n.

Open App
6/18/2024, 9:26:15 AM

あいまいな空/

曖昧な空を背に映るのは
あいまいな君の顔。

空模様がちがったら
君の心は変わっていたかい?

僕は君が笑ったのを一度だけ見たことがある。

君は言った。
もう、生きるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃうわね。

理由を尋ねると

だって私達最後は死ぬでしょ?
あの世にはなんにも持っていけないのよ?
なのにどうしてこの世界は欲で渦巻いているの?
私にはわからないわ、と。

僕は短絡的な頭でこう答えた。

最終的にはそうかもしれないね。
なんにもならないかもしれない。
だけどさ、用を足したいからって物を食べる人間はいるのかい?
用を足すために物を食べます!なんて言ってる人がいたら出てきてほしいもんだけどねぇ、と。

そしたら君は一瞬、間をおいて
ふふっと笑ったんだ。

そうね、死ぬために生きてるんじゃないわね。
今だけ、一瞬だけでも幸せなら最後にはなんにもならなくてもいいのかもしれないわね。

そして君は頬を少し緩めながら
グラスのお酒をさらりと飲み干した。

写真を撮ったのはその前の晩だった。
今日という日に撮っていたなら。

君は今でも僕の隣にいてくれたのだろうか。

あいまいな空模様。
もう一度だけ君の笑顔に触れたい。



好きな本/

わたしの好きな本は
教えたいけど教えたくない、そんな本。


1年前/

1年前を強く認識するには
1年後を見据えて今日という日を
意識して生きなくちゃいけない。

そんなの毎日なんて続くはずないから
わたしは1年前というのを強く認識できたことは一度もない。

いつ何をしていたかなんて日記でも
付けない限り覚えている訳が無い。

わたしの頭の中は1年単位で区切られている訳じゃなく生まれてから死ぬまでが1単位だからだ。

わたしにとっての恐怖の言葉は
去年の今頃何してた?である。

昨日のことすら
思い出すのに苦労するというのに。

そしてわたしは答える。

あー
多分そんな感じだった、かな?
多分ね?

納得できてなさそうな周りの顔は
無視するとしよう。



未来/

未来から贈られる物は今のところ
非科学的な人らの言葉だけ。

予言者、霊能力者、超能力者、

宇宙の謎くらい興味深いが
わたしが生きているうちに解明はされないだろう。

そもそも未来なんてものあるのだろうか。

そんなものただの幻想で
あるのは今だけじゃないだろうか。
そして歩いてきた道を過去と呼び
認識できるだけのこと。

今は未来をつくるものじゃなく
来た道を振り返る為だけにあるとしたなら。

未来の為の最善の選択より
過去の為の最善の選択をするほうが
なんだか現実的で楽に感じられる。

未来に希望を抱くのではなく
過去に納得できるように
今を生きてみようと思う。

6/11/2024, 12:44:05 PM

街/

心に街を作るのか。
それとも町を作るのか。

自分がどっちであれ、
違うまちに触れた時、
共感は出来ずとも理解していけたなら
地球と言う名のまちは繁栄していくのではないだろうか。

今日も町はあたたかく緩やかに朝を迎える。
今日も街は厳しくも活気に溢れ朝を迎える。



好き嫌い/

君の好きな歌を口ずさむ
君が好きだって言ってた映画を観る
君の口癖を真似る
君の仕草がうつる
君と歩幅を合わす
君の目線の先を追う

どこかでわかってた

卒業間近、
君はあいつが好きな歌を口ずさんで
マフラーに顔をうずめながら
頬を赤らめて笑った

あぁ、
もう君の歌も映画も口癖も仕草も
全部全部大嫌いだ

後ろを振り返った君は
キョトンと不思議顔をしている

僕は君を見ていることができなくて
目線をゆらゆらと歪んだ地面に落とし
乾いた地面を濡らしてゆく

君は僕の近くに来て
大丈夫?と小動物みたいな目で見つめてくる

あぁ、だめだ
この手で君を抱きしめられたのなら

僕は力なく垂れ下がった両手に力を込めるしかなかった


あじさい/

移り気なあなたに送るには
ぴったりなお花ね。

あなたはどこまで辛抱強くいられるかしら。

わたしは冷酷な女だもの。

昔のわたしはピンク色の紫陽花だったけれど。

今はもう青くなってしまった。

あなたがわたしを変えてしまったの。

だけど何故かしら。

この時期になると無性にあじさいが
見たくなるの。

ポツリと降る雨の中、
顔を隠すように傘をさし
そっとあじさいを見にでかけるの。

辛抱強いのはわたしの方かもしれないわね。

今年もあなたのお墓には
あじさいの花を置いていきます。

ほんの少しの憎しみと愛情を込めて。

6/11/2024, 1:31:45 AM

やりたいこと/

やりたいことを運良く見つけられ打ち込めているというのはとても素敵に思われる。

しかしそんな人ばかりだろうか。

やりたいことが見つからず何もしないのはいけないことか。

呼吸をしていたらそれは呼吸をしているのであって何もしていないとは言えない。
それを呼吸をしているだけと捉えるのか、呼吸をしながら何かを見て匂いを嗅いで音を聞けるじゃないかと捉えるのか。

人間は思考をいかようにも動かせるものだ。
そこに本物の豊かさがある。

同じ毎日、同じ景色のように思われるが絶対に違うということに気付くのだ。あらゆることに。あらゆる角度から。深く思考し続けるのだ。

映画を観ても、本を読んでも、曲を聴いても、
誰かが何かに打ち込んでいるうちに、
早く思考を深めるのだ。そのための時間だ。

やりたいことが見つからない時間があるということは
考える時間を与えられている、
考えられる頭をもって生まれたということだ。

誇れ。時間があることを。暇があることを。

時間に追われず生きていきたいのならば
欲を何か手放さなくてはいけない。

お金か。家か。物欲か。食欲か。睡眠か。体力か。プライドか。

時間がほしいのならば、落ちるところまで落ちる覚悟が必要だ。

落ちたくない恐怖から今ある見せかけの物理的な豊かさに人間はすがりついてしまうものだ。

何も失いたくないのならば歯を食いしばり前を向く他無いのだが。

わたしはこの頑張りというものがどうも苦手である。

頑張れなんて言われたものなら、瞬く間にやる気の炎は鎮火し萎んでいく。

なぜ謙虚に心ばかり応援しています、と言えないものか。
願いを込めた掛け軸にそっと手を合わせ祈る方がよっぽど尊いでは無いか。
心の声は伝えるものではない。伝わるものだ。

わたしは捻くれ者である。

弱い自分を許してはいけないだろうか。

しかしこんな人間もいるのだ。わたしだけでは無いはずだ。

きちがい、怠け者、弱者、甘え、
色々と言われても構いやしない。

誰かが持っていないものを持っている。

優しさ、共感、慈悲、思いやり、
見せかけだけじゃあない。

それを本物にしていく、魂を磨いていくことこそ、
わたしのやりたいことなのかもしれない。

わたしは呼吸をしているだけか。それとも。

6/9/2024, 11:14:03 PM

朝日の温もり/

朝日は穏やかそうな顔をして凄まじい。
暗い中に一粒灯る温もりの方が心地よい。
わたしに朝日は少しばかり眩しすぎる。

ある寒い冬の夜のこと。
コンビニでおでんを買ってきたはいいものの
お箸をひとつ、と言うのを忘れたことに気がついた。

あぁ。あそこの店員さんは言わないとくれないんだよなぁ。やってしまった。と小さい後悔をしながら仕方ない、と自分に言い聞かせ袋をガサゴソと漁る。

しかしお箸はきちんとそこにあって
ご丁寧にセロハンテープでとめられていた。
乱雑ではなく、綺麗な切り口で。
まるできちんとリボンがけされたプレゼントみたいに。

わたしは店員さんから
あなたのことをちゃんと気にかけていますよ、
と言われているようで胸が温かくなった。

こんなホタルみたいな温もりが好きだ。

じわりと沁みてくるような。

恩着せがましくなく、受け取りやすい。
そんな温もり。

わたしは誰かにそんな温もりを
与えてあげられるだろうか。

そしてあわよくば少しずつ朝日の温もりも
受け取れるような自分になりたいとも
思ってはいるのだが。

まだまだ先は長そうだ、と今日も
朝日が漏れ出るカーテンを申し訳無さそうに
ゆっくり閉めるわたしなのであった。




岐路/

岐路に立つ瞬間というのは

物凄く真剣な時か
物凄く恥ずかしい時の
どちらかなのでは、と思う。

前者でいえば
会社の命運をわける選択だったり、
結婚をするか否か、だったり、
その後の人生がこの選択で変わってくるかも
というような時、人は真剣に岐路に立っている。

では後者とは。

後者のほうがつらいもので、
運が悪ければ選択肢すら無いことも多い。

例えば電車に乗っているとしよう。
次の駅に止まるにはまだ時間がかかりそうだという時、
急にお腹に激痛が襲ってくる。
そんな時に限って急行だったりもする。
そして君は岐路に立たされる。
このまま次の駅まで我慢するか、いやもう我慢できそうにないほど、濁流のように押し寄せてくるソレはどうすることもできない。冷や汗を拭い、どうするどうする、とめまいをさせながら考えを巡らすが整理できない頭。

選択肢が無い方の岐路に立たされるのは
耐え難い苦痛である。

人間とはおもしろいもので
その耐え難い苦痛を乗り越えた安堵や
達成感というものは、
羞恥を晒さなくて助かった、という
後者の方が一瞬上だったりするのである。

6/8/2024, 4:25:36 AM

世界の終わりに君と/

僕は告げなかった。
君に最後まで笑っていてほしかったから。

なんて。

君の笑った顔を僕が見ていたかったんだ。

恐怖で歪んだ顔なんて見たくなかった。
それが最後だなんて、、

僕は逃げるように君を恐怖から遠ざけた。
君は子供のように僕のあとをついてきたね。

必死だったんだ。
君の笑顔を守るために。

君の望むことは何でもやったよ。

射的がやりたいとはしゃぐ君に
僕は何度でも付き合った。
どうしても倒したいという駄菓子を
無我夢中で狙う君を僕は眺めていたんだよ。

歌うのが苦手な僕だけど何時間でも付き合えた。
君と居ると時間が泡のように消えるんだ。

リズムを取りながら踊る君を
楽しそうに歌う君を
僕は気付かれないよう横目で見ていたんだ。

電車に揺られながらうとうと眠る君を
僕の手を繋いで眠る君を
抱きしめて壊したいと思った。

壊したいけど壊したくない。
そんな矛盾を抱えながら僕は
一睡もせずに君の横顔に見とれていた。

気付かれないように
細心の注意を払いながらチラチラと
目に焼きつけていたんだ。

君の仕草に、言動に、表情に、
全て、なにもかもに、夢中だった。

電車に揺られてどのくらい来ただろう。
窓の外にはどこまでも海が広がっていて
君はここで降りる!と突然言って。

君の気まぐれさには困ってしまうよ。

僕は行く先々、すみません、と頭を下げているのだけれど、君は全くそんなことお構いなしに踊り続けて行ってしまうんだ。ひらひらと。

今日だって今だって。

走り出す寸前のバスを君は
すみませーん!と小さな体と比例しないほどの大声で、
乗ります乗りますー!と両手をあげ
全身で訴えかけている。
そして閉まったドアをもう一度開けさせるという
荒技をいとも簡単にやってのけてしまった。
君は魔法使いか何かなんだろうか。
こんな場面を僕はもう何度も目にしてきた。
そこに厚かましさが無いというのがなんとも不思議で。

僕は普通の人間なので
すみません、と顔を隠したくなるのだけれど
隣に座る当の本人は
ふぅー。乗れてよかったね!
なんてとびきりの笑顔で
呑気なことを言うもんだから参ってしまう。

そして君はしばらく窓の外をうっとりと眺めてたかと思うと、はたと突然、
降ります!ここで降ります!
なんて言うもんだから僕の心臓は飛び上がりドクドクと鼓動を速める。
そしてまた僕はすみません、と顔を隠しながら足早にバスを降りるのだった。

ふたりで海沿いをとぼとぼと歩いていく。
どこまで続いてるのかなー?
なんて君は無邪気に言いながらくるくると回る。

潮の匂いや鳥の鳴き声
心地よい風の音、そして君のぬくもりを
繋いだ左手から静かに感じていた。

僕はこの幸せが永遠に続くような気がしたのだけれど
世界は君みたいに忙しないみたいだ。

それは突然のことだった。

もやもやと怪しい雲が立ち込め
ぽつりぽつりといよいよ雨が降り出した。

そのうち豪雨となりけたたましく
雷の音がごろごろと鳴りだした。

君は驚いていたけれど、
旅にハプニングは付き物だよね、と
笑顔でびしょ濡れになった前髪をかきあげ
お化粧が取れちゃう、なんて顔についた
大粒の水滴を払うのであった。

僕はね、気付かなかったんだよ。

君は無邪気に見えて、何も考えてなさそうに見えて
何でも知っていたんだね。
やっぱり君には敵わない。
底しれない君の魅力は何なんだろうと
思っていたけれど、それは弱いところを誰にも見せない強さだったんだ。

最後の最後まで君は笑っていた。

木々が次々なぎ倒されても、
耳をつんざく様な音に苛まれても、
吹き飛ばされそうな豪雨に見舞われても、

君は自分よりも他の人の為に笑っていたんだ。
それが君の生き様だったんだ。

最後の最後にわかったんだよ。
遅かった。遅かったね。

君の肩が震えるからさ。
僕はこれまで以上に強く願った。
君から恐怖が無くなりますように、と。
強く抱きしめたんだ。壊れるくらいに。

君を抱きしめながら感じていた。
君は笑いながら泣いていたんだ、と。

顔は見れなくとも、最後に君の心を
抱きしめてあげられたのかな。

なんて。

そんなのは僕のうぬぼれかな。

だけど確かに君の心を感じた。

世界の終わりに、君を理解したんだ。

君の肩の震えが止まりふぅと魂が抜けたような
安堵の息を漏らした時、
僕の心も安らいで、笑みがこぼれた。

僕たちは泣きながら笑っていた。

最後の瞬間に安らぐなんてさ、笑ってしまう。

世界が終わった瞬間、
僕たちは最も美しかったんだ。

Next