Kagari

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終点

 アルバイトを終えて駅に向かってだらだら歩いていると、私たち3人の左隣を電車が通り過ぎた。

「誰も乗ってないね」
「週末にしてはめずらしいな」

 夜とはいえ時刻は9時を過ぎたところ。週末というのを考えても、こんなに閑散としているのは少し変な気がする。しかも、1両目だけじゃなくてどの車両にも人の姿がないときた。

「回送って奴?」
「いやちょっと待って」
「嘘だろ、」

 最後尾の車両の電光掲示板に、絶対にありえない名前が表示されていたものだから、私と弟は咄嗟に声を上げた。電車はとうとう後ろ姿も見えなくなったが、私と弟は興奮冷めやらない。

「行き先のとこなんて書いてたの? 回送じゃなかったことだけはわかったけど、読めなかった」
「「きさらぎ駅」」
「えっ⁈」

 【きさらぎ駅】とは、異界駅。ないしそれにまつわる都市伝説。異界駅とは即ち、私たちが暮らしている世界とはまた異なる世界にある駅のこと。流行りの異世界だったらなんか夢は感じるけど、個人的には【きさらぎ駅】のある場所は「あの世」なんじゃないかと思っている。私だけじゃなく、弟と後輩もそう思っているはずだ。なにせ、この解釈を私が彼らに話したのだから。
 ちょっとだけ縁があって、私たち全員【きさらぎ駅】を知っている。なんとなく実在性も薄々感じているぐらいには。
 まさか、また出遭うことになろうとは……。

「あのさ、君たちに見てもらいたいんだけど」

 電車に一番近かったのは私だった。
 街灯も少ないから暗くて見えづらいだろうけど、弟と後輩にどうしても確認して欲しかった。
 私たちが向かっている駅は終点−−つまりは線路の端っこ。終点駅にある電車を仕舞う倉庫すら、私たちの目と鼻の先にある。
 おわかりいただけるだろうか。つまりは、私たちの真横には線路なんてないのだ。

「幽霊列車……」

 弟か、後輩か、はたまた私だったか。誰かがぽつりとその言葉を呟いた。

 はて、【きさらぎ駅】は異界駅の終点だろうか?


(いつもの3人シリーズ)

8/11/2024, 7:22:51 AM