maturika

Open App
9/10/2024, 11:33:31 AM

よく胸に穴が空いたような喪失感、とは言うけれど。
大切な人が死んだ時、悲しくて空しくて、どこか寂しさを感じたりして。そんな風に思うのだと、そう思っていたのだけれど。

「どう、しよ……」 

でも。


たくさん遊んでくれたおじいちゃんが死んだ時、

なんだか、全然そんな風に思えなかった。

だって、何故かは分からないけれど、胸は逆にいっぱいで、なにかが溢れてきそうなくらい張り詰めて、無くなったものなんて一欠片もないような、そんな感覚しか抱けない。これって、悲しくないってことなんだろうか。

ぼくはつめたい人なのかなっておじいちゃんのいる空を見上げた。

すっごく、すっごく悩んで悩んで。おばあちゃんに少しだけ、弱音を吐いた。

「あらまあ、そうなの。ふふ、透くんはおじいちゃんがいなくなって悲しいのね」
「違うよ。だって、ぼく……」

おばあちゃんがほろほろと笑った。

「あら、私はおじいさんが死んでせいせいしましたよ。あの人ったら『俺は死んだら天国にいく』ってずーっと、ずーっと言ってたのよ。厚かましいわよねぇ。でもきっと、おじいさんは天国にいるのよ。そういう人だもの」
「ええ?」
「ふふ、私を待っててくれるんですって」

そう言ったおばあちゃんはなんだか幸せそうで。

「みんな感じ方は違うもの。人それぞれよ」

つん、とぼくの鼻をつついたおばあちゃんはおじいちゃんのいる方を見て、眩しそうに目を細めた。

8/18/2024, 3:37:31 PM

鏡を見ているみたいだ、と言われたことがある。
私とあの子はきょとんって不思議に思った。そうかな?って首を傾げて、でもその仕草がぴったりと鏡写しになっていたから思わず笑ってしまう。

でも、確かに。

あの子は国語が得意で、私は数学が得意。

あの子は走るのが苦手なのに泳ぐのは上手い。
私は泳げないけれど走るのは早い方だ。

あの子は髪を茶髪に染めたショートにしていて、私は腰まで届く長い黒髪。

あの子は甘党で、私は辛いものが好き。

あの子は猫派で、私は犬派。

あの子は弟がいて、私には姉がいる。



共通点なんてほとんどないけれど、私たちは異様に似ていた。血は繋がっていない。遠い親戚でもないらしい。ただ偶然に、私とあの子の顔はそっくりだった。まるでもう一人の自分みたい。
初めて会ったときからポンポン弾む会話、何故か被る口癖。知ってる話題も同じ趣味もないのに、ただ私たちは似ていた。

「運命かな」
「必然かも」
「とびっきりのね」
「そうだね」
「次、どこいく?」
「どこにでも」
「水族館は?」
「動物園じゃなくて?」
「そっちも良いな」
「水族館も魅力的」
「どっちも行っちゃお」
「どちらも行こう」

どっちがどっちを話しているのか、とか。話が堂々巡りだよ、とか。そういうのを全部無視して、私はあの子と話す時間が好きだった。


ねえ、運命の貴女。私たちって前世では双子だったのかな。もしそうなら、来世もきっと会えるよね。貴女のことを忘れるなんて考えたくもない。会えないなんて想像できない。

ね、だからさ。

例え鏡の向こう側にいたって見つけてみせるから、どうか私のことを覚えていて。

7/17/2024, 6:52:52 AM

6,「空を見上げて心に浮かんだこと」

 空を見上げて雲を見ても、「あ、雲だ」としか思えない。ここで「ソフトクリームみたい」とか「犬みたい」とか、そんな風に思えるような情緒がない。
 そう君に言った時。つまらない人生ね、なんて笑われた。君は得意だったから余計にそう思えたんだろう。自分でも嫌になるくらい実感してるから笑わないでよ、なんて言い返した。

 ねえ、もしも僕がそんな風に不思議なものを信じたり、架空のものを見出せる感性があったらさ。君と釣り合うくらい、豊かな人間性ってものを持っていたらさ。
 
 神さまは君を連れて行ったりしなかったのかな、なんて。普段は信じてもいない神さまを恨んだよ。

7/16/2024, 7:25:00 AM

 5,「終わりにしよう」

 剣の切先を向ける。国中の願いと呪いを背負って、魔術師たちが文字通り命を込めて作り上げた剣。ひどく重いけれども、この剣がなければ倒せない。恐ろしい魔王は倒せない。

「……」

 男とも女とも、老人とも子供とも、そもそも生きているのか死んでいるのか。全ての情報が遮断された存在。人類の敵。その被害は人類だけに留まらず、植物や動物にまで及ぶ。長らく恐怖の象徴であった魔王を倒すために、今日、人類は技術の結晶を勇者に託した。

 ただ、何故か。

「──終わりにしよう、魔王」

 僕には君が、泣き出しそうなただの女の子に見えたんだ。

7/14/2024, 1:49:47 PM

4,「手を取り合って」


「逃げちゃおっか」
 そう言って手を取ってくれた君は悪戯が成功したみたいに笑っていて、怖さとか不安だとかそういったものが全て吹き飛んでしまった。

 どうせ逃げられないよ、って言おうとした。また大人に怒られちゃうよ、って言いかけた。
 なのにさ、ぜんぶを包み込んで安心させるみたいにぎゅって手を握られて。それじゃあもう君についていくしかないじゃんか。辛い現実に背を向けて、たった二人で逃げ出すのも悪くない。

 どこへ行こっか。パンケーキとか食べてみたい。海も見に行こう。図書館とか。いいね、かき氷も食べたい。可愛い服買おうよ。ピアスの穴も開けてみよう。学校の文化祭覗きたいな。映画も見てみよ、甘ったるい恋愛映画!
 やりたいことがぽんぽん出てきて、未来がきらきら明るく見えて、そうやって二人でくすくす笑った。何だって出来る気がした。無敵になった気がした。


 ねえ、もし神さまがいるなら。膨らんだ夢が弾けてしまう前に。まだ二人ぼっちでいられる内に。時間を止めてしまってよ。この子と手を繋いでいればなぁんにも怖くないから、さ。

Next