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6/6/2024, 1:18:55 PM

最悪/

本当に最悪な時に
口から最悪という言葉は出てこない。

最悪じゃないからこそ
安心して口から出せる。

そんなものだ。

あぁ。また偉そうに持論を語ってしまった。

恥ずかしい。最悪だ。

6/5/2024, 1:43:38 PM

誰にも言えない秘密/

秘密ねぇ。
あったらあったで厄介なものだけれど
無いなら無いでつまらないわよね。

細い指で筆を持ったお姉さまは
紅を引きながら言う。

恋心だって心に秘めるでしょう?
お宝だってどこかへ隠すわよね。

つまり価値があるのよ秘密には、ね?

よし、とお化粧を終えたお姉さまは
鏡越しにわたしを見て微笑んだ。

おめかしして何処へ行くのですか?と聞くと

にっこりと笑い白く華奢な指を一本
そっと私の唇に当てた。

ほのかに春の花のような甘い匂いが香る。
その香りに惑わされるようにわたしは立ち尽くす。

お姉さまは着物の裾を整え
では、行って参ります。とすすすと通り過ぎ
残り香を残し消えてしまうのであった。

6/4/2024, 11:03:23 AM

狭い部屋/

それがなんだ。
空間が欲しいのは欲だ。

死んだら体が入るだけの棺桶に入れられるだけじゃないか。
それで充分ということだ。

愛する者と入れるふたり分の大きさの棺桶は無いのだろうか。
そんなことは心中を助長してしまうだろうか。

わたしのそれも欲だな。

6/3/2024, 3:52:57 PM

失恋/

本当に辛い失恋というのは
相手と想いが重なってから始まる。

彼に出会う前まで文字の失恋はしてきたが、心の失恋はしたことがなかった。

心の失恋はいっそ心臓をえぐり出したいくらいひどく痛み苦しいのである。

先日自ら別れを切り出したくせに彼の受け入れる様子にわたしはぐらぐらと動揺し、一旦は平常を装ってみたものの、すぐに床へ転げ回った。

お腹も空かず、ただただ胸の痛みに耐え、涙が頬をつたい床へ落ちていく。
だらりと死体のように倒れ込み動かなくなる体。
横向きの世界は縦向きの世界より落ち着いたが痛みは消えず増すばかり。

何の気力も生まれずろうそくの炎は勢いを無くしていく。起き上がることすらできず、わたしはこのまま死ぬのではないかと思うほどに力を失っていた。

動作が遅くなり何もしてないのになんだか疲れ果てて目を閉じる。心臓の鼓動がだんだんと弱まっているような気さえしてくる。

今のわたしが頼れるものと言ったらアルコールしか無かった。

冷蔵庫まで命からがら這いつくばって辿り着き、普段飲まないビールに手をかける。
冷たくなった缶ビールはやけに重たく現実味があった。

飲む動作だけはかろうじて出来るようでグビグビと涙と一緒に一口、また一口と飲み込んでいく。

目を閉じ思い出すのは彼のことばかり。
彼の優しさだけが思い出され、あたたかい彼の笑顔や面影だけが映し出されていく。そしてまた泣けてくるのだ。
わたしはなんと愚かなことをしたのだと自分を悔いた。
失ってから気付くなんてよく言うがそんなこと、と嘲笑していたわたしだが、当事者になった今、馬鹿にしていた自分を悔いた。

アルコールを飲んで余計にぐちゃぐちゃになった心と顔でもうどうしようも無くなり、もう遅いかもしれないが彼と話したいと思った。彼の声が聞きたいと思った。

まだ話したいことがあるので時間がある時に連絡ください。

そうメッセージを送り、彼からの返事を期待しないよう待ち望んでうなだれていた。

意外にも彼からすぐに電話が来て、わたしの想いは吐露できることとなった。

ごめん。無理、なの。ごめん、もう、本当に、無理なの。

泣きながら吐き出される綴られてない途切れ途切れの言葉達に彼は
泣いてんの?といつもより少し低めの声で呟く。
わたしは精一杯気持ちを伝えた。

彼は静かに耳を傾けてくれている。

今気付いたの、こんなに好きだって。あなたがいないと無理だって。こんなに支えられてたんだって今わかったの、遅いよね、自分から言っといて、、うぅ、、、ごめん、でも無理だよ、あなたがいないと無理。なんにも手がつけられなくて、もう無理なの、本当に、うぅ

時折、嗚咽しながら吐露する私の言葉に優しくも少し悲しげに、彼は静かに聞いてくれていた。

そして彼もぽつりと話し始める。

俺は好きだった、精一杯まっすぐに伝えてきたつもりだった。だけど全く伝わってなかったんだということがわかって、悲しくて、気持ちに蓋をしてしまった、と。
昨日、今日で好きな気持ちが無くなることはないけれど、正直わからない、と。

そう。彼はいつも素直でまっすぐで嘘がつけない人だ。
そんなところも大好きで、なのになぜ信じられなかったのかと自分を切り刻んでやりたいくらいに後悔の念が押し寄せ、押し潰されている。
わたしはその正直な言葉に突き刺され心臓から血が流れ出てくるような痛みを感じていた。
それは代わりに涙と嗚咽となって流れ出ていく。

間違えた。わたしは間違えたのだ。
取り返しがつかない間違いを犯したのだ。

うぅ。会って、話、が、したい。

そう泣きながら何度もわたしはお願いをした。
魂からの必死の訴えに、彼はしぶしぶ、わかった、と了承をくれた。

その瞬間またわたしの体に徐々に血が通っていく感覚がして力が戻ってくる。

ありがとう、と感謝して電話を切った。

よかった。また会えることになって本当によかった。
とまた泣けてきて声をあげ涙を流すのでした。


彼が来るからと部屋の掃除をしながら日中をやり過ごし、日が沈んだ頃、
ピンポン、と室内にチャイムが鳴り響く。
緊張と嬉しさを胸に隠し扉を開けると、そこには仕事を終えた彼が立っていました。

思わず彼の手を手繰り寄せグイグイと玄関の中へ引き入れていく。
戸惑い少しよろける彼に嬉しくて切なくて心臓がぎゅうと締め付けられ泣きそうになる。

ごめんね。
わたしの口から最初に出た言葉はこの一言でした。

そして電話で話したようなことを今度は落ち着いて丁寧に彼に伝えていきました。

わたしは気持ちを言い、彼は真剣に聞いてくれ、
彼も気持ちを言い、わたしは聞きました。

そんなやり取りを繰り返し、
最後の最後に、彼はぽつりと

「蓋、外れた、かも」

と細く小さく呟いた。

その瞬間、一斉に点くイルミネーションのようにわたしの心はみるみる明るくなり、視界がひらけ、世界に色が戻っていく。

あなたはいつもたった一言で
わたしの心の霧を一瞬で晴らしてくれる。

あぁ、やっぱりあなたしかいない、わたしの世界を明るく鮮やかにしてくれるのは彼しかいない、そう強く確信し、涙が溜まったぼやけた瞳で彼の目を見つめた。

彼に引き寄せられ抱きしめられた瞬間、心から安堵し、我慢していた涙と気持ちが溢れ出て止まらなくなり彼の肩を濡らした。

彼は優しく、時折強くわたしを抱きしめ、わたしの気持ちを余すことなくすべて押し出してくれた。


わたしは今日、はじめて
本当の失恋というものを知った。

そして今日、はじめて
本当の恋をしていることにも気がついた。

彼の優しい腕に抱きしめられながらもう絶対に離れないと誓った。どんな時もどんな事があっても彼を信じると誓った。
今なら神父さまの誓いますか?の言葉に、
心から、はい、と言えそうだ。


失恋はひどく痛くて苦しいものでした。
わたしには一日も耐えることができないほどに。


彼の腕越しに見えたテーブルの上の飲みかけの缶ビールが薄灯りにぼんやりと浮かぶ。
しかしもうとっくにぬるくなり力を失ったようだった。

6/2/2024, 5:41:50 PM

正直/

自分本位な正直者は言う。
あいつなんか調子乗ってて嫌い。
あの絵の何がいいのかよくわかんない。
なにこの味、なんか不味い。

思いやりのある正直者は言う。
私とはノリが合わないだけなのかもしれない。
あの絵はどういう意味なんだろう。
初めて食べる味、何か入れて味変してみようかな。

両者に嘘はない。
しかし思いやりが無ければそれはもはや正直者ではなく愚か者である。

そんな者に限って
嘘つけないからさ、などと得意げに鼻を鳴らす。

マイナスなことを極力プラスにしようと努力し捉えようとする人は言葉を繊細に使います。
自分の気持ちを嘘偽りなく、かつ正直に良く伝えられる人は思いやりがある頭の良い人です。

あぁ。私は頭が良く思いやりのある正直者でありたい。


___________________

梅雨/

今宵は泡のように淡く儚く美しかった。

やけに現実味を帯びたあじさいが朝焼けを浴びている。
わたしは静かに目を閉じる。
両手を広げ息を一息吸い込んだ。
雑味のない空気が鼻の奥を一瞬刺激する。
なぜか泣きそうになり空を見上げた。

はたから見たら変人だろうな、とよぎったが今だけは浸っていたかった。

足元も口元も目元も緩みきっていた。

朝のコンビニは車が出たり入ったり忙しそうに稼働している。
ふと、停まってある車の中から目線を感じたので
そちらに顔を向けると、ガラス越しにおじさんがこちらをじっと眺めていた。
わたしはアイドルのようにニコニコして見せた。
じっと目を見つめ狂気とも言えるとびきりの笑顔で。ドギマギして目線を逸らしたおじさんの前をふふんとした態度で横切る。
決まった!というよくわからない感情と同時に転ばなくてよかったとも思った。

わたしは今、無敵だ。誰にも覆せない幸せの中にいる。



昨晩はとても良いお酒であった。
大好きな彼と知り合い夫婦の生まれたてホヤホヤ赤ちゃんを一目見にお邪魔させてもらい、皆でお酒を嗜んでいた。彼と私が良い仲だとは誰も知らない。
小さな手、小さな足、くるくると変わる表情、そんな赤ん坊を見つめる夫と妻。
愛らしい以外の言葉が見つからないほどしっくりと愛らしいと感じていた。わたしは時折こっそりと彼を見つめた。すぐ隣に座る彼の手に触れたくなったが近くに置くだけで我慢した。
ほろ酔いの入口でそろそろ、と夫婦宅を後にする。妻と赤ん坊の余韻を漂わせながら、我々のみっつの影は街灯に照らされていた。これから始まる宴の夜にゆらゆらと揺れ、伸びて。

電車に揺られ一駅先で待つ友人と落ち合わせた。友人はまだ酔っていない様子でしかし笑顔はもうすでに酔っているかのような笑顔だ。
よっつになった影は飲み屋街のギラギラと眩しい光に消えしっかりとした姿を映し出している。
ガヤガヤとした大衆居酒屋にガラリと入り、何人ものスタッフの威勢よい出迎えを受ける。
夫、彼、私、笑顔の友人の順に列をなす。
奥に夫、手前に彼、と、テーブルを挟み向かい合わせに座るふたりにわたしは迷い困っていた。流れ的に奥に座るのが普通だが手前の彼を通り過ぎることに躊躇していた。彼の隣に座りたかったのだ。
困る私にこっちに座れば、と彼は助け舟をさらりと出す。
不自然に彼の横に座ることになったが内心安堵し喜びに胸を躍らせていた。
夫くんは不思議そうな顔を一瞬見せたがすぐにメニューへと目線を落とす。
笑顔の友人はやはり笑顔だった。

第二幕が開始され徐々に解きほぐされていく心に誰もが気持ちよくなっていた。
チンチロゲームをして倍のジョッキがドカドカ届く。途中で信じられないほど濃いお酒が届いた。どこにでも怖い先輩というのはいるもので何度も同じ事を聞きづらいということはどこかで経験したことがある人も多いだろう。
最近入った新人がそんな怖い先輩にお酒の分量を聞けなかったのではないだろうか、と憶測で大いに笑った。
最初は近況やら趣味やらの現実めいた話だったのがお酒と共に徐々に輪郭を失った話へと移行していく。内容の無いくだらなさが一番笑えて面白い。あれ、なんで笑ってたんだっけ、と思い出せないくらいが一番面白い時だ。
空いたグラスやお皿で埋まっていくテーブル。店員さんは相変わらず忙しそうで威勢が良い。

時折その店員さんも巻き込んだりして、いよいよ腕相撲などという力比べ大会が始まった。おぉーという興奮の声をかわきりに、勝った、負けた、とコロコロと表情を変え夢中になる大人たち。赤子に負けず劣らずだ。
そんな一体する空気がなんとも心地よく、わたしは静かに微笑み見守っていた。

アルコールの入った脳というのは面白いもので普通では躊躇するような事がひょうひょうと出来てしまう。

その居酒屋には壁にびっしりと店員さんが考えたであろうポエムらしきものがいくつも貼ってあるのだが、そこから突如五七五大会が始まった。

人は大会が好きなのだろうか、、、

各々笑わせるような五七五の言葉を綴る中、
わたしは立ち上がる勢いでこう言い放つ。

「忘れない、このひとときを、忘れない」

どうか皆様、空気の読めないわたしをお許しください。笑いでは無く、本心を言いたくて言いたくて仕方が無くなったのです。と心の中で呟いた。

本気で思い、本気で噛み締め、心の底から出た渾身の言葉は周りの陽気な笑い声と活気に煙のようにうやむやになってしまったが私は本音の言葉が出たことに満足していた。
まぁあわよくば、煙を誰かが吸い込んで少しでも体に残ってくれたら、とも思ったが。

楽しい時間はいつまでも垂れ流せない。大人になると尚のこと。終わりの気配に少しずつ平常な顔に戻っていく私たち。冷めているのではなく、冷ましていると言ったらいいだろうか。
夢から現実に引き戻される瞬間。
これほど嫌な時間はない。

いつの間にか彼が会計を終え、知らない同志達に手を振り会場を後にする。
皆でタクシーに体を滑り込ませ、余韻の中に浸り揺られていた。

バタン、笑顔の友人が笑顔で帰っていく。バタン、夫が妻と子の待つ家へ帰っていく。

急に静かになった車内になぜだか緊張が走るがずっと望んでいたように心地よい。そっと繋がれる手。運転手さんが気付いているのか気付かないふりをしているのか分からずドギマギしていたわたしだが、次の瞬間にはもうどうでもよくなっていてただ心が熱くなるのを感じていた。

バタン。タクシーの扉が閉まる。
その音と共に私の熱は6月の寒空の風がひやりと静かに冷ましてくれた。

ふたつになった影がくっついたり離れたりしながら夜道を歩いていく。
人通りが無いことをぼんやりと確認した彼は少し強引にキスをした。
あぁ。また熱があがってしまう。6月の風では冷ませないほどに。



バタン。
冷蔵庫を閉じる音に愛しささえ感じてしまう。
「何か飲む?」「うぅん、飲みたい」
彼があまり飲まないことを知っている。半分より気持ち少なく入れた緑茶を彼は美味しそうに飲み干した。

もうすでに外は明るく閉められたカーテンの隙間から日が漏れている。
薄暗い部屋、ぼんやりとした頭で彼の顔を眺めた。

別れ際に余韻は無い。余韻を感じるほどの余裕は無く、心がいっぱいに満たされ隙間が無いのだ。

少し微笑んでまたね、と言い、彼は車の影に身を
落とし帰っていった。

道路に薄っすらとひとつの影が動き始める。

色味のないコンクリート、錆びた手すり、剥がれた止まれの文字、少し重い体で歩を進める。
ようやく余韻に浸っていると、そんな暗い色味の中、急に視界の端に現れたあじさいにはたと目がとまり立ち止まった。
あじさいはしっかりと色彩を放ち確かにそこに存在していた。

、、、綺麗だなぁ

朝露に濡れたあじさいは汚れが落とされ凛と清らかに咲いていた。

あぁ。幸せだ。わたしは今幸せだ。
余韻では無い、確かなことだった。

バタン。
コンビニで色々買い込んだビニール袋の音が玄関が閉まる音と重なり、歩くと袋の音だけがやけに響いた。

ガサガサとレモンティーを取り出しゴクゴクと思いきり喉を潤す。

少し開いたカーテンの日に照らされたレモンティーがキラキラと光っている。

あぁ、おにぎりも買えばよかったな、そんなことを思いながら新しく買ってきたタバコに手を伸ばした。

ふぅと煙を吐き出したところでぼんやりとさっきのコンビニの光景を思い出す。
浮かれていたな、、、と少し身を縮めたくなった。

ところであの車のおじさんは今頃になって恐怖しているのだろうか。

幸せに満ち満ち溢れたわたしの笑顔と喜びの舞に。

そんなことが頭をよぎり、わたしはたまらなくおかしくなってふっと笑ってしまうのだった。

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