【星のかけら】
その星は人々の思い出からできたようで、魔女はその周りに散りばめられた星のかけらを集めている。
星になり得なかったかけらは、忘れられた思い出。
そして、彼女は僕の星のかけらを拾った。
「それ、どうするんだ」
訊ねると、「コレクション」と魔女は笑った。
「悪趣味だな」
「もう持ち主でさえ手放したものよ」
「まあね」
どうせ星に紡がれている思い出は、彼女にしか見られないし。
「……どうして、自ら手放したの?この思い出を。大切な人たちだったのでしょう?」
星のかけらを見つめながら魔女は問う。
「"またね"がいつの日か必ず来なくなる事を、僕は知っているからさ」
「へぇ。ただの人間のくせによく言うわ」
思い出を忘れてしまった僕には、本当は何のことだか分からなかったけど、
きっとあの日の自分は同じ言葉を残して捨てたと思う。
星よ、そうなんだろう?
【君と一緒に】
彼らは幼なじみの仲だった。いつも二人でいた。
男の子二人なのに、いつも大人しい遊びをしていた。
ずっと二人でいるのかと周りは思ってた。
ある日、一人がもう一人に告白をした。
ずっと恋愛対象として見ていたらしい。
「ごめん。君と一緒にはいられない」
そういって断ったそうだ。真摯に。
そして断った彼はある女の子に告白をした。
女の子は迷った。彼ら二人を見ていることが、彼女の安らぎだった。
儚い彼らの間に入ってはいけないと思った。
しかし何度も告白された女の子はとうとうその気持ちに答えることにした。
失恋をした男の子は絶望の末、泉の中に飛び込んだ。
しかし命を絶つことはできなかった。
私は、私は兄様を裏切ったの?
兄様は何も教えてくれなかったのに。
そんな目でこっちを見ないでよ。兄様。
ああ、どうしてこんなことに。
【日の出】
「馬鹿みたいな人生だった」
虚空に消える、すっかり口癖になった言葉。
健康な生命体たる自分の身体は自死を望まない。
でもきっと終わるだろうと希望的観測で生きてきた。
ずっと真っ暗な道を、遠くに見える死という光を追いかけて歩いてきた。全部終わる前提で創った道だった。
今、私は恵まれた環境に生きていて、それに気付いている。眩しすぎた光の中にいるのか目が見えないほどに。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、恨むことも、慕うことも、慈しむこともできるのに、
私の心は晴れることなくずっとずっと虚しい。
そして、皆はそれを「貴方はまだ大丈夫」と言った。
私を幸せにしたい人達が大勢いてくれる。
「不幸な自分より幸せということにしたい」人達が。
分かってる。誰よりも私が一番。過去は見なくていい。
私の想いも、彼らの考えも全部一方通行だし。
ずっと、ずっとこのまま生きていくのだろう。
心の奥がずっと空っぽで、真っ暗な景色を見て。
そこに日の出を見ることも叶わないまま。
【変わらないものはない】
諸行無常。何度も自分に言い聞かせてきた。
変わっていく自分の世界が名残惜しかった。
出会いと別れが表裏一体なんて知りたくなかった。
私は何度も願った。彼らと共にいられるように、と。
魔法の代わりに奇跡が存在する世界、でも私はずっと前から知ってたよ。
奇跡なんてないことを。世界がそれを捨てたことを。
ねえ、君は変わらないものはないって言ったよね。
でも、あるの。ひとつだけ。…私なんだけど。
みんなも、世界も、全部全部変わっていってしまう。
私もこんなに変わったのに、変わるしかなかったのに
私が愛されないこと、願いなんて叶わないことだけは
どう頑張っても変わらない。
世界が愛した私たちが仇を成し、愛さなかったように。
【風邪】
なんだか、最近酷く調子が悪い。
寒くて、重くて、とてもだるい。なにもできない。
暖炉の傍で座り込む。熱で冷たさが和らいで、悴んだ手足が痺れたような感覚がする。
まるで緊張に似た痺れだった。
なんてことない、人生の最低にいるような。
生暖かい涙が頬を伝う。もう凍ってはくれず、ただ染みを作っていくだけだった。
ああ、風邪だ。風邪を引いてるんだ。
心がとても、とても寒くて、重くて、だるい。
もうなにもできる気がしない。
一人の寂しさに、叶わないこの虚しさに背を預けたって、倒れていくだけなのに。
今は床のひんやりした感覚でさえほしかった。
立ち上がれない私を支えていてほしかった。
ただの風邪が大したこと無い不調を招いてるんだと、信じるしかなかった。