【光と闇の狭間で】
天は泣き、地は仰ぐ。少女は一人泣いていた。
神よ。これが罰か。怒りの津波に我らを落とし、
悪魔よ。これが罪か。共に神への哀しみを晴らすため。
神よ。父よ。我らは無条件に貴方を愛するのに、
貴方は我らに罰を与えてばかりだという。
祝福など何処にもない。貴方は独善でしかない。
影に身を包み、堕天使と踊ろうにも、
黒く染まったその翼が再び羽ばたくことはない。
これが、諦めることでしか成し得なかった世界がこの末路だと言うのなら、
何処までも人のまま、愚かに隠れて祈ろう。
神も、悪魔もできない我ら人間だけの贖いを。
善にも、悪にもなれない不完全なままの存在でいよう。
いつか我らの時代が訪れる。孤独な楽園を築こう。
触れることも、消えることもない。
光と闇の狭間で。
【距離】
貴方を好きになった。
ただの妄想でも、貴方の人柄も素敵なんだと思った。
毎日毎日貴方の隣へ行って、明るく話しかけた。
でも貴方はまるで私に心を向けず、その瞳が私を捉えていても捕らえることはない。
こんなに近くにいるのに、遠い、遠い距離を感じた。
私はいつも自分本意で、足を引っ張って、役に立つこともできない。こんな自分が嫌い。
貴方はみんなに愛されて、誰かの役に立って、私は…。
ずっと考えていたある日、私は動けなくなった。
外にも出られなくなって、色んなこと、貴方のことも思い出として胸に刻んだ。
でも、貴方が来てくれるようになった。
「そばにいるから」って、いつも言ってくれた。
まるで貴方との距離がなくなったようで嬉しかった。
その瞳は私を捉えて…………あれ、どうして私は捕らわれているのかしら。
どうしていつも近くにいられたの?
病院ですらないここは?どうして外に出られなくなったの?人の"足を引っ張って"何をしてるの?
どうして良い人柄が妄想なの?一目惚れじゃないのに。
貴方との距離は無い。心を背けてたのは私だったのね。
貴方がすぐ後ろにいる。誰か、助け
【泣かないで】
教会で一人、とある少年が泣いていた。
「ああ神様、私は懺悔することもできない。この罪を背負ってどうして生きていけましょう」
少年はその教会の神父に恋をして、その罪に誰もいない時間、一人で祈りを捧げて泣いているのだった。
「あら、貴方、毎日ここで祈りを捧げてえらいわね」
シスターが入ってくる。少年は耐えきれなくなってシスターにすがりついた。
「シスター様、僕は、僕はどうすればいいのですか。」
堪えきれなくなった涙と言葉が溢れでた。
シスターは静かにそれを聞いていた。
少年の慟哭が教会内に響いた。
時間が経ち、少年が落ち着くとシスターは言った。
「私もね、神父様が好きなの。」
目を丸くする少年にシスターはいたずらに笑う。
「禁忌の道も、光のない道も、二人で行けば怖くないでしょう?迷える子羊よ。神様だって疲れたら眠るわ。」
だから泣かないで。誰も私達の罪は分からない。
その言葉に少年は救われた気がした。
次の日からシスターと少年の下らない小競り合いが始まった。少年は実に楽しそうで、もう泣かなかった。
何も知らない神父は二人の節操のなさに呆れ説教しながらも、陰では微笑ましげに笑っていた。
【終わらせないで】
私の人生の主人公は私じゃなかった。
短編集のように、男女関係なく、いつも惹かれた誰かが私の人生の主人公だった。私はその中の群衆の一人。
ある日、一際大きく輝く主人公が現れてしまった。
心から好きになってしまった。
人間としての好きではなく、恋をしてしまったの。
私はいつもその人を目で追いかけた。彼の見る世界、考えること、全てが素敵だった。
でも、彼には想い人がいた。相手を探ると、かつての私の中の主人公の一人だった。
彼女が主人公の物語は、誰かと結ばれてハッピーエンドになったつもりだった。でも、違ったのね。
ああ、彼女にも彼との新しい恋が始まるのかしら。
二人が主人公なら、きっと素敵な物語になるはずだわ。
だから、泣かないで。群衆の一人なんかの為に。
彼女の昔の想い人、ストーカー化したその人から、二人を庇ってこうなったこと、誇らしく思っているの。
とても痛くて苦しかったけど、この苦痛は勲章よ。
『二人の幸せな物語を終わらせないで!』
叫んだこと、少し粋がった言葉だったわ。恥ずかしい。
「神様…終わらせないで……大切な友人の命を……」
そう言って泣く二人の声が最後に聞こえた。
ああ、なんて幸せなんだろう。私は彼らの人生では群衆じゃなかった。これは物語なんかじゃなかったのね。
【太陽の下で】
雲ひとつない晴天だった。
私たちは一面に敷かれたような草原の真ん中で、馬鹿みたいにはしゃぎ回った。
私たちはずっと一緒だった。集まろうなどと号令をかけずともいつも一緒にいるような。
鬼ごっこからピクニックなんて、遊び方が変わっても、私たちの関係は変わらないと信じていた。
信じていたからショックだった。
始めからそれぞれの道が分かれていることが嫌だった。
分かれていても、ひとつ同じ道を行くと思っていた。
一人は昇進し、一人は結婚し、一人は夢を追いかけ、一人は…一人は…。
そうやってみんなの道を行く背中を見送り続けて、私は現実を受け入れられずに分かれ道の真ん中で立ち尽くしているだけだった。
だからせめて、誰かが戻ってきた時、一人にならないよういつでも帰ってこれる居場所であろうとした。
誰もここに帰らないと分かっていても。
私は今まだ、こうしてここに立っている。
遊び場の草原でさえ変わっていってしまっていた。
それでも私は、みんなを祝福して一人笑う。
皮肉みたいな青い空、輝き続ける太陽の下で。