【true love】
私が恋慕っていた男性に友人が恋をした。
友人も男だった。彼は禁忌の片想いだと言った。
周りは十人十色の理由で彼を応援した。
私がその男性を密かに好いていたことは、
ついに言い出せなかった。
長いアプローチの末、友人の恋は結ばれたそうだ。
祝福されて、二人はお互いを見て微笑みあっている。
私が隣にいるはずだった。
その笑顔は私がもらおうとしたものだった。
私がその柔らかい声で愛してると言われるはずだった。
叶うわけのない妄想は暴走していった。
私は片想い相手に思いの丈をぶちまけた。
「恋人を愛してるから」
そういわれても私は引けなかった。
いつの間にか、私はみんなからハブられていた。
私が差別主義者?いつそんなことを言った。
根も葉もない噂は広がって、私はここを追い出される羽目になった。
かつての友人は怯えた目で私を見て、それを安心させるようにかつての片想い相手が抱きしめた。
「ああ、私は当て馬だったのか。最初から…」
真の愛、真の友情、真の団結を見た。
なら、私一人が許されないこの世界から、彼らから、私は静かにいなくなろう。
ただの日記を記そうと思う。
先日、いつメンの友人たちを呼びつけた。
私達は大人になった今もたまに会う仲だった。
夏になってからは初めて会うから、花火しようとでも持ちかけようと思った。
最初に集まったのは私と能天気な友人で、他は後から来ると言った。こんなのはいつものことだった。
待っている間私達はいつものように挨拶を交わした。
また馬鹿みたいな会話をするんだと思ってた。
彼が語ったのは、自分の日常の愚痴についてだった。
私達はそれぞれ違う複雑な状況をもっていて、昔からお互いそれを理解していた。
だから私は、彼の愚痴にただ同調した。
彼は何度も辛い、泣きそう、申し訳ないと言っていた。
「普通に進学して、普通に就職して、普通に恋愛して、普通に結婚してみたかった。普通に誰かと話して、普通に遊びたかった。誰か別の人に生まれたかったなぁ」
話の中で彼はそう言った。私は「そっか、辛いよな」としか言えなかった。
梅雨は既に明けたはずなのにその夜はどしゃ降りで、彼は傘の中で煙草を吸っていた。
その後、コンビニへ行くともう花火が売られていた。
買って少しやってみようと思ったがやめた。
【届かないのに】
あなたの夢を見た。
隣にいる貴方に綺麗な一等星を指差した。
無愛想で笑わない貴方の微笑む顔を見た。
夢はそこで終わり目が覚めた。
私は暗くて冷たい独房の中にいて、鎖に繋がれていた。
私が犯してしまった罪を償うためのこの鎖。
空の無いこの空間にぽたぽたと雨が降っている。
私が降らしているのだと気付けなかった。
「行かないで」
貴方に最後に言った言葉だった。
貴方はそれを聞かなかった。
きっと今、私の事は忘れているんだろう。
大切な人、愛した貴方と一緒にいたかった。
何もない私はこの世界の宝を盗ろうとした。
『この世界には願いを叶える指輪がある。その指輪にキスをして願いを言うと__』
幼い頃に読んだ絵本では、女の子が指輪を手にして幸せになってた。どうして私はダメだったんだろう。
衰弱していく自分の体を抱きしめた。
貴方のためにしてたダイエットも成功したみたい。
「迎えにきてくれないかな」
狂ってしまったのかな。まだ夢を見てられるんだ。
どれだけ手を伸ばしても、もう光には届かないのに。
【渡り鳥】
生命が本格的に眠りの準備を始めた頃。
貴方もまた遠くへ行ってしまうのだと聞いた。
彼らの一族は渡り鳥と呼ばれる放浪の民族だった。
その一族は皆、寒さに弱い体質で冬が来る前に暖かい地へ渡ると言う。
「いつか君に会いに行くよ」
「…うん」
秋は愛されにくい季節だ。春のような始まりも、夏のような懐かしさも、冬のような静けさもない。
私はそんな秋を愛していた。私にとって、貴方と会えたこの秋はどの季節より特別だった。
「私も…私も貴方と行きたかった。」
涙が止まらなかった。貴方は困った風に笑う。
「泣かないで。きっとまた会えるから」
貴方もどこか泣きそうだった。
私が…暑さに弱い民族じゃなければ。
あなたとどこまでも行けたのに。
寒さを感じたことがないはずなのに、旅立つ貴方を見送った私の心はずっと、ずっと寒かった。
【さらさら】
貴女と共にこの道を歩いている。
最初に出会ったこの庭園の道を。
あるパーティーの日、騎士である私も呼ばれ参加していた。酔いを冷ますためにこの庭園に出たのだ。
魔女の貴女は星を浮かべながら鼻唄を歌っていたな。
宮廷魔術師だと知らずに声を掛けなければ、この日は訪れなかっただろう。
私は貴女に惹かれてこの地位まで上り詰めた。
貴女と対等に語り合いたかったから。
貴女は私の手を握り笑う。
「今が人生で一番幸せな時間だわ。そして、この幸せがずっと続くのね。」
私も「あぁ、そうだよ」と返事をして笑った。
「私ね、魔法を学ぶ以外空っぽだった。私の日記は真っ白だった。でも、貴方と会ってから私の物語は動き出したの。さらさらと筆が動いたの」
「これから二人でずっと幸せな物語を紡いでいこう」
時間を告げる鐘が鳴った。
司祭たる友人が私たちを呼んだ。
「おい、式が始まるぞ。主役が遅れるなよ」
私たちは駆け出した。白い花びらが舞っていた。