なにしてるんだ?」
思わぬ展開に驚いていると
「暇してるなら今からルードと呑みに行くんだけどお前も一緒に行かないか、と」
断る理由もなく頷くと満足そうに笑う彼に心臓がうるさい。
3人で呑むだけなのにこれからの時間を共有できるのが無性に嬉しい。
「んじゃ行きますか」
さっきまで同じ街を歩いていたはずなのにレノが居ると違う街のように景色に色がつく。
「お腹空いてきた。レノと呑むの楽しみ」
素直に伝えると
「それは嬉しいぞ、と」
すると急に近づいてきて耳元で
「因みにルードが居るのは嘘な。2人で行くぞ、と」
機嫌良く歩き出した彼の少し後ろを歩きながらこの言葉の意味を都合よく捉えてしまう自分はもう後戻り出来ないくらい彼の事が好きなのだろう。
-街-