謎い物語の語り手

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7/23/2025, 6:33:58 PM

【true love】
私が恋慕っていた男性に友人が恋をした。
友人も男だった。彼は禁忌の片想いだと言った。

周りは十人十色の理由で彼を応援した。
私がその男性を密かに好いていたことは、
ついに言い出せなかった。

長いアプローチの末、友人の恋は結ばれたそうだ。
祝福されて、二人はお互いを見て微笑みあっている。

私が隣にいるはずだった。
その笑顔は私がもらおうとしたものだった。
私がその柔らかい声で愛してると言われるはずだった。

叶うわけのない妄想は暴走していった。
私は片想い相手に思いの丈をぶちまけた。

「恋人を愛してるから」
そういわれても私は引けなかった。

いつの間にか、私はみんなからハブられていた。
私が差別主義者?いつそんなことを言った。

根も葉もない噂は広がって、私はここを追い出される羽目になった。

かつての友人は怯えた目で私を見て、それを安心させるようにかつての片想い相手が抱きしめた。

「ああ、私は当て馬だったのか。最初から…」
真の愛、真の友情、真の団結を見た。

なら、私一人が許されないこの世界から、彼らから、私は静かにいなくなろう。

7/14/2025, 8:05:57 PM

ただの日記を記そうと思う。

先日、いつメンの友人たちを呼びつけた。
私達は大人になった今もたまに会う仲だった。

夏になってからは初めて会うから、花火しようとでも持ちかけようと思った。

最初に集まったのは私と能天気な友人で、他は後から来ると言った。こんなのはいつものことだった。

待っている間私達はいつものように挨拶を交わした。
また馬鹿みたいな会話をするんだと思ってた。

彼が語ったのは、自分の日常の愚痴についてだった。
私達はそれぞれ違う複雑な状況をもっていて、昔からお互いそれを理解していた。

だから私は、彼の愚痴にただ同調した。
彼は何度も辛い、泣きそう、申し訳ないと言っていた。

「普通に進学して、普通に就職して、普通に恋愛して、普通に結婚してみたかった。普通に誰かと話して、普通に遊びたかった。誰か別の人に生まれたかったなぁ」

話の中で彼はそう言った。私は「そっか、辛いよな」としか言えなかった。

梅雨は既に明けたはずなのにその夜はどしゃ降りで、彼は傘の中で煙草を吸っていた。

その後、コンビニへ行くともう花火が売られていた。
買って少しやってみようと思ったがやめた。

6/17/2025, 11:04:50 AM

【届かないのに】

あなたの夢を見た。
隣にいる貴方に綺麗な一等星を指差した。

無愛想で笑わない貴方の微笑む顔を見た。
夢はそこで終わり目が覚めた。

私は暗くて冷たい独房の中にいて、鎖に繋がれていた。
私が犯してしまった罪を償うためのこの鎖。

空の無いこの空間にぽたぽたと雨が降っている。
私が降らしているのだと気付けなかった。

「行かないで」
貴方に最後に言った言葉だった。

貴方はそれを聞かなかった。
きっと今、私の事は忘れているんだろう。

大切な人、愛した貴方と一緒にいたかった。
何もない私はこの世界の宝を盗ろうとした。

『この世界には願いを叶える指輪がある。その指輪にキスをして願いを言うと__』

幼い頃に読んだ絵本では、女の子が指輪を手にして幸せになってた。どうして私はダメだったんだろう。

衰弱していく自分の体を抱きしめた。
貴方のためにしてたダイエットも成功したみたい。

「迎えにきてくれないかな」
狂ってしまったのかな。まだ夢を見てられるんだ。

どれだけ手を伸ばしても、もう光には届かないのに。

5/29/2025, 12:48:18 PM

【渡り鳥】

生命が本格的に眠りの準備を始めた頃。
貴方もまた遠くへ行ってしまうのだと聞いた。

彼らの一族は渡り鳥と呼ばれる放浪の民族だった。
その一族は皆、寒さに弱い体質で冬が来る前に暖かい地へ渡ると言う。

「いつか君に会いに行くよ」
「…うん」

秋は愛されにくい季節だ。春のような始まりも、夏のような懐かしさも、冬のような静けさもない。

私はそんな秋を愛していた。私にとって、貴方と会えたこの秋はどの季節より特別だった。

「私も…私も貴方と行きたかった。」
涙が止まらなかった。貴方は困った風に笑う。

「泣かないで。きっとまた会えるから」
貴方もどこか泣きそうだった。

私が…暑さに弱い民族じゃなければ。
あなたとどこまでも行けたのに。

寒さを感じたことがないはずなのに、旅立つ貴方を見送った私の心はずっと、ずっと寒かった。

5/28/2025, 8:15:01 PM

【さらさら】

貴女と共にこの道を歩いている。
最初に出会ったこの庭園の道を。

あるパーティーの日、騎士である私も呼ばれ参加していた。酔いを冷ますためにこの庭園に出たのだ。

魔女の貴女は星を浮かべながら鼻唄を歌っていたな。

宮廷魔術師だと知らずに声を掛けなければ、この日は訪れなかっただろう。

私は貴女に惹かれてこの地位まで上り詰めた。
貴女と対等に語り合いたかったから。

貴女は私の手を握り笑う。
「今が人生で一番幸せな時間だわ。そして、この幸せがずっと続くのね。」

私も「あぁ、そうだよ」と返事をして笑った。

「私ね、魔法を学ぶ以外空っぽだった。私の日記は真っ白だった。でも、貴方と会ってから私の物語は動き出したの。さらさらと筆が動いたの」

「これから二人でずっと幸せな物語を紡いでいこう」

時間を告げる鐘が鳴った。

司祭たる友人が私たちを呼んだ。
「おい、式が始まるぞ。主役が遅れるなよ」

私たちは駆け出した。白い花びらが舞っていた。

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