夜が明けた。
私にとっては一種の希望でもあれば、別の視点から考えた時には絶望にもなる。
できれば清々しい朝として朝日を歓迎したいんだけどね。素直に歓迎できない日だってあるんですよ。誰だよ、私が短命だとか言った奴は。
「「神様」」
「こういう時だけ声揃えて言うの止めてもらえますぅ⁈」
ハモるのは私と双子の弟だけと思いきや、今回はその弟と後輩がぴったり合わせて来ちゃったよ。
「いまは気にすんなよ。どうせ人間いつかはみんな死ぬんだから」
「そうだ。海から太陽が昇る瞬間ってすごいエモいらしいよ。今度行ってみようよ」
「俺ら初日の出も拝んだのにな。どんだけ太陽好きなんだよ」
「むしろ嫌いな人いる?」
「紫外線強いのはちょっと」
後輩の提案で、水平線から太陽が昇る瞬間を見に行った。初日の出も綺麗だと思ったけれど、こっちもこっちで綺麗。
どうしてこんなに身体が震えているんだろう。
どうして、私が抱えていた悩みが小っちゃいものなんだって思ってしまうんだろう。
「……もっと見たいな」
綺麗なものも、夜が明ける瞬間も、もっともっと見たい。
夜が明けたから、綺麗なものを探しに今日を生きようって前向きになれる。
(いつもの3人シリーズ)
星明かり
「1個1個は小さいのにさ、いっぱいあると綺麗だなって思うのすごい」
「星の光は核融合反応だってよ」
「化学ってすごいね。ロマンをぶち壊された気がする」
「元気出せよ」
「ロマンぶち壊されたぐらいで元気無くすわけないじゃん」
「君たち黙って星を見るって発想ないの?」
星空もいつも一緒のメンツで見上げたら少しは見方が変わるかなーと思ったら、ただ喧しいだけだった。意外と君たち饒舌だよね。
「あたしたち、独りじゃないんだね」
星は見守ってるよ、たぶんね。
まあ、少なくとも自分が星を見上げる時、この広いどこかでは同じく星を見上げている誰かもいるんじゃないかな。そう考えると、独りじゃないって広義的にも言えるでしょう。
(いつもの3人シリーズ)
元気かな
渡英してから何年経っただろう、ってたまに振り返ることがある。指折り数えてみたらなんと、祖国で暮らしていた年数よりも長くなっていた。現在進行形でも更新中だし、私自身は帰る予定も気持ちもないから、きっと祖国が第二の故郷的な位置付けになっちゃうんだろうな。
そんな私でも、物理的にも精神的にも遠のいていく祖国へふと思うことがある。家族ぐるみで付き合いのあった幼馴染、元気にしてるかなーって。
「え? まだ幼馴染がいるの?」
「いるよ」
「寺生まれのNさん」
「そこはTじゃないんだ……」
私と双子の弟からすれば、後輩が『寺生まれのTさん』を知っていることに驚きなんですが。
私たちきょうだいの実家は神社だったんだが、ふと思い出した幼馴染は実家がお寺なんだよね。この場合は同業者って言っていいんだろうか。
「とりわけ祓う力が強いんだよな、N」
「合掌するだけでだいたいの雑魚は滅殺だからね」
「『破ァーッ』じゃないの?」
「やたら詳しいな後輩。さてはファンか?」
怖い話を読み漁った後に読むとなんか和らぐよね。ビビりさんにはおすすめです。あと、時間をかけずに笑いたい人。
「取り憑かれた時には結構お世話になったよ」
「お祓い特化のジンジャでもダメなことあるの?」
「神主たる母さんがいない時とかはもっぱらNん家の出番」
「姐さん忙しいね」
「取り憑かれるのに忙しいもクソもあってたまるかって思うけどね」
「1週間日替わりで取り憑かれたことあったよな」
「誰も得しない日替わりメニューだね」
「待って、弟。それあたし知らないんだが⁈」
まあ、間違いなく元気でやってらっしゃると思うんですよ。訃報が海を超えて来ないので。いや、むしろNちゃんに限って夭折なんてあるわけないって勝手に思ってる。徳が高いから(?)。
「ってか、なんで寺生まれのNさん思い出したの?」
「梅干しが届いたからですね」
「ウメボシ」
「あいつ好きなんだよ、梅干し」
この後、おにぎりにして3人で仲良くいただきました。後輩は梅干しの酸っぱ爽やかさをいたくお気に召したらしい。
N氏の梅干し、今年も素晴らしい出来だったな……。
(いつもの3人シリーズ)
(いずれもっと深掘りしたいNさん)
明日に向かって歩く、でも
明日に向かって歩くよ。生きるよ。でも、不安に思うこともある。
明日に向かうっていうことはすなわち、「死」に近づいてることでもあるから。そこはみんな平等だよね。「この世界に生まれること」と「この世界で死ぬこと」に関してだけは、国籍も性別も年齢も関係なく平等に与えられている。
ごめんね、これはあくまでも私の場合。
決められているかもしれない余命(ボーダーライン)まで近づいてるってことでもあるから。ほんとに誰だよ、私を迎えに来ようとしてるカミサマは。良い迷惑だわ。
「なに弱気になってんだよ。らしくもねえ」
「たまにはよくない? 人間誰しもフルパワーで人生送れないよ。弟は送れそうだけど」
「それは言えてる」
「「自分で言うな」」
でも、私には、私にかけられた短命予言を鼻で笑ってくれる人がいる。弱気になったら引っ張ってくれる弟と、そういう時もあるよねって受け入れてくれる後輩。このふたりだけじゃなくて、ほかにも手を差し伸べてくれたり、私が立ち上がるまで待ってくれる人もいる。
それがわかってるから、たまに弱音も吐く。泣いたりする。
けど、スッキリしたらまた立ち上がるのだ。何度でも、何度でも。
「どうせスタミナ切れだろ。美味い飯食って補充しようぜ」
「いったん寿命とか考えるの止めようよ、姐さん。食べたいものリクエストある?」
たまに立ち止まっても「しょうがないな」って笑ってくれる人たちがいるの、幸せかもね。
「久々にマクド行きたいかな。モスでも可!」
「安上がりだな、お前のスタミナ補充」
「そう? 最近ファストフードも高いから全然安上がりじゃないと思うけど」
「ハンバーガーっていうよりフライドポテトが食べたいんよ。バーガーももちろん食べるけど」
「ふたりとも、マックとモスだったらどっち派?」
「「ラッピ派」」
「新勢力だぁ……」
ごめん、後輩。私と弟が好きなとこね、ご当地バーガーなんだわ。チェーン店も好きなんだけどね。いつかみんなで行こうね。はるばるいこうぜ、函館。
(いつもの3人シリーズ)
(書いてる人がハンバーガー食べたい&北海道行きたいだけ)
透明な涙
「実はつい昨日、所長が『涙』を持って来たんよ
「なんて?」
「正確には『石』なんだけど。涙の代わりに石が溢れてくるっていうひとに出会ったらしくて。そのひとが実際に流した涙を買ったんだってさ」
「ガセだろそれ」
「前に話題になったのは自作自演だったもんねー。そう思うのも無理ない」
「えぇ? 前例あるの……?」
胡散臭いと言いたげに後輩が眉を顰めている。
目から小石が溢るる少女の話だったら聞いたことある人もいるんじゃない? 解決したっていうニュースはいっさい流れてないけど、タネも仕掛けもあるんじゃないかな。しばらく後に、今度はガラスが目から溢るる少女が話題になったけど、こちらは完全に自作自演だ。一応、少女の動機は「お多感な年頃だった」でお察しください。カウンセリングをちゃんと受けたらやらなくなったってことだから。いまが幸せならオッケーです。
「今回もガセじゃん絶対」
疑う後輩の眉の皺が元に戻らない。いやいや、ガセかどうかはどうでもいいんだよ。
「今回のがガセだったとしても所長の曰く付き蒐集が終わるわけじゃないから、真偽はどうでもいいよ」
「いいのか?」
「蒐集しすぎて金欠だからバイト代カット、ってなったらさすがにブチ切れるけど」
「意外とそういうのないよね、所長。いまだけ?」
「永遠に来んな」
信用あるんだかないんだか。本当にいいロクデナシ……間違った、反面教師だよね。
「ふたりも見に来てよ。すっごい綺麗だから」
「お前、綺麗だから『まあいっか』って思ってるだろ」
「石そのものに罪はないじゃん?」
「そうだけどさ。目から石とか普通に怖えよ」
弟の反応を見るに、生き物は好きだけど石は興味ないみたいだね……。後輩は自然の産物だから石も好きらしいけど。
「そんなに綺麗なの?」
「うん。透明な水色だよ。アクアマリンみたいでさ」
「姐さん、それ本当にアクアマリンなんじゃない? アクアマリンの別名、人魚の涙だし」
「んお、涙」
「……所長、人魚から買ったってこと?」
「そうじゃなきゃ、オカルトヲタクの所長も買うって発想にならなくない?」
「「たしかに」」
え、人魚って実在するの?
(いつもの3人シリーズ)