誰にも言えない秘密/
秘密ねぇ。
あったらあったで厄介なものだけれど
無いなら無いでつまらないわよね。
細い指で筆を持ったお姉さまは
紅を引きながら言う。
恋心だって心に秘めるでしょう?
お宝だってどこかへ隠すわよね。
つまり価値があるのよ秘密には、ね?
よし、とお化粧を終えたお姉さまは
鏡越しにわたしを見て微笑んだ。
おめかしして何処へ行くのですか?と聞くと
にっこりと笑い白く華奢な指を一本
そっと私の唇に当てた。
ほのかに春の花のような甘い匂いが香る。
その香りに惑わされるようにわたしは立ち尽くす。
お姉さまは着物の裾を整え
では、行って参ります。とすすすと通り過ぎ
残り香を残し消えてしまうのであった。
6/5/2024, 1:43:38 PM