透明な涙
涙は女の武器だって言うセリフをどこかで聞いたことがある。本当かどうかは知らない。試そうとも思わない。私、人前では泣きたくない派だから。
「ぶりっことかあざとい系がやってそうなイメージ」
「姐さんはむしろ泣いてる女の子の涙を拭うほうだよね」
「後輩、それは褒めてるのかい?」
私のことをいったいどんな人間だと思ってるんだ?
褒められている気もならないし、かと言って貶されているようにも見えない、ビミョーなライン。
「んで、いきなり涙の話してどうした」
「実はつい昨日、所長が『涙』を持って来たんよ」
「なんて?」
「正確には『石』なんだけど。涙の代わりに石が溢れてくるっていうひとに出会ったらしくて。そのひとが実際に流した涙を買ったんだってさ」
「ガセだろそれ」
「前に話題になったのは自作自演だったもんねー。そう思うのも無理ない」
「えぇ? 前例あるの……?」
胡散臭いと言いたげに後輩が眉を顰めている。
目から小石が溢るる少女の話だったら聞いたことある人もいるんじゃない? 解決したっていうニュースはいっさい流れてないけど、タネも仕掛けもあるんじゃないかな。しばらく後に、今度はガラスが目から溢るる少女が話題になったけど、こちらは完全に自作自演だ。一応、少女の動機は「お多感な年頃だった」でお察しください。カウンセリングをちゃんと受けたら、やらなくなったってことだから。いまが幸せならオッケーです。
「今回もガセじゃん絶対」
後輩の眉の皺が元に戻らない。いやいや、ガセかどうかはどうでもいいんだよ。
「今回のがガセだったとしても所長の曰く付き蒐集が終わるわけじゃないから、真偽はどうでもいいよ」
「いいのか?」
「蒐集しすぎて金欠だからバイト代カット、ってなったらさすがにブチ切れるけど」
「意外とそういうのないよね、所長。いまだけ?」
「永遠に来んな」
信用あるんだかないんだか。本当にいいロクデナシ……間違った、反面教師だよね。
「ふたりも見に来てよ。すっごい綺麗だから」
「お前、だから『まあいっか』って思ってるだろ」
「石そのものに罪はないって思ってるもん。それに、ただの液体より石のほうが武器になるじゃん?」
「冒頭の『女の武器』を無理やり繋げんなや。目から石とか普通に怖えよ」
所長の持って来た石は、およそ小さすぎて武器にもならないけどね。いや、あれを武器に使うにはもったいないわ。
「そんなに綺麗な石なの?」
「うん。水色の透明な奴だよ。アクアマリンみたいでさ」
「姐さん。それ本当にアクアマリンなんじゃない? アクアマリンの別名、人魚の涙だよ」
「お、涙だ」
「……人魚から買った?」
「そうじゃなきゃ、オカルトヲタクの所長もお金使うって発想ならなくない?」
「「たしかに」」
え、待って。人魚って実在するの?
(いつもの3人シリーズ)
あの夢の続きを
「夢見る?」
「全然」
私の双子の弟と後輩はあまり夢を見ないらしい。そもそも見ないのか、見ているけど覚えていないのかはさておいて。
「姉貴は見るよな、予知夢的なの」
「たまにね。普段はしょうもないのばっかだよ」
「悪夢といい夢どっちが多い?」
「いい夢かな? アザラシがいっぱい出てくる夢とか」
「アザラシ幼稚園でも見てたのか? 羨ましい夢だな」
動物好きの弟が食いついてきた。どういう意味があるのかなーと思って調べてみたら、アザラシの夢って運気上昇の兆候らしいよ。かわいいからかな?
夢日記つけるのはあまりよくないって言われているけど、どんな意味があるのか調べるのは好きだから日記にはしないけど最低限覚えていたい派です。
「あ、一昨日めちゃくちゃ悔しい夢を見てさ」
「えぇ、なに?」
「推しと推しの結婚式に行く夢」
「おめでとう」
「ありがとう」
いや、私が結婚するんじゃないんだけどさ。くっつきそうでくっつかなさそうでもどかしいのがまた良くて。
くっつくのが全てハッピーエンドになるか、っていうのは二次元でも三次元でも「そうとは限らない」っていう自論を持ってるけどさ、今回のは嬉しかったんよね。
「で、なにが悔しかったの?」
「◯◯と××の結婚式って文字を見て『よっっっしゃああ!』って言ったところで目が覚めた」
「あ……実際に見れなかったんだ」
「だから結婚式に行く夢か。どんまい」
「せめてウェディング差分を見てから目を覚ましたかった! 誰か続きをクレメンス!!」
「そういう原動力が人を二次創作に駆り立てるんだな」
「他人に迷惑をかけなかったらいいと思う」
これはどこかで聞いた話。夢は自分が記憶したものしか反映されないっていう仮説もあるらしい。人間って昔から夢を見てるはずなのにさ、わかってないことのほうが多いんだよね。アザラシ=いいことってのも、所詮は夢占いだから確実じゃないし。
ってことはさ、私、生まれてこのかた生で結婚式を見たことがないから、どう足掻いても推しと推しのウェディングドレス&タキシード差分は見れなかったのでは……? え、そんな悲しいことある??
(いつもの3人シリーズ)
(アザラシも結婚式の夢も全部実話)
幸せとは
「幸せについて本気出して考えてみた」
「で?」
「……後輩。弟がいま言ったのはね、某アーティストの歌のタイトルなんだわ」
「シンプルでいいね」
生きる時間が増えるにつれて歌詞が味わい深くなるタイプの曲だと思ってます。いまの世の中じゃあ、サブスクに入っていればどの音楽メディアでも聞けるんじゃないかな。
「ってか、タイトル長いね」
「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないよりは短いだろ」
「姐さん、」
「名曲です」
「あ、うん。聞いてみるよ」
後輩が困ったように私に解説を求めてきたから、シンプルに答えてあげた。音楽に関しては本と同じぐらいフットワークの軽い後輩は、さっそくこの二曲を噛み締めておりました。名曲は世代も時代も越えるんよ。
「姉貴にとっての幸せは?」
「当たり前に生きてること」(※短命予言授かり中)
「聞く相手を間違えたな。後輩、」
「おいしいもの食べてる時」
「「あり寄りのあり」」
結局のところ、なにを幸せと思うかは人それぞれだよね。自分にとっての幸せが相手にとってもそうとは限らないじゃん?
だから、幸せの定義の押し付けはしません!
「弟は?」
「動物をもふってる時」
「「最高じゃん」」
アニマルセラピーって本当にあると思うんだよね。ちなみに私は犬派、後輩は猫派。弟はあいだをとってどんな生物だって満遍なく愛でる派だ。
「規模関係なく、幸せの思い出はあるだけあったほうがいいよな」
「なんでまた?」
「「守護霊(パトローナス)が呼べる」
「ふたりともハリポタ大好きだね……」
(いつもの3人シリーズ)
日の出
「誰だよ、オールで初日の出見に行こうって言った奴」
「「お前だよ」」
そういう系の言い出しっぺは双子の弟だって決まってるんだ。そんでもって責任転嫁するところまでが私たちのルーティンワークだ。これ、今年もやんのか……。
年末を3人で過ごすんだったら、そのまま初日の出も観に行こうぜってなって、フラグ。気がついたらみんななかよく寝落ちしていた。やたらと早起きが得意な弟が寝落ちした私と後輩を叩き起こしてくれなかったら、きっと昼ぐらいまで寝過ごしていただろう。
「間に合った!」
「きっつぅ……」
「今年も初っ端から忙しねえ奴らだぜ」
「「お前が言うな」」
あともう少しで、新年初めましての陽が昇る。
いままでにも何度か観たことはあるけれど、その度に綺麗って人並みの感想を呟きながら思うことはただひとつ。
--来年も観たいな
「初日の出ってなんか願掛けしたらいいとかってのある?」
「聞いたことねーな。今年の抱負叫んでもいいんじゃねえか。ここ、俺らだけだし」
そう。ちょっと非公開の秘密の場所から、いつもの3人で初日の出を眺めている。日常のようで非日常のようなこれを、できれば毎日繰り返していきたい。
「今年も神様が迎えに来ませんように‼︎」
だいたい新年に私が願うことなんて決まってるんだよ。「私を気に入った神様が未来永劫迎えに来ませんように」だ。それこそ「誰だよ、神様の愛娘は短命なんて決めつけたのは」って話だ。
私はまだ死にたくない。いろんなことを知って、いろんなものを見て、みんなと笑っていたい。だから、新年最初に願うことはいつも一緒。今日も今日とて生き延びる!
「姐さんの願いが切実すぎる……」
「後輩。お前がヘンなこと言うから姉貴がおかしくなったじゃねーかよ」
「姐さんがおかしいっていつもどおりじゃない?」
「おしるこ食わせねーぞお前ら」
「「ごめんなさい」」
別に、初日の出に限ったことじゃないけどさ、朝陽とか夕陽ってなんであんなに綺麗で、心が動かされるんだろうね。
天照らす神様が私たちの命まで連綿と育んでくれたからかな?
……迎えに来るなって言う割には、こういう神話とかそういうの大好きなんだよねー私。
(いつもの3人シリーズ)
(一番最初に投稿した話にもちょっと繋がるネ)
新年
「明けましたおめでとう」
「まさかこの3人で年明けも一緒になると思わなかった」
「よもや『ウルトラソウル』『ヘェイ!』で年越すと思わなかったわ」
ちなみに、ウルトラソウルの奴は双子の弟がSNSで見つけたらしい。最高かよ。
「今年もいい年にしようね」
「それに関してはなんとなく大丈夫な気がしてる」
「俺らがいるからな。安心しろ」
「弟、もしかしてそれあたしも勘定してる??」
毎年なにかといろいろあるけど、困ったら周り見渡してゆっくり休んで、また一から始めればきっと大丈夫。
好きなアイドルグループがね、「きっと大丈夫」ってタイトルの歌も歌ってたけど、別の歌では「明けない夜はない」っても歌ってるんですよ。このフレーズが大好きで、たまに口ずさんだりしてる。
「「「今年もよろしくお願いします」」」
(いつもの3人シリーズ/明けましておめでとうございます!)