【特別な存在】
頬を撫でる心地よいそよ風が吹いている。
私は今日、愛する人に告白してしまった。
なんとなく、悪い結果じゃないと思っていた。
でもそれはずれで、予想は自惚れだったと知った。
彼は私のことなんか眼中になくて、私は一方的に彼に面倒くさいアプローチをしているだけだったんだって。
彼は私にとって特別な存在だった。
私の人生が歪んでしまうくらい。
でも、私は彼の特別にはなれなかった。
それが私に残された現実だった。
どうして教えてくれなかったの。
あなたにはとっくに愛する人がいたこと。
私があなたを好きなことを分かっていて、
私をもてあそんだというのか。
そよ風は私を嘲笑っていた。
【バカみたい】
星の煌めく日、私は異端審問に掛けられている。
「なんだ、この紙屑は」
審問官が私の腹を蹴りあげながらその紙片を見せつけてくる。
「それは…」
魔女に頼んだ愛の呪文だ、と言うこともできず、しかし彼はその言葉と情報を待っている。
「早く言え」
「それは…ラブレターです…私から、あなたへの」
「は?」と声を漏らしたあと、「バカみたいなことを言うな!さっさと吐け!」と私の顔を蹴った。
代償を伴う愛の黒魔術。異端審問官に恋した私の、最初で最後の罰で、最大の愛情表現。
【伝えたい】
フローリングに横たわって、
雲の隙間の光を見る。
このネクタイも結局、
自分を空に押し上げることはない。
「面倒くさいなぁ」
呟いた言葉は冷たい空気に消えていく。
ふと思い出した。数年前、自分に書いた手紙。
追い詰められていた時期に書いたものだ。
棚を探ってそれを見つけ出した。
期待せずに開いた紙に水がぽたぽたこぼれ落ちた。
『命を絶とうとしてるんじゃないか。
ここまでよく頑張ったんだな。』
「なんだこれ」
乾いた笑いが漏れた。
記憶がよみがえる。
数年前、泣きながら机に向かっていたことを。
紙とペンを取り出した。
未来の自分に伝えたいことを書くために。
【花束】
一人、森の中を歩いていた。
空気が澄んでて、柔らかい光が差し込んで明るい。
目に優しい緑が私を出迎える。
木々の隙間から見える青と雲の白が美しい。
この森を選んだのは間違いだったかもしれない。
でも、ここは私の心を癒してくれる最後の場所。
ディアスシアとカモミールの花束を持って進む。
良い香りがする。私の恐怖を和らげるみたいに。
枝に手が届く木を見つけた。
私は震えた手で縄をかけた。
この世界の別れを声にしないまま、
私はその罠にかかる。
花束が地面に落ちて溢れた。
私はずっとそれを見ていた。
私への、最後の手向けを。
【スマイル】
あなたは誰?どんな人?
いつも笑顔で明るくて、
でも何を考えてるのか分からない。
心に闇があるのかないのか見えない。
その声に不満があるのかないのか聞き取れない。
あなたの紡ぐ言葉は優しいのに、
その言葉の花の下はトゲがある。
ある日、あなたはこう言った。
「どうせすぐに終わりが来る」
吐き捨てたような言葉だった。
丁寧な声音で、柔らかい笑顔だった。
その時の彼女だけは、
誰にも関心がないように見えた。