謎い物語の語り手

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8/11/2025, 5:31:00 PM

【こぼれたアイスクリーム】

「わたし、ずっとひとりぼっちだろうな」
暑さでこぼれたアイスクリームを気にも留めない様子で彼女は呟いた。

私の友達である彼女は、いつもなにかしら誘ってくれる。今日はアイスを食べに行こうって誘われて、今こうして一緒にいる。

「ひとりぼっち?私がいるのに」
私は驚いて声を上げた。彼女は少し目を見開いて、誤魔化すように慌ててアイスを気にし始めた。

「あーあ、もう一回買ってこようかなぁ」
「私が奢ろうか?」
「いーや大丈夫」

彼女はアイスクリームを拭くとため息をついた。
どうしてひとりぼっちなんて言ったんだろうって、ずっと気に掛かった。

その日から彼女は誘ってこなくなった。彼女はよく誰かを連れ出すような性格だったけど、しばらく誰も彼女と遊ばなかったようだった。

心配していたけど、彼女から連絡はなかった。

もう二度と会わなくなって、彼女の連絡先も失くしてしまって気付いた。

私は彼女の連絡を待つだけで、彼女に連絡を取ろうとしたことはなかった。そしてみんなもそうだった。

ああそうか、私には彼女がいたけど、彼女には私も、誰もいてくれなかったんだね。

8/6/2025, 11:13:08 AM

【またね】

いつもの丘に君は来なかった。
夕暮れ時、いつもここで二人で会って話をしていた。

空が橙になるこの時間だけ時空が歪むらしいこの場所で、僕たちはたまたま知り合った。

互いにこの丘で夕日を見るのが日課だった。話していく内に打ち解けて、生きる時空が違うことも知った。

僕たちは色んな話をした。互いの時代のこと、流行っていることもその日の出来事も、たくさん話した。

しかし、名前だけは明かさなかった。二人で話すこの時間が、互いの人生に干渉しないようにするために。

「俺さ、もうここに来れないかも」
ある日君は言った。僕は驚いて固まってしまった。

「なんで?」
「引っ越すらしいから。もう会えないな」

そっか、とすら声に出せなかった。どこに引っ越すのかと本当は聞きたかった。でも聞かなかった。

「話してて思ったけど、俺たぶんそっちからしたら未来人だよな。」

薄々気づいていたことを打ち明けてきた。

相手もきっと僕のことを探したくて、名前を聞こうとしたんだと思う。でもそれを我慢してるように見えた。

「きっとまた会えるから。」
僕は無理やり話を切り上げた。

二人で祈るような「またね」を言って解散した。
それからその丘に君が現れることはなくて、僕もその内行かなくなった。

数十年後、普通に人生を歩んだ僕は結婚して子どもができた。大切な一人息子を見て分かってしまった。

子どもの頃の不思議な丘での思い出のオチを。
「またね」は果たされたわけだ。

7/23/2025, 6:33:58 PM

【true love】
私が恋慕っていた男性に友人が恋をした。
友人も男だった。彼は禁忌の片想いだと言った。

周りは十人十色の理由で彼を応援した。
私がその男性を密かに好いていたことは、
ついに言い出せなかった。

長いアプローチの末、友人の恋は結ばれたそうだ。
祝福されて、二人はお互いを見て微笑みあっている。

私が隣にいるはずだった。
その笑顔は私がもらおうとしたものだった。
私がその柔らかい声で愛してると言われるはずだった。

叶うわけのない妄想は暴走していった。
私は片想い相手に思いの丈をぶちまけた。

「恋人を愛してるから」
そういわれても私は引けなかった。

いつの間にか、私はみんなからハブられていた。
私が差別主義者?いつそんなことを言った。

根も葉もない噂は広がって、私はここを追い出される羽目になった。

かつての友人は怯えた目で私を見て、それを安心させるようにかつての片想い相手が抱きしめた。

「ああ、私は当て馬だったのか。最初から…」
真の愛、真の友情、真の団結を見た。

なら、私一人が許されないこの世界から、彼らから、私は静かにいなくなろう。

7/14/2025, 8:05:57 PM

ただの日記を記そうと思う。

先日、いつメンの友人たちを呼びつけた。
私達は大人になった今もたまに会う仲だった。

夏になってからは初めて会うから、花火しようとでも持ちかけようと思った。

最初に集まったのは私と能天気な友人で、他は後から来ると言った。こんなのはいつものことだった。

待っている間私達はいつものように挨拶を交わした。
また馬鹿みたいな会話をするんだと思ってた。

彼が語ったのは、自分の日常の愚痴についてだった。
私達はそれぞれ違う複雑な状況をもっていて、昔からお互いそれを理解していた。

だから私は、彼の愚痴にただ同調した。
彼は何度も辛い、泣きそう、申し訳ないと言っていた。

「普通に進学して、普通に就職して、普通に恋愛して、普通に結婚してみたかった。普通に誰かと話して、普通に遊びたかった。誰か別の人に生まれたかったなぁ」

話の中で彼はそう言った。私は「そっか、辛いよな」としか言えなかった。

梅雨は既に明けたはずなのにその夜はどしゃ降りで、彼は傘の中で煙草を吸っていた。

その後、コンビニへ行くともう花火が売られていた。
買って少しやってみようと思ったがやめた。

6/17/2025, 11:04:50 AM

【届かないのに】

あなたの夢を見た。
隣にいる貴方に綺麗な一等星を指差した。

無愛想で笑わない貴方の微笑む顔を見た。
夢はそこで終わり目が覚めた。

私は暗くて冷たい独房の中にいて、鎖に繋がれていた。
私が犯してしまった罪を償うためのこの鎖。

空の無いこの空間にぽたぽたと雨が降っている。
私が降らしているのだと気付けなかった。

「行かないで」
貴方に最後に言った言葉だった。

貴方はそれを聞かなかった。
きっと今、私の事は忘れているんだろう。

大切な人、愛した貴方と一緒にいたかった。
何もない私はこの世界の宝を盗ろうとした。

『この世界には願いを叶える指輪がある。その指輪にキスをして願いを言うと__』

幼い頃に読んだ絵本では、女の子が指輪を手にして幸せになってた。どうして私はダメだったんだろう。

衰弱していく自分の体を抱きしめた。
貴方のためにしてたダイエットも成功したみたい。

「迎えにきてくれないかな」
狂ってしまったのかな。まだ夢を見てられるんだ。

どれだけ手を伸ばしても、もう光には届かないのに。

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