【こぼれたアイスクリーム】
「わたし、ずっとひとりぼっちだろうな」
暑さでこぼれたアイスクリームを気にも留めない様子で彼女は呟いた。
私の友達である彼女は、いつもなにかしら誘ってくれる。今日はアイスを食べに行こうって誘われて、今こうして一緒にいる。
「ひとりぼっち?私がいるのに」
私は驚いて声を上げた。彼女は少し目を見開いて、誤魔化すように慌ててアイスを気にし始めた。
「あーあ、もう一回買ってこようかなぁ」
「私が奢ろうか?」
「いーや大丈夫」
彼女はアイスクリームを拭くとため息をついた。
どうしてひとりぼっちなんて言ったんだろうって、ずっと気に掛かった。
その日から彼女は誘ってこなくなった。彼女はよく誰かを連れ出すような性格だったけど、しばらく誰も彼女と遊ばなかったようだった。
心配していたけど、彼女から連絡はなかった。
もう二度と会わなくなって、彼女の連絡先も失くしてしまって気付いた。
私は彼女の連絡を待つだけで、彼女に連絡を取ろうとしたことはなかった。そしてみんなもそうだった。
ああそうか、私には彼女がいたけど、彼女には私も、誰もいてくれなかったんだね。
【またね】
いつもの丘に君は来なかった。
夕暮れ時、いつもここで二人で会って話をしていた。
空が橙になるこの時間だけ時空が歪むらしいこの場所で、僕たちはたまたま知り合った。
互いにこの丘で夕日を見るのが日課だった。話していく内に打ち解けて、生きる時空が違うことも知った。
僕たちは色んな話をした。互いの時代のこと、流行っていることもその日の出来事も、たくさん話した。
しかし、名前だけは明かさなかった。二人で話すこの時間が、互いの人生に干渉しないようにするために。
「俺さ、もうここに来れないかも」
ある日君は言った。僕は驚いて固まってしまった。
「なんで?」
「引っ越すらしいから。もう会えないな」
そっか、とすら声に出せなかった。どこに引っ越すのかと本当は聞きたかった。でも聞かなかった。
「話してて思ったけど、俺たぶんそっちからしたら未来人だよな。」
薄々気づいていたことを打ち明けてきた。
相手もきっと僕のことを探したくて、名前を聞こうとしたんだと思う。でもそれを我慢してるように見えた。
「きっとまた会えるから。」
僕は無理やり話を切り上げた。
二人で祈るような「またね」を言って解散した。
それからその丘に君が現れることはなくて、僕もその内行かなくなった。
数十年後、普通に人生を歩んだ僕は結婚して子どもができた。大切な一人息子を見て分かってしまった。
子どもの頃の不思議な丘での思い出のオチを。
「またね」は果たされたわけだ。
【true love】
私が恋慕っていた男性に友人が恋をした。
友人も男だった。彼は禁忌の片想いだと言った。
周りは十人十色の理由で彼を応援した。
私がその男性を密かに好いていたことは、
ついに言い出せなかった。
長いアプローチの末、友人の恋は結ばれたそうだ。
祝福されて、二人はお互いを見て微笑みあっている。
私が隣にいるはずだった。
その笑顔は私がもらおうとしたものだった。
私がその柔らかい声で愛してると言われるはずだった。
叶うわけのない妄想は暴走していった。
私は片想い相手に思いの丈をぶちまけた。
「恋人を愛してるから」
そういわれても私は引けなかった。
いつの間にか、私はみんなからハブられていた。
私が差別主義者?いつそんなことを言った。
根も葉もない噂は広がって、私はここを追い出される羽目になった。
かつての友人は怯えた目で私を見て、それを安心させるようにかつての片想い相手が抱きしめた。
「ああ、私は当て馬だったのか。最初から…」
真の愛、真の友情、真の団結を見た。
なら、私一人が許されないこの世界から、彼らから、私は静かにいなくなろう。
ただの日記を記そうと思う。
先日、いつメンの友人たちを呼びつけた。
私達は大人になった今もたまに会う仲だった。
夏になってからは初めて会うから、花火しようとでも持ちかけようと思った。
最初に集まったのは私と能天気な友人で、他は後から来ると言った。こんなのはいつものことだった。
待っている間私達はいつものように挨拶を交わした。
また馬鹿みたいな会話をするんだと思ってた。
彼が語ったのは、自分の日常の愚痴についてだった。
私達はそれぞれ違う複雑な状況をもっていて、昔からお互いそれを理解していた。
だから私は、彼の愚痴にただ同調した。
彼は何度も辛い、泣きそう、申し訳ないと言っていた。
「普通に進学して、普通に就職して、普通に恋愛して、普通に結婚してみたかった。普通に誰かと話して、普通に遊びたかった。誰か別の人に生まれたかったなぁ」
話の中で彼はそう言った。私は「そっか、辛いよな」としか言えなかった。
梅雨は既に明けたはずなのにその夜はどしゃ降りで、彼は傘の中で煙草を吸っていた。
その後、コンビニへ行くともう花火が売られていた。
買って少しやってみようと思ったがやめた。
【届かないのに】
あなたの夢を見た。
隣にいる貴方に綺麗な一等星を指差した。
無愛想で笑わない貴方の微笑む顔を見た。
夢はそこで終わり目が覚めた。
私は暗くて冷たい独房の中にいて、鎖に繋がれていた。
私が犯してしまった罪を償うためのこの鎖。
空の無いこの空間にぽたぽたと雨が降っている。
私が降らしているのだと気付けなかった。
「行かないで」
貴方に最後に言った言葉だった。
貴方はそれを聞かなかった。
きっと今、私の事は忘れているんだろう。
大切な人、愛した貴方と一緒にいたかった。
何もない私はこの世界の宝を盗ろうとした。
『この世界には願いを叶える指輪がある。その指輪にキスをして願いを言うと__』
幼い頃に読んだ絵本では、女の子が指輪を手にして幸せになってた。どうして私はダメだったんだろう。
衰弱していく自分の体を抱きしめた。
貴方のためにしてたダイエットも成功したみたい。
「迎えにきてくれないかな」
狂ってしまったのかな。まだ夢を見てられるんだ。
どれだけ手を伸ばしても、もう光には届かないのに。