【雪を待つ】
昔々、雪の精霊と火の精霊が恋に落ちたそうだ。
彼らはもちろん、結ばれることなんてできなかった。
火は涙を流し、雪は溶け水になった。
彼らは幸せだったのか?それとも悲恋だったのか?
私には彼らが最期の時、どんなことを思っていたのか、或いは何を話していたのか皆目検討もつかない。
彼らは精霊だ。人間とは違う。
人間のような複雑な心なんて、「涙の理由」なんて、理解できなかったことだろう。
私も最近失恋をした。もう遠くへ行って会えない人に。
報われない恋心に共感はした。
でも、かの精霊たちはまだ幸せだろうと思ってしまった。水になって永遠に一つになれただろうから。
「生まれ変われるのかしら、精霊って」
別の精霊になるのかな。一つの水の精霊にでも?
ああ、全く下らないことを考えるわね。私ったら。
絵本を閉じて窓を見る。
二人の精霊に想いを馳せて窓を見る。彼らが世界を巡って、またここに舞い戻ってくることを祈りながら。
そして、私の悲しさを真っ白に塗りつぶしてくれるような、火のように温かい、寂しさより冷たい雪を待つ。
【心と心】
兄さん、親愛なる兄さん。
僕はついに、あなたには届きませんでした。
僕の夢は、あなたから、皆から笑われただけでした。
誰も傷つけない、ただ温かい灯火を。
心と心、平穏を繋げることができると、啖呵を切ったのに。ああ、戯れ言でしたね。忘れてください。
僕の夢を成し遂げたのは、僕ではなくあなたでした。
皆から認められて、愛されたあなたは、あなたの能力で、尽力で、人徳で、全てを成し得たのですね。
僕は、僕には、何も足らなかった。
だから、だからこうなったのですね。
違う、野望なんかなかった。
世界を陥れるつもりなんてなかった。
力が暴走してしまっただけです。
止めていただけたことに感謝はしています。
僕ができなかったこと、触れられなかった人々の心に、あなたは平気で触れたこと。それは許せません。
僕の心に光はなかったと認めるのが怖いのです。
兄さん、許してください。あなたとまた、笑い合える日がくると願っていること、許してください。
ああ、時間です。兄さん、兄さん。
それでは、また。
【何でもないフリ】
親友が恋をした。相手は穏やかでかっこいい聖歌隊。
親友はたまに彼と通っている教会内で話すようだった。
かっこいい。目が離せない。
そんな言葉を何度も聞いた。
彼の事を聞けば、親友は心から楽しそうな顔で何度も話をしてくれた。彼女はこんなにも輝いているのに。
あなただけが好いている相手だから、愛想良く返してくれても仲良くしてくれることはない。
あなたから手紙を送っても、相手がその手紙を待つことはない。そして、彼から手紙をくれることもない。
相手からあなたに近づいて、あなたに愛の籠る目を向けることはない。
私の占いには、彼女の淡くて深い心が彼に届くことはないと出ていた。彼女が可哀想で仕方なかった。
せめてひとときの幻でも。それか禁術を。
そう思った。でも、親友はいつもの幸せな顔で呟いた。
「叶わないことは分かっているの。でも良いのよ。」
「…分かっているの?なぜ?良いはずないわ」
「未熟な私はまだ愛を分かっていないから。ただ執着するのが好きなだけ。叶う恋は早いんだわ。」
ああ、彼女はきっと、心が引き裂かれても笑うのだろう。「幸せな夢だった」とでも言いながら。
何でもないフリをして、自ら破滅の道を行くのだろう。
【手を繋いで】
祭りの終わり、花火を見ながら参道を歩いていたらいつの間にか一人になっていた。
太鼓の音はするし、人の声も聞こえるのに周りには誰もいない。姿だけが見えなくなったようだった。
怖くなって走り出したけど、どこを探しても無駄だった。泣いていると、女の子がこちらにやってきた。
「こんなところで何をしているの。早く帰って」
心細いのに、そんな冷たく言われると少しムッとした。
「私だって帰りたいよ。貴方は誰なの?」
女の子は少し答えに躊躇った。
「私は……。ううん、私のことはいいよ…」
悲しげに言う女の子に私は少し罪悪感がした。
「あなたの浴衣可愛いね。見て、私の汚れちゃった」
女の子は私のことを見た。その表情は変わらなかったけど、こっちに来て手を差し出してきた。
「帰り方、分からないんでしょ。まだ戻れるから。手を繋いで。」
「あ、ありがとう」
手を取ると、少し冷たかった。私たちは歩き出した。
【さよならは言わないで】
夕日の差す帰り道。いつも決まった公園を通る。
そこで夕日の沈むのを眺めて再び帰路につくのが日課だった。
ある日、隣に綺麗な人が現れた。
静かに泣いていて、気になって声をかけてしまった。
それが僕たちの始まりでしたね。
毎日同じ時間にそこへ行き、二人で太陽の行く末を眺めて、話して。太陽がいなくなったら解散する。
いつしかそれが楽しみになって、毎日希望に照らされたような気持ちで過ごすようになっていました。
でも、そんな日々は長く続かなかった。
君は遠いところへ行くと、これが最後だと僕に言った。
ああ、悲しかったですよ。
だから礼と別れを告げようとする君に
「さよならは言わないで」なんてすがってしまった。
いつかまた会えると、そう信じていました。
それからずっとずっと後、親友の結婚式に呼ばれた。
二人の新たな門出を心から祝福しました。
ブーケトスで、新婦に思い切り投げられたブーケは少し離れた僕の方に飛んできてしまった。
慌てて近くにいた女性がキャッチしたようでした。
僕は避けきれなくてぶつかってしまった。
その女性は僕の顔を見て驚いた顔をした。
「ああ、君は_」