【木枯らし】
何本も矢の刺さったお姫様は、
焼けた靴を履いて鉄の上を踊っていた。
でも誰をそれを見ない。
みんな大切な人といて、笑い合っていた。
お姫様はニコニコ笑いながら踊っている。
木枯らしだけが彼女のパフォーマンスを笑っている。
みんなはどこかに去っていってしまった。
お姫様が疲れ果てて、
焼けた芝生の絨毯の上に倒れ込んだ。
「だれかそこにいる?」
震える手で手を伸ばしても、
誰も彼女の手を握らなかった。
そこには誰もいなかった。
【この世界は】
私の時間は常に「好き」に溢れている。
好きなもの、好きな景色、好きな人。
見るもの聞くもの全てがエモーショナルに富んでいて、まるで飽きない世界。
私の人間関係は特別に溢れている。
特別な人。大切にしたい人。よく絡む相手。
軽率に、それでも真剣に「愛してる」と言える。
自分を愛するより先に誰かを、何かを愛している。
そんな自分が憎い。
どれほどこの世界が煌めいていても、魅力的な人たちを囲んでいてもその全てが私を見ることがない。
勝手に好きになっているくせに、考えてしまう。
あーズルいな。無条件に愛されて羨ましいなって。
輝く瞳に何も映らない。私の世界に色がない。
愛に見返りを求めてしまえばそんなものだ。
「なんだ…こんなものか。」
なんて不均等で、不条理で
つまらないんだろう、この世界は。
【夢を見てたい】
大好きな人に恋人ができた。
彼が幸せになれるなら、とむしろ嬉しかった。
でも、どんなに近況を聞いてもなにも答えなくて、表情は暗いまま。どうしてそんな顔をするの。
ある日、酷い顔の彼を見つけた。
私が声をかけると彼は壁に私を叩きつけて言った。
もう辛いって。初めて見た涙だった。
その後、彼は恋人と別れてしまった。
幸せなはずではなかったのか。私は悲しくなった。
でも、最近彼はにこにこしていて、幸せそうに私にずっと語りかけてくる。楽しそうで何よりね。
ある日、彼は私の傍に来た。
どうしたのか問うと彼はソファに私を押し倒した。
早く結婚してほしいって。焦れったそうな顔だった。
返事は…あと少しだけ待って。
私は逃げないから。
今はここで夢を見てたいの。
あなたに監禁される前の、自由だった頃の夢を。
【君が紡ぐ歌】
腐れ縁の友と紅葉並木の道を歩いている。
もみじ狩りをする酔った人々の歌声が聞こえてきた。
あちこちで、音楽を流している人もいる。
世の中は歌に溢れている。
歌手も作曲家も、とにかくたくさんいる。
旋律が世の中を包み込んで、思想や世界観のごちゃごちゃ混ざったもので耳が痛くなりそうだ。
私は歌が好きじゃない。
「やっぱ綺麗だな~。久々の秋じゃね?」
能天気に上を見ている君が言った。
「最近はもう秋ないしね」
私は言った。君は息を吸い込んだ。
君は歌うのが好きだから、詠う時が分かる。
「あらたまの 吹く風に舞う 紅の葉を
思う間もなく 過ぎ去りし日よ」
…そう、短歌が好きなんだ。
「…多分短歌好きなのお前だけだよ」
君はわはははと笑った。
でもきっと、私も君が紡ぐ歌が好きなんだと思う。
君の詠ったその歌の意味を考えてしまうから。
【砂時計の音】
私は時の番人。世界を見守る者。
時空に歪みが起こらぬようこの時計を監視している。
ここは「監視者の牢獄」。
時計塔の中のようなこの場所にあるのは、空間を囲むような大きな鎖と時を示す砂時計だけ。
聞こえるのはさらさらとした砂時計の音だけ。
でも私は世界そのものを見ていた。
だから生きとし生ける者の存在にいちいち特別な感情など抱くことはなかった。なかったはずなのに
君に恋をしてしまった。禁忌の感情を抱いてしまった。
声も分からない。けどその姿に惹かれてしまった。
会えることなど決してない。私たちは始まらない。
だから世界と共に君を見守ろう。
私がこの世界を。
君が時の中に迷わないように。