Kagari

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8/18/2024, 12:26:59 PM



「今日のお題を見た瞬間に急にやる気になりやがった」
「あんたの姉だよ、なんとかして」
「無理」
「諦めるの早くない?」

 ふたりが引いてるのも無理ないと思う。現に私、いますっごくわくわくしてる。絵文字つけたいぐらい!
 鏡は好きだよ。おしゃれな私を映してくれるから−−なんていうと思ったか。
 そんな理由なわけあるもんか!

「鏡は怖い話の常連アイテムだからね!」
「「知らない」」
「なんでだよ! ムラサキカガミとか有名じゃない⁈」
「お前ほんとその地雷系都市伝説好きだな。何回擦るんだよ」
「ここのアプリで話してないからいいじゃん。んー、でも、同じのばっかりだとこっちも面白くないしな」
「今日、やたらとメタくない? 大丈夫?」
「せっかくだしみんなで騒げる奴をやる⁈」
「いやな予感しかしない」
「その名も『ブラッディ・メアリー』!」
「「パス」」
「だよね! 知ってた‼︎」

 どこまでも冷静なふたりで助かった。私が暴走しても止めてくれるもんね!
 念のために解説を挟むと、『ブラッディ・メアリー』とはアメリカ発祥の合わせ鏡を使う降霊術ゲームだ。そう、降霊術です。なので、絶賛非推奨です。いい子も悪い子も絶対に真似するなよ。どうなっても知らないから。
 ふと、後輩が口を開く。

「鏡ってなんで怖いイメージが付き纏うのかな」
「自分が全くそのまま反映されるからじゃねえか? それが突然、違う動きをしたらと思うと怖くね?」

 すかさず私の弟が言う。たしかに、それはいまでも思う。なんなら、普通なら私たちが絶対に見られない後ろも見えちゃうからね。ふとした瞬間に、見えてはいけないものが映ってたらと思うと……。

「結局、ホラー現象について考えすぎるから怖いって思うんじゃない? オレだって、あんたたちとの付き合いがなかったら鏡を怖いって感じなかった気がするんだけど」

 おいおい後輩よ。鏡への恐怖は私たちのせいだって言うのか? たしかに、君にホラーとかオカルトを叩き込んだのは主に私だけどさぁ。

「−−昔、鏡が神聖視されてたってのが根っこにあるせいじゃないかな」

 神聖なもの。いわゆる宗教的なものとして捉えられていたということだ。昔の宗教というと、自分たちの常識の範疇にないものは、全て「神がかり」や「自分たちとは違う存在によるもの」という解釈で罷り通る。そういうことが当たり前だった時代と、いまの私たちは地続きで繋がっている。

「さらにいうと、鏡はこの世とあの世の境目だって考えもあったんだよね」
「あ、その境目を見合う形で合わせるとなにが起きるかわからないから、合わせ鏡はよくないってことか?」
「あたしはそう考えてる」
「へー。なんとなく理解できた」

 
 はてさて、鏡を見てどう感じるか。なにを思うのか。
 すべては、見る人、使う人次第。


(いつもの3人シリーズ)

8/16/2024, 8:48:34 AM

夜の海

 海自体にあんまりいい思い出はない。けっして、いやな思い出とか、トラウマがあるとかじゃなくて

「なんかよからぬモノが多いんだよね、海って」
「……オレ、つくづく見えなくてよかったって思ってる」
「うん。羨ましいぐらい。一生見えなくていいよ」

 後輩は、私が全部視えてしまうことを知っている。全部とは即ち、この世ならざるモノを含めての全部だ。昔からそう。はっきり視えすぎて、独りだと誰が自分にしか視えないモノなのかが判断できないぐらいなんだ。

「そんなにいるの? その、ユウレイって」
「うん。特にあたしの場合、生きてる人間と同じぐらいの濃さで見えるから、キレイな形をしてるヤツほどわかりにくい」
「大変だね……」

 どうやら私の実体験らしいんだけど。独りで空を見て話し込んでるなと訝しんだ瞬間に、幼い私は急に引きずられるような形で海に向かって歩いていったらしい。覚えてないんだよねー、これ。たぶん、幼心に怖すぎて封印しちゃったんじゃないだろうか。
 これを教えてくれたのは弟なんだけど、彼としては「抜け駆けはずるい!」って叫んだらしい。そこで両親が異変に気づいて駆けつけてくれたから、私は無事だったわけなんだが。

「結局、海ってさ、事故だったり災難だったりで人間も文明の機器やらなにやらも全部呑み込んじゃうでしょ。だから、悪いモノも混じりやすいんだと思う」
「視えたらいいってもんでもないんだね」
「そりゃあね! 夏の思い出の代名詞たる海にいい思い出がないんだもん! 損してるでしょ」
「……夜釣りと夜の浜辺で花火しようって誘われてるんだけど、断ったほうがいい?」
「場所と時間によるけど、あたしだったらパス」
「わかった。満場一致で行かないことにした、って弟に言っておいて」
「よりによって誘ったの弟かよ」


(いつもの3人シリーズ)
(お盆期間に水辺は行くなってよく言うよね、ってお話)

8/11/2024, 10:58:02 AM

麦わら帽子

「麦わら帽子が欲しい」

 自由人な弟が呟いている。さっきまでONE PIEC◯を読んでたか見てたのかな。麦わらと聞いて一番最初に出てくるのがそれなんだもん。

「昔さ、俺とお前でおそろいの奴あったじゃん。リボンだけ色違いの」
「あー!」

 あれは、ママが買ってきてくれたんだっけ。男女とはいえ双子だから、ママも張り切って服を用意していたんだよね。
 色違いのお揃いや、男女でも似たようなコーデができるものが多かったかな。ちなみに麦わら帽子は、私が赤いリボンで弟が青いリボンだった。偶然にも好きな色が被らなかったから、ママも集めやすかったかもしれない。

「どうせもう入らないしさ、改めておそろっちしようぜ」
「やだ」
「なんでだよ」
「あんたがいろいろ調子に乗りそう」
「仲良しアピール付き合えよ」
「いまさら要る?」

 おそろいの帽子を手にしたその日のうちに、かまちょの弟なら「昔みたいにイロチコーデしようぜ」って迫ってきそうだ。予め断っておこう−−って、思ってたんだけどね……。
 なんともまあ運命ってのは皮肉で、断った矢先にフォルムも色合いもすごく好みな麦わら帽子に出会ってしまった。しかも、リボンのカラーバリエーションがすごく豊富だ。私の赤と弟の青どころの話じゃない。あれかな、昨今の推し活に対応してる説ある?

「……たまにはいっか」

 乗ってやろうかな、今回は。本当は欲しかったし。
 綺麗な緑色のリボンも選べるようだから、ふたりでお揃いじゃなくって翠目の後輩も巻き込んでしまおう。思わずニヤリと笑っていた。


(いつもの3人シリーズ)

8/11/2024, 7:22:51 AM

終点

 アルバイトを終えて駅に向かってだらだら歩いていると、私たち3人の左隣を電車が通り過ぎた。

「誰も乗ってないね」
「週末にしてはめずらしいな」

 夜とはいえ時刻は9時を過ぎたところ。週末というのを考えても、こんなに閑散としているのは少し変な気がする。しかも、1両目だけじゃなくてどの車両にも人の姿がないときた。

「回送って奴?」
「いやちょっと待って」
「嘘だろ、」

 最後尾の車両の電光掲示板に、絶対にありえない名前が表示されていたものだから、私と弟は咄嗟に声を上げた。電車はとうとう後ろ姿も見えなくなったが、私と弟は興奮冷めやらない。

「行き先のとこなんて書いてたの? 回送じゃなかったことだけはわかったけど、読めなかった」
「「きさらぎ駅」」
「えっ⁈」

 【きさらぎ駅】とは、異界駅。ないしそれにまつわる都市伝説。異界駅とは即ち、私たちが暮らしている世界とはまた異なる世界にある駅のこと。流行りの異世界だったらなんか夢は感じるけど、個人的には【きさらぎ駅】のある場所は「あの世」なんじゃないかと思っている。私だけじゃなく、弟と後輩もそう思っているはずだ。なにせ、この解釈を私が彼らに話したのだから。
 ちょっとだけ縁があって、私たち全員【きさらぎ駅】を知っている。なんとなく実在性も薄々感じているぐらいには。
 まさか、また出遭うことになろうとは……。

「あのさ、君たちに見てもらいたいんだけど」

 電車に一番近かったのは私だった。
 街灯も少ないから暗くて見えづらいだろうけど、弟と後輩にどうしても確認して欲しかった。
 私たちが向かっている駅は終点−−つまりは線路の端っこ。終点駅にある電車を仕舞う倉庫すら、私たちの目と鼻の先にある。
 おわかりいただけるだろうか。つまりは、私たちの真横には線路なんてないのだ。

「幽霊列車……」

 弟か、後輩か、はたまた私だったか。誰かがぽつりとその言葉を呟いた。

 はて、【きさらぎ駅】は異界駅の終点だろうか?


(いつもの3人シリーズ)

8/9/2024, 11:35:47 AM

上手くいかなくたっていい

「……明日の式、自信ない」

 なんて後輩が俯きがちにぽつりと呟いた。
 そんな悩める後輩へなんの言葉を送るべきか、一瞬迷った私は双子の弟と顔を見合わせた。言葉を選ぶっていうよりは、どっちがどっちの言葉を言おうかっていうちょっとした打ち合わせ? アイコンタクトみたいなもの。

「「別に上手くいかなくてもいいじゃん」」

 ああ、やっぱり。私も弟も、最初に言いたい言葉はそれだった。なんだかんだで思考回路が似通ってるのかもしれない。嬉しいかどうかはさておいて。

「そりゃあいいとこ見せたいだろうけどさ」
「別に死ぬわけじゃねえんだし」
「心のどっかでビビりながらやるほうが失敗するよ」
「そうそう。失敗するかも、思いどおりにいかないもんだって思ってると本当にそのとおりになるんだ、ってどっかの偉い誰かが言ってたぞ」

 私と弟、口々に思いついた言葉を声に上げる。だって、私たちは知ってるもん。後輩が明日に向けてどれだけ頑張ってきたのか、見ていた。
 だから、この言葉だけは絶対に伝えたい。

「「大丈夫だよ」」

 私たちも信じてるから、自分のことを信じてあげてほしい。
 でも、心の片隅でもいいからこれは思っててほしい。


『たとえ上手くいかなくたって、明日は明日の風が吹く』


(いつもの3人シリーズ)

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